半透明な広大な下水道
アンジェラは俺たちの潜む建物入口近くで、大柄な中年女性のヒトを紹介し始めた。
「ビャクダイインジさんよ。侵攻会社でお掃除を担当していた方ね」
「これでも正社員です!いやー五十年も経ってて、息子も娘も結婚してるとはねえ。でも国と会社から補償も出るし、文句言えないねえ」
ビャクダイインジと呼ばれたヒトは上機嫌にアンジェラを見て、苦笑いされ
「申し訳ないですが、お話した通り、救出業務を手伝ってくださいね。この方は魅了時の記憶も持っているわ」
「勿論協力しますよお。ヘコムがいる城内へ続く、隠し通路を教えましょう」
ビャクダイインジはニカッと笑って俺たちを見て来た。
ビャクダイインジを先頭に広大な城下町の人けのない狭い裏路地を進んでいく。石畳の左右には狭い水路が流れている。
「ヘコムは、悪い人間じゃないんだけどねえ。結果的に、彼にとって理想の状況ができてしまって、それを手放すのが惜しくなった感じかねえ」
歩きながら話すビャクダイインジにアンジェラが
「やはり、ヒトが大量に警護を?」
「警護っていうか、あんたなら調べてると思うけど、バアルゼバブである社長筆頭に強い女性達は魅了されちまっててハーレム状態だねえ。私みたいな中年女と、男達は修繕や掃除、警護にまわってる」
「前社長ですね。今の会社は同じくバアルゼバブの姪子さんが継いでいます」
「あー……それはヘコムの支配が解けたら大変かもね。前社長、ほら、仕事はできるけど、面倒なヒトだからねえ」
ビャクダイインジはそう言いながら、右の水路を跨ぐと建物の石造りの壁を押した。
押された壁は、大きく四角く区切られ内部へと入って行くと、自動で上へとズレていき、広い入口が出現する。黙って入ったビャクダイインジに俺達も続く。
薄暗い内部には、床から下へと続く広い石階段が延々と伸びていた。ビャクダイインジは躊躇無く階段を降りながら
「地下水路へと続く道だねえ。水路に移動用スライムが居て、その子が気に入ってくれれば城の地下まであっさり連れて行ってくれるよ」
アンジェラが驚いて
「スライムですか?」
「そう。たまーに掃除をサボる為にここ使ってて、試しに階段を降りてみたら知り合ってねえ」
リースが俺とミヤに
「多分、大きなスライムよ。ナランが連れて来たスライムみたいに、知性が高いのね」
「そういえば、あいつらどうなったんだ?」
久々に思い出した。ミヤが笑いながら
「アン王女の屋敷を作るために協力してたよ。全員で廃墟を食べまくって短時間で数区画を更地にしてた。言わなかったっけ?」
「ちゃんと働いてたのか……」
頭が下がる。
石階段を降りると、全て壁も天井も足元も半透明な広大な下水道へと出た。当然、更に広大な虹色の膜が全体を覆っているので明るいが、全て半透明な巨大構造物に水が流れていっているので、立っているだけで感覚がおかしくなりそうだ。ビャクダイインジは一切迷うこと無く進み出し、アンジェラも堂々と続くが、俺達3人は恐る恐る付いて行くしかない。
足元の下にも複雑で半透明な下水道が多数流れていっている。上を見上げると、半透明な下水道が折り重なった更に上に、大きなため池らしき水の塊も見える。平衡感覚がおかしくなるような景色の中を3人で支え合いながら進んでいくと、少し開けた場所へと出た。そこには大きなな虹色のゲル状の何かが、まるで眠るように上下にゆっくりと動いていた。
ビャクダイインジは苦笑いして
「寝てるねえ。ほら!起きな!マリオンヌ!」
ゲル状の何かはピタッと動きを止めろと、上へと盛り上がり、体表が開いて大きな1つの目玉と大口が出現したかと思うと
「ビャクちゃんかあ……お友達?」
のんびりとした低い声を出して来た。アンジェラがビャクダイインジに
「マリオンヌと言うと、ルイジアネート帝の兄の名と同じですが……」
ビャクダイインジは真顔で頷いて
「何やら神罰でスライムになったって言い張ってるんだよ。どうせ嘘だけどねえ」
大きな虹色のスライムは心外だと言った感じで顔を歪め
「ビャクちゃんさあ……言ったでしょー?僕、空を空中都市で覆い尽くそうとして、弟のルイジアネートに倒された挙句に、女神様に永久封印されたわけだよー?」
ビャクダイインジは笑いながら
「マリオンヌ、そんなことは今は良いよ。この方達はあのヘコムを討伐に来たんだよ。城まで連れて行って貰えないかねえ」
マリオンヌと呼ばれた巨大スライムは、ジッと俺達を見回すと
「……そこの金髪の女の子がいい。恐怖とか嫉妬とか……うーん……マイナススキルもすごいでしょ?穢れてて美味いと思うんだよ」
俺達が驚いているとビャクダイインジは申し訳なさそうにリースを見て
「えっとね、マリオンヌにちょっと食べられて貰えないかい?」
そう言ってきた。




