ジン・スカイストリート
……何か風がスースー吹いていて寒い。目を開けるとリースが俺の上半身を持ち上げ抱きついてきた。周囲にはミヤ、アンジェラ、シーネが座っていて、足元はギザギザの赤く大きな鱗が……。
「ドラゴンに乗って飛んでない?」
「うん……ナランが倒したソングァークよ」
唖然として周囲を見回すと、間違いなく、巨大な翼を羽ばたかせ、少しずつ暗夜を上昇していくレッドドラゴンの背中の上だった。
シーネが薄ら笑いを浮かべ言葉を発しようとするのをアンジェラが遮りながら
「ナラン君、我々はジン・スカイストリートに向かっているの」
「……えっと、暗黒地帯に呑み込まれた空中都市でしたよね」
回らない頭を動かして、どうにか思い出して言うと
「そうね。シーネさんはショートカットして、直接ヘコムを倒す道を選んだわ」
ミヤが真面目な顔で
「空中都市でヘコムは暮らしてるらしくて、そこに直接乗り込むことにしたんだ」
「まだ生きてたのか?」
もう五十年経っているはずだが……またシーネが何か言おうとするのをアンジェラが遮り
「ヘコムの持つマイナススキルの幾つかは、我々ヒトの生命力を吸い取る効果があってね。恐らくは歳すら取ってないはずよ」
シーネが突如立ち上がり
「見えてきましたよーっ!」
大声を空へと上げた。
それは暗闇の中、球状の虹色の膜に包まれた空中都市だった。石やレンガで造られた広大な土台の上に建つ、高い塔を何本も持つ古城を中心とした城下町が浮かび上がっている。城下町の下部には複雑に循環している半透明な水路や、城下町に接した長い橋を架けられたため池もある。まるで1つの街から土を丸々取り払ってそのまま浮かび上がらせた様だ。ミヤが思わず
「きれいだねー!」
声を上げると、俺たちが乗っているレッドドラゴンがウンザリした低い声で
「ヘコムの拠点だぞ……我は操られてはいなかったが、あの城には大量の魅入られたヒトが彷徨っている」
アンジェラが腕を組み
「潜入が良いと思うけれど」
シーネが嬉しそうに
「まずですねー!リース姫とソングァークに囮になって頂いてえ、我々4人が潜入するのですよお」
とんでもないことを言ってきたので、もう仕方ないと
「ちょっとごめん」
リースから離れ、シーネに手招きする。嬉しそうに近づいてきたシーネの耳元に小声で
「シーネさんのお母さん、怒ってましたよ。俺に無茶苦茶してるって」
シーネは一瞬驚いた顔になり
「……寝てる間に呼ばれてましたかあ」
珍しく困った表情で後ろ頭をかくと
「監視されてるってことですねえ。神罰もあり得る感じでしたかあ?」
よく分からないが俺が神妙な面持ちで頷くと、シーネは苦笑いしながら
「ふふーっ……わかりました。私とソングァークが囮になりましょう!後で合流しますねえ」
そう言った。
俺とリースとミヤが纏めて、翼を出現させたアンジェラの腰や長い足に掴まると、足元のレッドドラゴンのソングァークはシーネを乗せて離れていった。アンジェラは右周りに迂回しながら飛行しながら
「ふっ!」
少し力を入れ、空圧波を口から吐き出し虹色の膜の一部をあっさり破る。そして城下町の人けのない土台が崩れかけた端へと着地した。
遠くでは古城から次々に飛行しながら出撃して行くヒト達が、虹色の膜外でレッドドラゴンと激しい空中線を繰り広げ始めた。閃光が幾重にも瞬いて、レッドドラゴンの身体から炎が噴き出され、周囲には雹や落雷が無数に落ちている。アンジェラがサングラスをかけ直しながら
「……完全に囮の役目を果しているわ。ナラン君、何を言ったの?」
俺は苦笑いしながら
「いや、困るって言っただけです」
そう言った直後にリースから抱きつかれる。
「わ、私、あの人から嫌われてる……」
アンジェラがため息を吐きながら
「傭兵会社の先輩に当たるわけだから、パワーハラスメントなんだけどねえ」
ミヤは笑いながら
「大丈夫!姉貴もナランも居るし!行こー!」
呑気に人けの無い空中都市の城下町を指差した。




