補償を実行します
薄暗い中、少しシーネと集落出口で待つと
「向こう側の準備が整いましたあ」
手を引かれて、山道へと連れて行かれ
る。しばらく曲がりくねった道を左右に山林を見ながら降りてから
「あの……飛ばないんですか?」
シーネは角の生えた首を横に振り
「飛びませんよー現実側のナランさんを背負っている私とですねえ、リース姫、そしてミヤさんはですねえーふふーっ……お散歩中なのですねえ」
何となく分かってしまう。
「ああ、つまり、向こうと歩調を合わせる必要があると言うことですか」
シーネは八重歯を見せてニカッと笑うと
「そういうことになりますねえ」
上機嫌になり、歩きながら陽気な鼻歌を歌い出した。
山道を降りると、高低差のある山野に侵食された廃墟群が目の前に広がった。シーネは上機嫌のまま、辛うじて道だと分かる草木で塗れた足元を迷うこと無く進みながら
「ナランさんは、何になりたいんですかあ?」
「……職業的なことですか?」
シーネが頷いたので
「……リブラーが好き勝手改変してるから……大層な職業になってますけど……元々の俺自身は多分、物理アタッカーが一番向いてると思うし、それしか出来ない気がします」
シーネは頷いて
「石刀スズナとの相性も抜群でしたからねえ……ローウェルの報告書全部読みましたよお」
「あのおっさん、ちゃんと仕事してるんですね」
シーネは立ち止まると、いきなりジッと俺の顔を見ながら
「……ナランさん本人のですねえ、揺るぎないスキル枠を確保すべきですねえ」
「……むっ、難しいんじゃないですか?」
リブラーが勝手に消しそうだが……。シーネはまた俺の腕を引いて進み始め、少し開けた神殿跡らしき廃墟ヘと出ると
「……混沌を包み込む聖母を核にして物理アタッカーだと……今までの実績も加味して……本来発現するはずのスキルは……」
ブツブツ言いながら、ほぼ屋根の崩れ落ちた石造りの神殿の廃墟の中へと入って行く。
奥の祭壇の手前でシーネはピタッと立ち止まり、八重歯を見せてニカッと笑うと
「……ナランさん、あなたは、ずっとリブラーの器にされてきました」
「ま、まあ……そうですね。好き勝手されてます」
シーネは俺の右手に加えて左手も取ると
「経験値は十分なので、今、私が二つ尾の女神に代わり、世界の歪みの被害者であるナランさんに補償を実行します。良いですかあ?これはですねえ……」
「はっ……はい……」
シーネは悪魔の顔でジッと俺の両眼を覗き込むと
「決定事項です。今後、私が設定したスキルを、ナランさん個人の意思や行動による自然変容以外で消去や移動、または変容をさせた場所、神罰は、ナラン・ベラシールのスキル枠に寄生するリブラーに直接向かいます。つまり……」
シーネは一切俺から目を放さずに
「リブラー、貴方が私の管理下に入ると言うことです。以上、最重要警告終わり」
ニカッと笑って、両眼を離すと
「……混沌を包み込む聖母を固定、前を向く力、しなやな心、”窓”からの支援、生存する為の剣術、アンチダークフィールドを追加しますねえ。貴方の前途に幸あらんことを……」
そう言った瞬間、辺りに神々しい光が射し込んでいき、光は虹色の粒子を伴って俺やシーネの周囲をゆったりと周り始めた。
頭の中で、何処かで聞いたことのある女性の声が
シーネファルトよ……どうした?
「例のナラン・ベラシールさんに補償を実行しますねえ」
シーネが穏やかに答えると
……貴方も好きねえ……。よろしい。実行を許可します。
若干呆れて崩れたトーンの後、取り繕う様に神々しい声に戻って声は消えた。光の中でシーネは俺を柔らかく抱きしめる。直後、悪魔だったはずのシーネが真っ白な……薄い衣を纏った神々しい天使の様な姿になり、背中から生えた何枚もの翼を虹色に光る粒子を巻き上げながら大きく広げると、両翼で俺ごと自らを包み込み、甘い吐息を耳元に吹きかけてきた。
……
両眼を開けて、驚く。心配そうなリース、ミヤ、薄笑いを浮かべたシーネにのぞき込まれていた。ゆっくり上半身を起こし、辺りを見回すと、先ほどまで居た神殿廃墟と全く同じ場所だった。辺りは夜の様だが、ミヤやリースの持つ光石が照らし出している。俺はポニーテールで人間の姿のシーネに
「あの……どういうことですか、これ……」
「ふふーっ……今度はですねえ、ナランさんの精神体を向こうで私が背負うのですよお」
「……」
よく分からないが、リースに強く抱きしめられて何となく安心したので良しとする。




