第22回 出陣 (シスル視点)
12月15日。午前0時。
「なんやかんや、一週間、経ったね……」
「うん」
「ジーン、結局、逃げ回って、謝罪には来なかったね」
「うん」
「そして、このざまに至る、と……」
ソードフィッシュ家の屋敷、そこの庭には、今回の『戦争』。もとい、『アリク家頭髪撫で斬り大作戦』に参加する突撃隊のメンバーが続々集まって来ていた。時刻は午前0時。結局、あの計画を聞かされた日から約束の7日間が経った。
そして、その間、ついにアリク家からの謝罪も慰謝料の話も無かった。逃げ回って、ほとぼりが冷めるのを待っているのか。なんというか、この辺りが姑息で、余計にソードフィッシュ家の人々の怒りを買っているのが分からないのだろうか?
僕は、戦支度を整えながら、クローバーと話している。彼女は、既に支度を終えていて、愛刀の『ストライクドラゴン』と、今回の作戦のある意味主役であるバリカンの調子を確かめていた。服装は白と黒のダズル迷彩柄の特別仕様の軍服だ。今回の作戦に合わせて特注した。暗い中、敵味方を一目で識別するためだ。
「皆、えらい士気が高いね」
クローバーは庭に集まった兵達の様子を見ながら呟く。皆、目がギラついており、殺気立っている。まぁ、無理もない。彼等には、今回の作戦で『最優先撃破目標』であるジーンの髪を切り落とした者には、何でも希望のものを与えると、事前に宣言されていたからだ。それだけ、僕のライバルが多いという事でもある。
ついでに、自分達のマドンナたるクローバーをコケにされた事自体を怒っているものも少なくない。溜まりに溜まったフラストレーションを解放するまたとない機会なのだ。実際、ヘリオトロープさんなどは、先程から乳母妹への乳姉妹愛を叫んでは士気を高めていた。
「クローバー、前に言ったよね。自分を道具扱いするのは止めてくれって」
「ええ」
「ここに集まった人たちを御覧よ。皆、クローバーの為に本気で怒っているんだよ。だから、今後は自分を道具なんて言っては駄目だよ」
「……分かったわ」
僕の言葉に、クローバーは少し嬉しそうに微笑んだ。そんな彼女を見ていると、なんだか、こちらまで幸せな気分になる。
「さて、そろそろ時間だ。行こう」
「そうね」
僕とクローバーは手を取り合って、突撃隊が集まる庭に向かった。
「よう、相変わらず、お熱い様で」
「ジークフリート様!あなたも参加されるのですか!」
そこではジークフリート様から声をかけられた。彼だけで、アコナイト義兄さんも、その乳姉妹兼恋人のピンギキュラさんとドロセラさんの姿も無い。
「ああ、ファイアブランド家からは俺だけだがな。元々、連れてくるつもりは無かったが……。いつの間にか、家から姿が消えていた。おおむね、連れ込み宿デートでもしてるんだろう。アコナイトの奴、最近妙に殺気立ってる。ジーンを仕留めたら、ソードフィッシュ家の家督を寄越せとか言い出しかねない。かえって都合が良かったかもな」
「はは……今頃、よろしくやっていますかね」
「あいつは良い奴だが……少々嫉妬深いからな。お前も気をつけろよ、色々と」
「はあ……」
僕は曖昧に返事をした。何となく、心当たりがある様な無いような……。
「さて、行くぞ。」
「はい」
僕とクローバーは、ジークフリート様と共に、庭の中央に向かう。すると、そこには、兵達と共に出撃前の軽食を食べる男がいた。辺境伯様だった。
彼は食事を終えると、立ち上がり、大声で演説を行う。
「ソードフィッシュ家の勇者達よ。この遅い時間に集まってくれて感謝する。これより、アリク邸に討ち入る。今回、参加してくれた選抜隊計47名に、まずは感謝する。活躍を期待する。事前に伝えた通り、我が愛娘、クローバー・ソードフィッシュに恥をかかせた、ジーン・アリクの事、断じて許し難し!報復だ!仇討ちだ!奴の髪を無慈悲に刈り取れ!褒美は望むがままだ!」
「「「おおぉぉぉぉ!」」」
「水杯や事前の酒宴の類は無しだ。全員で生きて帰るつもりだからな!勝利の美酒は、帰ってから開けるぞ!では、出陣準備!ここ、ソードフィッシュ辺境伯領から王都のアリク邸まで朝日が出るまでに踏破する。手柄が欲しけりゃ頑張ってついてこい!」
「「「おおぉぉぉぉ!」」」
こうして、夜闇を切り裂き、ソードフィッシュ家の選抜エース部隊、計47名による『髪切り作戦』が始まった
各々方、討ち入りでござる。
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