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第18回 父親

 12月7日。


「シスルとクローバーがなぁ……」


 複雑そうな顔をしながら、辺境伯、クロード・ソードフィッシュは酒をあおった。


 ソードフィッシュ家の屋敷、当主の部屋。ここには2人の男がいる。片方は辺境伯クロード・ソードフィッシュ。そして、もう一人は、彼の第一の家人(けにん)にして、彼の個人的な友人であり、アコナイトの乳母夫(めのとふ)もある、ジークフリート・ファイアブランドだった。


 視察から夕方、帰って来たばかりのこの男は、今、実の娘と義理の息子から、これまでの婿、ジーンから一方的に夜会で婚約破棄宣言を受けた事。さらに、クローバーとシスル。お互いに相手を思い合っている。将来的に結婚を許可して欲しいという、衝撃的な報告を二連続で受けたばかりだ。


 流石の彼も色々と余裕がなくなり、右腕であり、親友でもあるジークフリートを呼び出したのだ。


「良いじゃねぇか。元々シスルの事は気に入っていたのだろう。もう婿にしちまえ。他に婿候補もいねぇんだろ?」


「そうは言うが、血が繋がらぬとは言え、姉と弟だぞ」


「好き合ってる相手を無理に引き裂くのも野暮だろ? 実際、お前は過去に一度、無理に引き裂いた結果大やけどしたじゃぁねぇか」


 ジークフリートは杯を傾けつつ、これ見よがしに、首にかけていたロケットをいじる。中には、アコナイトと2人の娘の写真が入っている。


 それを見たクロードは、苦虫を噛み潰した様な顔になった。


「……ニリンの事は言うなよ。俺も流石に可哀想な事した自覚はあるんだ」


「へいへい。そう思ってるならもう少しアコにも構ってやって欲しいもんだがね。でも、いい加減腹括れよ。あいつらも16歳なんだぜ。成人の儀も終えた。もう大人さ。平民でもそろそろ嫁探しを始めてもおかしくない年頃だ」


「そうだな……。いつまでも子供のままではないのはわかっている。だが、どうにも、自分の娘と息子が結婚というのは想像できない」


「まぁそれはそうだろう。が、俺はもう腹を決めたぜ。アコにはうちの娘2人ともくれてやらぁ。あれもあれで姉妹揃って同じ男を好きになっちまってなぁ……。無理に引き裂くのもなぁ。それに、そんな事したら、親友(ニリン)からまた好きな人を引きはがすのか!って、俺が嫁に殴られる」


「お互い、ややこしい家庭を持ったなぁ」


「違いねえや」


 2人は笑ったが、すぐに真顔に戻った。


「それで、どうすんだよ。結局、お前は?」


「うむ……。正直、まだ迷っておる。親心では、2人を応援したいのだが……」


「貴族心としては、政略結婚の道具に再利用したいと?」


 力なくうなずくクロード。ジークフリートはため息をつく。


「お前のそういう優柔不断でどっちつかずな態度のせいで、ニリンがお前を諦めきれずに、結果的にあんな事になったんだぞ!?分かってるのか?!」


「だからニリンの事は言うなよ!あれは俺が悪かったって言ってるだろ!それに、アコナイトに対しても、悪い事したとは思ってるよ……」


 クロードは、胸糞悪そうに酒をあおる。実際、『紺碧薔薇の魔女事件』は、その後の魔女の生まれ変わりのアコナイトの不遇な処遇も含めて、彼の人生最大の汚点だった。


「それに、婿殿……いや、公爵家の馬鹿息子の事も……最低限、本人から、クローバーに詫びるくらいはしてくれないと」


「あいつもあいつで、随分舐めた真似をしてくれたもんだ。おかげで、武断派と文治派の亀裂は決定的になった」


 杯を開けつつ、ジークフリートは吐き捨てる様に言った。


「だが、俺はあいつのことは元々気に入らなかったんだ。かえって清々した」


「何だ、随分毛嫌いしてたんじゃねぇか」


「お前、そして本人の手前、言いたくとも言えなかったんだ。他の連中も同様だろうよ、何が悲しくて、財務省のお偉いさんの馬鹿息子を担がなきゃならないんだってな」


「それはすまなかった。……アリク家からの正式な謝罪もまだだしな。ブラインダー家からは、即日、詫びと、慰謝料の額の交渉についての手紙が来たというのに」


「ブラインダー家は腐っても武門の家だ。辺境伯家を敵に回す事の恐ろしさを分かっているのさ。アリクは……まぁ、こっちを脳筋集団って舐めてるんじゃねぇか?それに、文治派筆頭格としてのメンツもある」


 ジークフリートの言葉に、クロードは、頭を掻いた。


「……向こうがいつまでも詫びも入れず逃げ回っていると、こっちの家人や他の武断派貴族が爆発しかねない。帰ってきて早々、わけわからん状況を知らされると同時に、「報復の為の討ち入りの日はいつにします!?」なんて部下達に聞かれる身になってみろ。隣国と戦いつつ、文治派と内戦なんて笑い話にもならねぇ」


「……いっそ、爆発させて発散させるのもアリじゃねぇかな?」


「何?」


 ジークフリートは、声を低くして、親友に耳打ちした。


「慰謝料は放棄……ってか、こっちが逆に払わなきゃならん事になるかもしれんが……」


「まぁ聞こう」


 ジークフリートがクロードに耳打ちした事。それは凄まじい計画だった。


裏設定:ジークフリートの奥方は、娘が生まれた時点で、姉ともどもアコナイトにあてがう気マンマンでした。お互いのお互いへの異常なまでの好意は幼少時からの教育の賜物。

これでアコナイトが不細工だったりクソ野郎に育ってたら娘が可哀想でしたが、(ちょーっと嫉妬深いけど)作中一の美少女(♂)に育ったのでまあヨシ!


非業の死を遂げた親友が赤ん坊になって自分の所に帰ってきたとか、そりゃクソデカ感情持ちますわ。なのでローズ様との相性は最悪。


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