第三話 続ハロウィン
1年前、ハロウィンの夜に一人の若者が消えた。
怪物の扮装をしていて、百鬼夜行の集団に紛れ込んでしまったらしい。
あの夜は特別な夜。一年に一度、人の世とアヤカシの世界の区別が曖昧になる夜。
そして、今、また一人の惑う者がここに・・・。
*
少女は猫の扮装をしていた。黒いゴスロリの衣装に黒の猫耳と尻尾。人とアヤカシの区別が曖昧な容姿は自分が置かれている世界を惑わせる。
そして、少女は迷いに迷った末、路地裏にたどり着いた。路地裏は迷える者がたどり着く狭間の世界。先に進めばアヤカシの世界、後ろに戻れば人間の世界。
「お嬢さん、青い顔をしてどうしたのかな?」
路地裏に巣食う占い師が声をかけた。彼が何者なのか、誰も知らない。曖昧な空間に住んでいるうちに自分でも何者なのか分からなくなったという。
「私、恐ろしい世界に迷い込んだようで、自分がいた世界に戻りたいんです!」
黒猫の衣装の少女は占い師にすがった。占い師は薄汚れた冴えない中年男だが、それでも、彼女には救いの神のように見えたらしい。
「それなら、この先を真っ直ぐに進みなさい。そこがあなたの帰るべき場所です」
占い師がそう言って指し示したのは、アヤカシの世界へ行く道であった。
「ありがとう、占い師のおじさん」
そう言うと少女は満面の笑みを浮かべて占い師に手を振った。占い師は困惑した表情で少女に手を振った。すると、少女は路地に四つん這いになり、「ニャーォ」と鳴いた。彼女は黒猫になった。黒猫になってアヤカシの世界に向かって駆け出した。
路地の奥の闇に姿を消した黒猫を見送りながら、占い師はため息をついた。
「人の世はアヤカシが逃げ出したくなるほど荒んでいるんでしょうかね」
占い師はそう呟きながら、再び迷い込んでくる者たちに救済の手を差し伸べるのだった。