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第三話 続続ハロウィン

街はハロウィン一色だ。


 いつからか、この日本もハロウィンのイベントが盛んに行われるようになった。本来の慣習にはない異国の文化もしっかりと受け入れてしまう寛容さがこの国にあると言えば聞こえがいいが、ただお祭り騒ぎがしたいだけなのだろう。企業はハロウィンに絡めて売り上げを伸ばそうとし、それを一般市民も容易に受け入れてしまう。そこには本来のハロウィンの意味なんて存在しないのだが、それでも構わないのだろう。


 かく言う僕もそんなハロウィンに踊らされている一人だ。街がお化けの仮装であふれている中、僕もゾンビの仮装で街に出ていた。これが結構リアルですれ違う通行人は驚いた顔で僕を二度見する。


 バックリと割れた後頭部には血があふれ出て、頭がい骨や脳まで露わになっている。顔も死人のように青ざめて、服も血や泥で汚れ、ボロボロだ。


 さらに歩き方も普通の人間と違って、酔っぱらいの千鳥足のようなヨタヨタしたものだ。僕の他にも街にはゾンビの仮装が多くいたが、どれもが僕のゾンビと比べると格段に劣る。僕は自分の仮装が誇らしかった。この姿を僕の友人にも見せてやりたい。きっと驚いて僕を称賛するだろう。


 そう思いながら、歩いていると、正面から魔女の仮装をした女性が歩いてきた。魔女と言ってもかなり漫画チックで可愛らしいモノだった。僕はその魔女から目が離せなくなっていた。それは僕の恋人だ。最も僕の優れた仮装を見せたかった一人だ。僕は手を上げて彼女を呼んだ。彼女は一瞬、呆然とした顔になったが、その顔はすぐに血の気が失せていった。それだけ僕のメイクが凄すぎたということだろうか?


 彼女の傍に男が駆け寄った。これも僕と同じゾンビだ。だが、それは僕の仮装と比べるとレベルが低すぎた。僕は低レベルなゾンビを鼻で笑った。だが、すぐに僕は笑っていられない気持ちになった。ゾンビに僕の恋人が抱き着いたのだ。まるで怯えて縋り付くように。僕は彼らに近づいた。こんなときなのに僕は普通に駆け寄れなかった。まるで体が思うように動かなかった。


 僕が近づいてくることを知って彼らはさらに怯えた。魔女もゾンビも同じように怯え、さらに強く抱き合っている。ゾンビがゾンビを恐れるなよ!とツッコミたくなる。だが、僕はすぐに他のことに心を囚われた。魔女に抱きつくゾンビが僕の友人の仮装だということに気づいたのだ。その友人は僕が彼女と付き合うまで恋のライバルでもあった。そのライバルが今は僕の恋人に抱きついている。僕の心はざわついた。


 そんな僕の心情が伝わったのか、彼らは慌てて逃げ出した。その慌てぶり見ている方が恥ずかしくなるくらい情けないモノだった。何度も転倒をして、そのたびにキャアキャアと悲鳴を上げて、すぐにも起き上がれず、ゾンビが縋り付く魔女を蹴とばして、一人先に逃げ出して、それを魔女がなじる。


しかし、そんな彼らに追いつくことが出来ないくらい僕の足は重かった。それどころか、頭まで痛い。バックリと割れた後頭部が酷く痛い。そして、僕の脳裏にある映像が浮かんだ。


 それは酔って潰れた僕に鉈を持って襲い掛かる友人と、それを背後で見ながら残酷な笑みを浮かべた僕の恋人だった。



 僕は後頭部を抑えながら、ハロウィンの街から逃げ出した。そのまま彷徨い歩き、たどり着いたのは人気がなく薄暗い路地裏だった。そこには一人の男がいた。


 路地の暗がりに溶け込むように佇む男はタバコをふかしながら、僕を憐れむように見つめていた。


「困るんですよね。こういうあの世とこの世の境界をあやふやにしていると死者が間違えて現世に迷い出てしまうのですよ」


「ア、ア、アナタハ・・・・・?」


「一応、この路地裏で占い師をしています。彷徨える人を導いたりもしますけどね」


 占い師を名乗る男はそう言うとタバコを持った手を路地の先に向かって突き出した。タバコの紫煙が吸い込まれるように漆黒の闇に向かって行った。


「この先にあなたが行くべき道がありますよ」占い師は言った。


「アノ、ボクハ、・・・・・アノ、フタリニ・・・・」


「殺されて埋められたんでしょうね。でも、もうどうにもなりませんね。あなたは死んでいるのだから、この世にあなたの居場所はないわけですし」


「ソンナ・・・・・・」


「でも、彼らも無事では済まないでしょうね。実際、自分が犯した罪と向かい合ってしまったのだから、後は破滅するだけでしょう」


 占い師はそう言うと不気味な笑みを浮かべた。僕は占い師に頭を下げて、タバコの煙が吸い込まれた暗闇に向かって歩き出した。闇はいつしか光になり、僕の体も軽くなった。僕はこのとき、ようやく成仏できたのかもしれなかった。



 薄暗い路地裏にも街のハロウィンの歓声が聴こえていた。占い師はそんな街の喧騒に苦笑しながら、またタバコに火をつけた。


「それにしても私はここで何回、ハロウィンネタをしないといけないのでしょうかね」


 占い師はそう言うとタバコの煙をため息と一緒に吐き出した。





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