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第2話 高校を卒業した俺は、消防士を目指した



 理由は単純だった。


 人を助ける仕事がしたかった。


 それに――。


 恋愛よりは、向いている気がした。


     ◇


 消防士になるための訓練は、想像していたよりずっと厳しかった。


 走る。


 鍛える。


 重いものを持つ。


 何度も繰り返す。


 体力的にきついのはもちろんだ。


 失敗すれば厳しく指導される。


 それでも、俺は訓練を続けた。


「もう一回!」


「はい!」


 何度も立ち上がる。


 何度も繰り返す。


 少しずつできることが増えていく。


 不思議だった。


 恋愛では、何をやっても上手くいかなかった。


 なのに、仕事のための努力は、ちゃんと結果になった。


 そして――。


 俺は消防士になった。


     ◇


 初めて現場に出た日のことは、今でも覚えている。


 サイレンが鳴る。


 車両が走る。


 現場に到着すると、周囲は騒然としていた。


「行くぞ!」


「はい!」


 緊張していた。


 怖くないと言えば嘘になる。


 それでも、目の前で助けを求めている人を放っておくことはできなかった。


 火災。


 事故。


 救助。


 いろいろな現場を経験した。


 最初は何をするにも必死だった。


 先輩についていく。


 教えられたことを覚える。


 失敗したことは反省する。


 そして次の現場で活かす。


 そんな毎日を送った。


     ◇


 消防士になってから、俺はある夢を持つようになった。


 消防音楽隊。


 消防士として働きながら、音楽を演奏する人たちだ。


 演奏する姿を見たとき、俺は少し憧れた。


 いいな。


 俺もいつか、ああいうことをやってみたい。


 そう思った。


 もっとも。


 俺には楽器の経験がほとんどない。


 今は救助の仕事を覚えるだけで精一杯だった。


「まあ、いつか機会があればいいか」


 そう思いながら、俺は訓練を続けた。


     ◇


 やがて俺は、救助隊員として現場に立つようになった。


 仕事は厳しい。


 一つ判断を間違えれば、人の命に関わる。


 だからこそ、俺は真剣に仕事へ向き合った。


「剛力!」


「はい!」


「そっちは頼む!」


「了解!」


 火の中へ。


 事故現場へ。


 危険な場所へ。


 助けを求めている人がいれば、できる限り助ける。


 それが俺の仕事だった。


 そして――。


 仕事だけは、順調だった。


 訓練も。


 現場も。


 少しずつだが、できることが増えていった。


 先輩から任される仕事も増えた。


「剛力、最近動きが良くなったな」


「ありがとうございます」


「この調子で頑張れ」


「はい!」


 嬉しかった。


 恋愛では、一度も褒められた記憶がない。


 けれど仕事では、努力した分だけ認めてもらえる。


 俺は思った。


 やっぱり俺は――。


「恋愛より、仕事のほうが向いてるな」


 そう思っていた。


 このときまでは。


     ◇


 消防士になって数年。


 俺にも、久しぶりに彼女ができた。


「剛力くんって、真面目だよね」


「そうかな」


「うん。優しいし」


「……ありがとう」


 久しぶりだった。


 誰かと付き合うのは。


 俺は少しだけ期待した。


 もしかしたら。


 今度こそ。


 普通に付き合えるかもしれない。


 過去のことは、もう忘れよう。


 そう思った。


 ――そして数か月後。


 俺たちは、いつものように連絡を取っていた。


「今日は仕事?」


「ああ。24時間勤務だ」


「そっか。頑張ってね」


「ありがとう」


 そのときの俺は、本当に何も疑っていなかった。


 まさか。


 数日後。


 仕事で向かったマンション火災の現場で――。


 俺が、彼女の知らない一面を見ることになるなんて。


 このときの俺は、知る由もなかった。

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