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第1話  俺は、女運が悪い

俺は、女運が悪い。


 それを自覚したのは、中学一年生の頃だった。


「剛力くん」


 放課後。


 教室に残っていた俺に、一人の女子が声をかけてきた。


「ん?」


「ちょっと……話したいことがあるんだけど」


 彼女は頬を赤くしていた。


 俺は首を傾げる。


「話したいこと?」


「うん……」


 彼女は少し俯いて、それから意を決したように顔を上げた。


「私……剛力くんのことが好きです」


「…………」


 時間が止まった。


 好き。


 その言葉の意味くらい、当時の俺でも知っている。


 つまり――告白。


 俺は生まれて初めて、女の子から告白された。


「……俺でいいの?」


「うん」


 彼女は笑った。


「剛力くんがいい」


 胸が熱くなった。


 嬉しかった。


 嬉しくて仕方なかった。


 家に帰ってからも、ずっとそのことばかり考えていた。


 夕食を食べながら思い出し。


 風呂に入りながら思い出し。


 布団に入ってからも思い出した。


 そして翌日。


 俺は友達に相談した。


「昨日、告白された」


「マジか!?」


「ああ」


「誰に?」


 俺が名前を言うと、友達は少し黙った。


「……お前、それ本気で言ってる?」


「え?」


「昨日のあれ、嘘告だぞ」


「…………」


「罰ゲームだったらしい」


「…………」


 頭の中が真っ白になった。


 昨日の笑顔。


 昨日の「好きです」。


 全部、嘘だった。


 俺はその日の帰り道、一人で歩きながら空を見上げた。


「…………」


 そして、小さく呟いた。


「……女って怖い」


 これが、俺の初恋だった。


 いや。


 正確には、初恋にすらなっていなかった。


 始まる前に終わった。


     ◇


 それでも。


 中学二年生になると、俺にも本当に好きな女の子ができた。


 今度は俺から好きになった。


 話していると楽しかった。


 一緒にいると落ち着いた。


 そして、どういうわけか相手も俺のことを好きになってくれた。


 付き合うことになった。


「今度こそ……」


 俺は思った。


 今度は本物だ。


 嘘じゃない。


 誰かにからかわれているわけでもない。


 俺にも普通の青春がやってきた。


 そう思っていた。


 ――数か月後。


「ごめん」


「……え?」


「私、先輩のことが好きなの」


「…………」


 俺は何も言えなかった。


 どうやら彼女は、俺と付き合いながら別の先輩を好きになったらしい。


 結果。


 俺は振られた。


「またかよ……」


 帰り道。


 俺は一人で呟いた。


 中学一年。


 嘘告。


 中学二年。


 彼女を先輩に取られる。


 まだ中学生なのに、恋愛で二敗していた。


     ◇


 高校一年。


 新しい彼女ができた。


 俺は思った。


 今度こそ大丈夫だ。


 ……と思っていた。


「剛力くん、ごめん」


「…………」


「なんか……冷めちゃった」


「…………そうか」


 付き合い始めて、まだそれほど経っていなかった。


 浮気されたわけじゃない。


 俺が何か悪いことをしたわけでもない。


 ただ、彼女の気持ちが冷めた。


 それだけだった。


「じゃあ……仕方ないな」


 そう言って別れた。


 仕方ない。


 本当に、仕方ない。


 そう思おうとした。


 でも。


 家に帰ってから、布団に倒れ込んだ。


「……俺、何かしたか?」


 答えは出なかった。


     ◇


 高校二年。


 また彼女ができた。


 俺も少しずつ学習していた。


 期待しすぎない。


 浮かれない。


 何があっても動じない。


 そう思っていた。


 彼女とは、そこそこ上手くいっていた。


 一緒に帰ったり。


 休日に遊んだり。


 普通の高校生らしい恋愛だった。


 だから今度こそ大丈夫だと思った。


 ――ところが。


「私、転校することになった」


「……そうか」


 突然の話だった。


 遠くへ引っ越すらしい。


 最初のうちは連絡を取り合っていた。


 毎日のようにメッセージを送った。


 電話もした。


 けれど。


 少しずつ。


 本当に少しずつ。


 連絡が減っていった。


「また今度電話するね」


 そう言われた「また今度」が、なかなか来ない。


 そして気がつけば。


 俺たちは、ほとんど連絡を取らなくなっていた。


 別れ話をしたわけじゃない。


 喧嘩をしたわけでもない。


 ただ、自然に。


 俺たちの関係は消えていった。


 高校二年生。


 四度目の失恋だった。


     ◇


 俺は自分の部屋の天井を見上げた。


「…………」


 中学一年。


 嘘告。


 中学二年。


 先輩に取られる。


 高校一年。


 付き合ってすぐ振られる。


 高校二年。


 自然消滅。


「……俺、女運なさすぎないか?」


 誰に言うでもなく呟いた。


 もちろん、世の中の女性が全員悪いなんて思っていない。


 そんなことは分かっている。


 ただ。


 俺の周りには、なぜかそういうことが続いた。


 だから俺は、少しずつ恋愛に期待しなくなった。


 どうせまた別れる。


 どうせまた裏切られる。


 だったら――。


「仕事でもするか」


 高校卒業後。


 俺は消防士を目指すことにした。


 人を助ける仕事なら、俺にもできるかもしれない。


 少なくとも。


 恋愛よりは、向いている気がした。


 このときの俺は、まだ知らなかった。


 俺の女運の悪さが――。


 社会人になっても、まったく改善しないことを。

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