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イルネスウォリアーズ-異世界戦士の闘病生活-  作者: 清賀まひろ
第3部 負った傷と負わせる傷

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15章87話 一生の思い出か、冥土の土産か




 三人でロビーの椅子に座る。高級そうなソファがやけにふかふかで座り心地が悪かった。



 レヴォリオは暗い表情で目を伏せたまま、話し出した。


「俺の意識が戻った時、既に撤退して時間が経ってた。人数を見て、トラクとルークの居場所を尋ねたら、後から来る筈だって口々に言われた。だがそれに被せて、ログマが……広場で死んでるから忘れろと言ったんだ。愕然とした」


 その立場なら俺も衝撃を受けるだろうな。


「俺以外も全員、その瞬間まで知らなかったらしい。しんがりを務めて後から続くと嘘をついてたんだってな。散々責められていた。経緯を問いただしたら、トラクが前線で意識を失い、責任を感じたルークが道連れになることを選んだと言われた。――そうなんだよな?」


 ログマには憎まれ役を押し付けてしまった。でも、ちゃんと俺の意志をんでくれていたんだな。


「……助けようとしたんだよ。でもログマから見たら無謀すぎて、心中だと思ったらしいな」



 レヴォリオは呆れたようなため息をつき、話を戻した。


「その無謀が成功したわけだな。――揉めてるところにトラクだけが歩いて来た。一番驚いていたのはログマだ。飛んでってトラクに食ってかかるように何か聞いてたな。トラク、あれはなんだったんだ?」



 トラクさんが答える。


「ルークはどうしたって怖い顔で聞かれましたね。皆が逃げる時間を稼いでから目(くらま)しとかを使って撤退するって、ルークさんから聞いたまま答えたら、広場へ猛スピードで走ってっちゃった」


そして彼の顔は曇る。


「……本当は自分を逃がした時点で、閃光弾も回復薬も使い切ってたんでしょ。撤退から少しして広場の方向が光ったから、二人もすぐ続くと思ったって、後で皆が言ってた」


膝の上の拳は震えていた。


「それに、回復薬の空瓶は一箇所に何個も捨ててあって、ルークさんは何も持ってなかったって。……自分のために……ごめん」


 慌てた。自己満足の自己犠牲を理由に他人に謝られるのは、もう勘弁だ。


「あっ、謝らないで下さい。そうするって決めたのも、撤退出来そうな感じの嘘をついたのも、俺ですから。気に病まれると辛いです」



 レヴォリオが首をすくめる。


「会話が聞こえなかった俺達も、ルークがヤバいことだけは分かった。そうなれば助けに戻るしかないよな。手負いのヤーナとトラクは、テレゼとナウトに任せて撤退を続けさせた。他はログマを追って広場に引き返した」


「それで皆揃って来てくれたんだ。ありがとう。あれ、物凄く嬉しかったなあ。一生の思い出だよ」


「馬鹿、危うく冥土の土産だ! 先行したログマが闇術で竜巻を吸い込んでいたが、発達を遅らせることしかできてなかった。でもそれが時間稼ぎになったお陰で、俺が追いついて風竜の脳天を刺すのがギリギリ間に合ったんだよ!」


「あぁ、なるほど! 死ぬと思ってから随分()らされるなぁと思ったんだよ。二社のエース二人がかりで助けてくれたからだったんだな。贅沢な話だ」


「贅沢って……。それだけじゃない。カルミアがお前を運ぶ体力を残していたことも、ウィルルとケインが外傷治療の術を一回使えるだけの霊力を回復できていたことも含めて、奇跡の連鎖だ……」


「凄い仲間に恵まれて幸運だ。ありがたい」



 怪訝けげんそうに眉をひそめられた。


「お前……さっきから、死にかけたくせに妙に呑気で嬉しそうなのは、なんなんだ?」



 ぎくりとした。あれが自殺だったことは、レヴォリオには伝わってないだろうから。


 俺は自分の信念の為に死ぬほど頑張って、その結果皆が生きてて、皆に俺も大事に思われていると分かって、今最高に幸せだ。死にかけたことなんてどうでもいいくらい、幸せを噛み締めているのだ。――そう言ったって、とても理解はできない筈だ。我ながらちょっとおかしいと思うし。


「ま、まあ……助かってよかったなって気持ちの方が強いからだよ」



 レヴォリオは項垂うなだれてしまった。


「……犠牲を出さない自信があった。思い上がっていた。結局ルークの力が無ければ、竜も倒せず仲間も死なせていた。……流石に、落ち込むよ」


 重い雰囲気に慌てて、慣れない事をした。


「う、うわぁ! レヴォリオが落ち込んでる! 珍しいもん見たな。写真撮らなきゃ」


「お前……嫌な奴だな……」


 間違えたらしい。やっぱり冗談は苦手だ。おろおろと取り繕う。


「でっ、でもさ。レヴォリオがあのタイミングで戻って来てくれなきゃ俺は粉微塵だった。お前のお陰で討伐も撤退も両方できたんだよ」


「……そうだろうか」


「そうだよ。あの状況でトドメの火力を出せたのはお前だけだろ。助かった、本当にありがとな」


「そう言って貰えると、気が晴れる」



 それでもレヴォリオの表情は晴れていない。ふと思い出した事があるから、もう一度冗談を続けてみた。


「それよりさ。レヴォリオ、死にかけの俺に何回も馬鹿って言ったろ? 覚えてるぞ。そっちを謝れよ」


 彼は顔を上げて、いつも通りの不遜ふそんな笑顔を浮かべた。


「それは撤回しない。ルークは馬鹿だよ」


「ははっ、また言ったな!」


「――それを言うならルークこそ、会った日に散々(ののし)ってくれたな。愚鈍だとか低能だとか。仕掛けたのは俺だが、お前の方がよっぽど口が悪かったよな」


「……それはお互い様って事で許してよ」


 トラクさんがでっかいため息をついた。


「いやぁ、あれは二人とも反省してよ。レストランとは思えない殺気だった。下っ端があんなの止められると思う? 周りで見てる自分らがストレスで殺されそうだったよ。ほんと勘弁して」


 俺とレヴォリオは顔を見合せ、叱られた子供のように苦笑いした。




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