15章88話 これから、何が出来るかな
その後は、二人と長話をした。スパークルの他のメンバーの話も聞いた。
ヤーナさんはあの大技で脚の太い血管が切れて一時危なかった。でも自力で応急処置して、気丈に振舞っていたそうだ。無事退院して、復帰しているとの事。
ナウトさんは軽傷。撤退時には大きく活躍したが、体力不足を酷く悔やんで、風竜戦後は人一倍張り切ってくれてるらしい。
テレゼさんは比較的軽傷だけど、霊術力の過度な消耗で熱を出した。彼女は、ウィルルの姿に感銘を受けて回復力を鍛えたいと言っているらしい。
あと、口を尖らせたレヴォリオから嬉しい事を聞けた。
「ルークのボロボロの姿を見て、考えが変わった。ミリーとディロン――離脱していた二人が退院した時に頭を下げた」
「ええ! お前が? 嘘だろ?」
「さっきから失礼だなお前……」
「えへ、すまん。――で、どう変わったの? 聞きたいな」
「……俺は今まで、怪我は避けられないもの、必要なものと割り切っていた。だが今回のルークの大怪我は違う。『必要になってしまった』んだ。何か一つでも状況が違えば回避出来たかもしれないだろ。なのに危うく死なせるところだった。離脱した二人も、自分の大怪我は回避出来たことだと感じて怒っていたんだと、腑に落ちたんだ」
驚く内容だった。レヴォリオが怪我を負って泣くミリーさんに冷たかったのは、怪我に関する価値観のズレからなのか。
おおー、と感嘆の相槌を漏らした俺を見るレヴォリオの顔には、少しの悔しさと尊敬が滲んでいるように感じた。
「ルークには、仲間の命を守る覚悟があった。俺はそれを考えてすらいなかった。――俺はリーダーとして、これからは仕事の責任だけじゃなくメンバーの命も背負うと決めた。二人に頭を下げたのは、そのケジメみたいなもんだ」
こいつはやっぱり凄いな。大きな実力と自信があるだけじゃなく、それを裏づけるだけの自己研鑽を絶やさない。俺もまた彼を尊敬する気持ちを込めて微笑み、そっか、とだけ返した。
……本当の俺は『仲間の命を守れない時の覚悟がなかった』臆病者なんだけどね。でもそれは、俺の姿から素敵な学びを得てくれた彼に言うことではないよな。
トラクさんはニヤニヤしながら言った。
「レヴォリオリーダーさんも、しっかりしてるけどまだまだ青いなぁ。歳下が成長する姿はなんとも可愛らしいねー」
「調子に乗るな。俺は青くねえぞ!」
珍しく弄られて取り乱すレヴォリオが面白くて乗っかった。
「ムキになってて余計に子供っぽいぞ、レヴォリオ」
「ああ? 歳下のくせに!」
「へへ。――それで、お二人は、なんて?」
レヴォリオは口を一文字に結び、トラクさんが代弁する。
「そりゃもう、沢山文句言われてたよ。リーダーは、ああ、そうか、すまんしか言わなくなっちまった。おかしかったなー」
「お前……ほんっとに……!」
「――でもね、最後は許してくれたよ。今度は守って下さいよってさ。ね、リーダー」
耳を赤くして震えるレヴォリオがおかしくて、そしてチームとして成長する彼らが眩しくて、俺は笑った。
「あっはっは! いい話ですね。元気をもらえましたよ。……俺も、リーダーとして成長したいな」
レヴォリオはペースを取り戻そうと噛み付いてきた。
「ルークはまだ無理だ。お前は強いんだから、さっさと威厳と自信を身につけろ。早く病気を治して――」
「その話、する? 俺、また泣いちゃうよ?」
「う……そう言う所だよ。威厳がないのはよ……」
「え? リーダー、ルークさん泣かせたの? サイテーじゃん」
吹き出すと、三人とも笑った。楽しかった。
すっかり話し込んで、昼下がりにホテルを出た。
蒼く、高い、秋晴れの空を見上げる。
夕方は何をしようか。何をしたいか。……これから、何が出来るかな。
相変わらず心は苦しい。やっぱり過去とは向き合えないし、日々のストレスも無視できない。今回の自殺未遂はいつもの自己犠牲の延長だったが、きっと薬は強くしたり増やしたりすべきなんだろう。課題は山積みだ。
でも、今の俺だって、何も出来ない訳じゃないんだ。
石畳を踏みしめて、ゆっくりと歩き出した。
メリプ市宿泊の最終日。明日の朝、久々にゼフキに帰ることになる。
浄化と結界の張り直しを終えて、夕方にスパークルのメンバーと打ち上げをした。
各々が感謝し合い、温かい雰囲気だった。程度の差はあれ全員が怪我をし、回復して間もないため、酒抜きでの開催だった。レヴォリオはちょっと不満そうだったけど、まだ骨折が癒えていないお前が一番飲んじゃいけない人だろう。
俺は、全員から声をかけてもらえた。心からの感謝と尊敬が伝わってきて、あまりにも嬉しかった。
序盤で離脱した二人にも頭を下げられた。どうやらスパークルの仲間内で随分持ち上げられて話されていたようだ。
ミリーさん――泣いていた金髪の女性は、俺がレヴォリオを諌めたことを覚えていたらしい。礼を言われるような事じゃないから、お互いペコペコと頭を下げ合った。
次々と温かい言葉をもらって感極まってしまった。一人になったタイミングで少し涙ぐんでいたら、それに気づいたカルミアさんに弄られて撫でられた。恥ずかしかったが、悪い気分ではなかった。
依頼は全項目完遂。犠牲者なし。報酬も高額。友好的に解散となり、仕事の終わり方としては理想的な形となった。
最後にレヴォリオが、握手を求めてきた。
「ルークと仕事が出来て良かったよ」
照れくさくて笑いながら、強く握り返した。
「嬉しいよ。俺も、レヴォリオと一緒にやれてよかった」
彼は素直に微笑んだ。お前、営業スマイルじゃなくても爽やかに笑えるじゃないか。
そして彼は、煌めく無邪気な目で言った。
「また声をかけるから試合しような」
「うぇ、もういいよ。お前強くて疲れるから」
「楽しかったって言ってたじゃないか?」
「うっ――まあ……たまになら」
「よっしゃ! じゃあまたな!」
「はあ……。ふふ。またな」
精神的、肉体的に消耗し病状が芳しくない俺達は、打ち上げ後早々に宿に戻った。各々、荷造りと休養に専念するつもりだ。
だが俺は、ゼフキに帰る前に、落ち着いて話したい相手がいた。
口実を拵えて誘い、宿のロビーで待つ。
やがてケインが、小走りで現れた。今日は、シンプルなデザインだけど小洒落た形の半袖に、幅のあるズボン。気軽な服装も似合うなと思った。
「ごめんごめん、お待たせ!」
「急がせたかな。ごめん」
「ううん! 行こっか」




