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イルネスウォリアーズ-異世界戦士の闘病生活-  作者: 清賀まひろ
第3部 負った傷と負わせる傷

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12章63話 作戦会議はまとまらない

12章 煌めき



 スパークルの泊まるホテルに向かう。田舎者の俺は、思わず見上げて感嘆の声をあげてしまった。

 メリプ市の景観を壊さぬ石造りでありながら、装飾や色合いが洒落ている。いかにも高級ホテルと言った感じだ。


 煌びやかなエントランスへ恐る恐る入り、フロントに武器を預けて二階の会議室へ上がる。




 広く綺麗な会議室に入ると、レヴォリオが会議室正面の司会台前で椅子に座っていた。彼の親指が長机を指し示す。


「座れ。早速始めるから」


 スパークルは一列目に座っていたので、俺たちは二列目に着席した。



 レヴォリオの締まった表情と、綺麗に手入れし直された装備からは、疲れを感じなかった。彼は全員を一通り見回しながら切り出す。


「始めるぞ。情報共有と、この十人での明日以降の進行計画がメインの議題だ」



 レヴォリオは黒板に『メンバー』と書いた。


「前提として十人のロールを共有しておこう。動き方にも影響するから、そこから話を始める」


 目線を合わされて、話し出す。


「こちらは前衛二人、後衛三人だよ。タゲ、ショート、ロング、サポ、ヒーラーの五人で回してる」


レヴォリオが頷き、黒板に向かいながら言った。


「うちは前衛三人、後衛二人だ。ショートが二人いて、他はロングとサポとタゲ。ちなみに離脱メンバーはヒーラーとロング」



 顎に手を添えた。前衛、後衛各五人か。射程の広い風竜に対して分が悪い、ショートレンジアタッカーばかり三人もいる。それに、十人の治療回復を一人で担うウィルルの負担が気にかかる。不安だ。


 でもレヴォリオはそうではないようだった。彼は黒板に書いた十人のロールを眺め、ふうんと鼻を鳴らした。


「イルネスに回復役がいるのは幸運だ。それに、支援と壁が二人ずついる。あとは火力で押せば、風竜討伐も充分見えるな」



 レヴォリオは、こちらに向き直り、見解を話した。


「昨日の件を踏まえると、風竜は現在、遺跡全域に警戒を巡らせているようだ。遺跡内のモンスターを多く倒すことで不浄が弱まると、その地点を確認しに来てしまう。雑魚を減らす方針は中止だ」


 皆、頷く。風竜の襲撃に怯えながら小物を片付けるのは、とても現実的ではなかった。


 つまり、あの強敵に挑む時が来ていると言うことだ。



 昨日の襲撃で弱り、うちもスパークルも皆が尻込みしていた。しかし、レヴォリオは黒板へ向かい続ける。


「幸い、滞在期間はあと十二日ある。今日は準備して、明日風竜に挑もう」


矢継ぎ早に計画が書き足されていく。


「その後、怪我と消耗の回復で二日。素材の回収と残党の討伐で五日かかるか。浄化で二日、最終日は帰社。――これでいいな」



 たまらず発言した。


「待てよ。明日だって? 風竜戦はもっと先でいい」


こちらを向いたレヴォリオの顔を見る限り、聞く気はありそうだ。


「もっと休んで、メンバーを回復させるべきじゃないか? 各位の負担を軽減しなきゃ勝てない」


 レヴォリオはため息をついた。


「俺達はプロだ。金をもらう以上、消耗だの負担だのは各自間に合わせろ。計画に組み込む要素じゃない。モンスターの全体数を考えれば、日程に余裕はないんだ」


「レヴォリオの言う事も分かるよ。でも、怪我人が出たことで人数の方もギリギリだ。もう少し注意深く計画を立てたい」


 彼は純粋に不思議そうな顔をした。


「慎重に考えたとしても、風竜戦を後回しにする意味は分からない。個々人の戦力を考えれば無理な事ではないはずなのに」


「その戦力が発揮できないのが、今の状態だと思うんだ」


「何故だ? ここのメンバーは無事だろう? 風竜を倒せば山場は越えるし、終わりの目処めども立つ。負担がどうのって話もあったが、早めに取り掛かかった方がむしろ楽になるだろ」


 噛み合わなすぎて、口が真一文字になってしまった。



 なんとなく分かってきた。俺は後ろ向きな情報を重視して慎重に進めるが、レヴォリオは前向きな情報を重視して果敢かかんに進める。意見が合わないのはそこの違いだ。



 ……レヴォリオの姿勢の方が良いんだろうな。彼はリスクを負って進む度胸と、成功させるだけの行動力を持ってる。だからこそ仕事で結果を出す事ができて、スパークルのエースとして名を轟かせているんだと思う。


 その一方で、俺には何がある? 俺はリスクを回避したがる。自信を持てないから、最悪の状況を想定して怯えてしまう。そのお陰で仲間を守れる場面はあると思うし、俺はそれを一番大事にしてる。だが上手くやれていないのか、仕事の進みは遅いし、大きな仕事には二の足を踏む。


 ――きっと、夢で父さんに言われた通りなんだ。俺はずっと弱音を吐いて甘えてるんだ。もっともらしい事を言って、本当は、できない理由を探してるだけなのかもな。



 俺が黙り込むと、スパークルの壮年そうねん女性が手を挙げた。昨日索敵してくれた、ローブの似合うすらりとした人だ。


「なんだ?」


 レヴォリオに促されて彼女は立ち上がった。


「イルネスカドルさん、申し遅れましたが、サポーターのヤーナと申します」


うやうやしく頭を下げたヤーナさんは、長い茶髪を分けながら前に向き直る。


「――リーダー、私はルークさんの方針に賛成です。私は、納期を遅らせてでも安全に進めたいです」



 彼が機嫌を損ねたように見えた。


「理由があるんだろうな? サブリーダーさんよ」


 ヤーナさんはブレずに話す。


「私は睡眠や麻痺、沈黙や毒の術が使えます。これを利用して風竜を少しずつ削る策を提案いたします」


「それで時間を使う、だから納期を延ばしてくれって、客に説明するのか」


「はい。現場を見た上で納期の変更を打診するのはおかしくない筈。お願いします」


 レヴォリオは声を強めた。


「納期を守れない案は基本的に却下だ。ミスで欠員を出した尻拭いは、決められた枠の中でやる。仕事の質を落とすな」


 ヤーナさんは黙り、少しして座った。



 つい、眉間に皺が寄って、腕を組んだ。対立したままでは会議が進まない。折衷せっちゅう案を考えなければ――。



「仕事の質を落とさないために言ってんだよ。鞭打つしか能がねえ奴には従いたくないね」



 レヴォリオへ吐き捨てたのは、右隣にいるトラブルメーカーだ。俺の心臓は跳ね上がった。



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