11章62話 皆の隣
皆は次の言葉を促すように頷いてくれた。懸命に言葉を選んで繋ぎ合わせる。
「えっと――辞退すると、スパークルと揉めたり、会社に損失が出たりする可能性が高いらしい。だから俺は続行するべきだと思う。……俺の考えが足りなかったせいで、キツい仕事になってしまった。本当にごめん。なんとか一緒に頑張って欲しい」
下げた頭を上げると、きょとんとしたウィルルと目が合った。
「ルークのせいでキツくなったの?」
「うん。怪我人が出たのは、今朝、俺が行動の決め方を間違ったせいだ。考えが浅くて楽観的だった。遅くとも、風竜の強さが分かった時点で警戒と対策をしておくべきだったよ。人数が減って、厳しい仕事が余計にキツくなっちゃったなって話」
彼女はいっそう怪訝そうに首を傾げた。
「朝、レヴォリオさんとルークの二人で話して決めてたでしょ。決める前に、私達も、皆頷いたよ。スパークルさんも誰も文句言わなかったよ」
「そ、そうだけど……」
「風竜の強さを探知してもらって、十字路で解散した時は、レヴォリオさんが指示を出してたよ。なのに、ルークが悪いの? わかんない」
悪者作戦が予想外の早さで瓦解して、口下手が極まった。
「お、俺は一応代表者だからさ、現場の判断がさ、責任の発生に繋がってさ、それって結局俺のせいってことでさあ――」
聞いていたカルミアさんが笑った。
「ウィルルの言う通りだ。俺達、リーダーと一緒の立場で考えたいと思ってるよ。気を遣わず、レイジに言われたこと、話してみて」
ケインもうんうんと頷く。
「どうせ隠し事下手なんだから、最初から全部言っちゃいなよー! 皆、社歴は先輩なんだよ? 一緒に考えようよ!」
それでも俺が言い淀んでいると、黙っていたログマがため息をついた。
「大方、やれって話なんだろ。分かってる。俺達も納得してからやりたい。さっさと話せ」
ありがたくて仕方なかった。頼りない俺を、皆が隣で支えてくれる。こんな恵まれた事、他にない。
「……皆、ありがとう。遠回しにしてごめん。説明するから、分からない事があれば聞いてくれ」
レイジさんに言われた事をそのまま話した。皆は難しい顔をしていたが、納得してくれた。皆、続行の危険より、会社への負担の方が気にかかるようだ。
「じゃあ続行ってことで、明日からも頑張ろう。でも、命が最優先だからね。レイジさんもそう言ってた。今後も、状況を見ながら無理しない方向で働こう」
頷く皆の顔つきは、覚悟の決まった戦士達のものだった。
ウィルルが苦笑する。
「でも今日、一番命知らずで無理してたのはルークだね。これからの仕事、もっと危ないから、もうだめだよ?」
苦笑を返して、深く頭を下げた。
「あはは、そのことなんだけど――皆、今日は本当にごめん。調子が悪いことを、プライドのために隠そうとしてた。カバーしてくれて、ありがとう」
仲間達は顔を見合わせて、笑った。カルミアさんが不思議そうに問う。
「あっはは、どうしたの改まって。ルークはいつも大袈裟なんだから」
温かい笑い声に包んでもらっても、俺は、あの金髪の女性の咽び泣く姿が脳裏に焼き付いて消せなかった。
「――さっき病院で、改めて反省したんだ。メンバーの調子を無視したせいでこうなったって言ってただろ」
俺の虚勢のせいで仲間が深手を負うなんて、耐えられない。拳をぎゅっと握って俯いた。
「俺の調子に皆が気づいて諌めてくれなかったら、皆を傷つけていたかもって、ビビっちゃってさ……」
ケインがふふっと笑った。
「ほんとだよー。ルークは、他人だけじゃなく自分の事も大事にしてね。それが、私達のためにもなるから」
優しい説教に顔が緩んだ。
「強がったり誤魔化したりするのは、直してく。肝に銘じたよ」
ログマが鼻を鳴らした。
「それで、いつまで立ってんだ? 調子が悪いんだからさっさと座れ」
「あっ、そうだな」
ウィルルが誇らしげな顔を向けてきた。
「私、盗賊団の大仕事から今までに頑張った事を聞いてもらってたの。ルークも聞いて!」
「お、ぜひ聞かせてよ――」
座ろうと動いた瞬間、今朝の悪夢を思い出して、呼吸と身体が固まる。
でもすぐに、気づいた。
「あ……」
皆はついさっきまで四人だったのに、六人掛けのテーブルを選んで座っていた。
カルミアさんが心配そうな声を出した。
「どうした?」
はっとして、ぎくしゃくと笑いかけた。
「なんでもない。……ありがとうって思って」
「はは、本当にどうしたの! 今、誰も何もしてないよ」
「ふふっ。そうなんだけど、なんか思ったから」
皆の隣の空席に座った。頑固に背負い込んでいた肩の荷が、少しだけ軽くなったような気がした。




