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イルネスウォリアーズ-異世界戦士の闘病生活-  作者: 清賀まひろ
第3部 負った傷と負わせる傷

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11章57話 甘えてばかり



 止まり始めた涙を拭って、懐中時計を見た。まだ、集合時間には余裕がある。


 ずっと隣にいてくれたカルミアさんは、優しく尋ねた。


「今日、どうする? 休んでもいいと思うけど」


 目元が腫れた以外は、かなりスッキリしていた。


「いや、行く。カルミアさんのお陰でだいぶ楽になったから。ありがとう」


 カルミアさんは微笑んだ。


「そっか。辛い時はすぐ言ってね。ルークの話なら、いつでも聞くよ。前衛同士助け合お、ね」



 ログマは朝の散歩だったようだ。部屋に帰ってきて、泣き腫らした俺の顔にぎょっとしていたけど、珍しく絡んではこなかった。


 ロビーに揃って出発する時、後から来たケインとウィルルも心配する目で俺を見ていたが、口には出さなかった。


 彼らのそれらの反応も、優しさだと感じた。




 遺跡前の平原に着くと、スパークルメンバーは既に揃っていて、レヴォリオが何やら難しい顔で話している所だった。


 気まずい感じで遠めにたたずむ俺達。気づいたレヴォリオが溜息をついて、凹んでいるメンバー達をかき分けながらこちらに歩いてきた。


「おはよう。早速だが、状況の共有と作戦会議だ」


 挨拶を返し、十字路から得られた情報を共有した。


「――とにかく中小モンスターが多いんだよ。奴らが風竜戦に乱入すると厄介だから、数を減らしたいと思ってる。十二人で動けば数で囲まれる心配もないし安心かなって思うんだけど、今日はそれでどうだろう?」


レヴォリオは少し考えた後に言った。


「基本的には賛成だ。だが、効率のために二社に分かれて動くべきだ。風竜の情報取得だけは合同でやりたいから、十字路まで同行しろ。その後は別行動だ」


 レヴォリオは相変わらず命令口調だが、昨日よりは少し会話できる雰囲気になった気がした。何にせよ、噛みついてこないに越したことはない。


 メンバーを振り返ると、皆頷いてくれた。


「――了解。それで行こう」




 十二人で遺跡に入り、現れた小物を倒しながら十字路に着く。


 正面の道を指差した。


「この正面の構造物の右側奥に広場があって、そこに風竜がいると思うんだ。ただ、ここからだと柱や構造物で目視はできない」


 レヴォリオは肩越しに後衛の壮年女性を見た。


「だそうだ。やれるな」


「はい」


 女性はウィルルのそれに似た水晶の杖を持ち、目を閉じた。杖に集まった緑色の光が疾風しっぷうとなり、遺跡の右側へ向けて飛んでいく。しばらくして杖が再び緑に輝いた時、彼女は目を開けた。


 女性は顔を歪めた。


「風竜の反応はとても強いです。この十二人でぎりぎり討伐できるくらいでしょうか。厳しい戦いになりますね」


 レヴォリオが強い口調で言う。


「厳しい、じゃない。どうするか考えろ。情報を取った本人が無策じゃあ困る」


「……すみません。考えをまとめておきます」


 周りを萎縮させるレヴォリオをいさめる隙もなく、彼は淡々と指示を出した。


「イルネスカドル、左手を任せる。俺達は今日、正面のデカい建物に行く。その後は各自帰投(きとう)、明日も同じ時間に集合して進捗報告で。いいな」


 レヴォリオ達は正面へ迷わず向かって行ってしまった。身体の大きな男性がレヴォリオを追いながら何か言っていたようだったが、やがて静かになり、彼らは構造物の門へと消えていった。




 つい大きなため息が出る。


「彼ら、雰囲気が悪すぎて、こっちまで疲れてくるよ……。とりあえず左手へ向かおう。俺達のペースでいい、怪我や疲労に気をつけて」



 すると、ケインが目を伏せて言った。


「うん……ルークが一番心配かな。正直、酷い顔してる。自分で分かってるんじゃないの?」


 彼女の言葉はいつも的確だ。言葉に詰まっていると、ウィルルも俺の顔を覗き込む。


「私もね、辛そうだなって思ってたの。なるべくサポートするね」


 慌てて首を振り、明るく笑って見せた。


「いやいや。気を遣わせてごめん。今朝は不調だったけど今はまだマシだから、大丈夫。俺の事はいいから、まずは仕事――」


「そうやって、自分の現状を誤魔化すのをやめろ」


 咎められ、ログマを見る。目線は斜め下へ逸らしているが、明らかに難色を示す表情をしていた。


「誰の目から見てもお前の調子は悪い。それに今回は、これまでとは段違いに危険な仕事だ。……死ぬぞ。強がって突っ走って、倒れられると、俺達全員が迷惑を被るんだ」


 ぐっと呻いて、俯いた。


「ご、ごめん……」


 ログマはため息をついた。


「謝れって言ってない。理性的に判断しろって言ってるだけだ。お前の状態を考慮して、陣形を再編成するぞ」



 口は悪いが、言っていることは正しかった。自分の無力さが悔しくて動悸がする。また浮かんだ涙を堪えるために、拳を固く握った。


 俯いたまま黙り込んだ俺の代わりに、カルミアさんが明るく言った。


「俺の活躍の機会が来たねー。前衛やるからさ、中衛にログマとルーク、後衛にウィルルとケインでいこう。ケイン、背後の警戒は任せたよ」


「もちろん! 射撃が効く奴は自力で倒すし! ルルちゃん、霊術サポートよろしくね」


「うん、頑張る。皆が怪我しないように守るね」



 皆、頼もしいなあ。甘えていいのかなあ。でも俺、甘えてばっかりだ。病気を理由にして、皆の協力と優しさに寄りかかって、自分の弱さを正当化し続けて――。



 カルミアさんに背中をぽんと叩かれて、我に返った。


「ほら、行くよ。カバー、頼りにしてるから」


「あ、うん。ありがとう……頑張るよ」


 鬱々とすんな。切り替えて、役割を全うしなければ。



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