35章290話 決起集会
二十一時。イルネスカドル本部の会議室に、会社のメンバー四人と上司二人、ほろ酔いのレヴォリオ、少し眠そうなガノンが一堂に会した。肝心の俺はくたびれきってるけど。
レヴォリオはうちの上司達へ挨拶に行った。ダンカムさんがイジった事で、レヴォリオの『諸刃の焔』と言う二つ名を知った。久々に見るレヴォリオの営業モードは、鼻につくと同時に、少しだけ微笑ましかった。
全員が席に落ち着いた頃。ガノンと俺は司会台へ出る。
ガノンが、ここまでの表向きな事情と皆への協力依頼を説明してくれた。既に了承済みのカルミアさんとレヴォリオを除いて、驚き戸惑う皆。ただ項垂れて手を合わせるしかない。
ケインが尋ね、ログマが追従した。
「あの。この件、ルークは口外禁止を貫いてたんです。機密に触れる話だと理解してました。なのになぜ今こんな依頼を?」
「同感だ。要は裏仕事だろ? ヒュドラーの時の連携とは全く違ぇぞ。私的な制裁の方が好都合って、明らかにロクでもねえ話だよな」
二人は特に不服な様子。……それでも退席せずに質問しているのが、協力の意思の表れだ。ありがたいが申し訳なくて、不参加を促してしまいたくなる。違う気もして黙ってはいるが。
困ったようにツノの根本を掻いたガノン。
「鋭い、且つ当然の疑問っすねぇ。ご理解の通り、契約してんのはあくまでルーク個人ですから、背景の大部分はお伝えできません。でも、今回の話は全く独立と思って頂きたい」
そして、苦笑いではっきりと告げた。
「これは、ルークから一同への『救援のお願い』です。我々防衛機関は、彼が私怨で殺されては不都合なので、内々に協力する事にしました。多少の手荒な真似くらいは綺麗に揉み消す形で。皆さんも任意参加ですが、どうしますか? ──そう言う集会っすよ」
ややあって、ログマが鼻で笑う。
「そもそも仕事じゃねえと。俺達とカス四匹、平民対平民の小競り合いが起こった時、国は俺達へつく、てだけの報告か?」
「はい」
「ハハ! 権力ってヤツは怖いねぇ。ルークの為ってのが癪に障るが、面白そうな話ではある」
よく見ているウィルルが絡む。
「本当は怒ってないでしょー」
「ああ? 分かったようなツラして絡んで来んなクソガキ!」
「や、やんのかあ」
「……今回はもっと良いストレスの捌け口がありそうだ、見逃してやるよ。運が良かったな」
「にへへ、やっぱりー。頑張ろうねぇ。やっとルークの助けになれるんだもん」
ケインは大きなため息の後、口の端を歪めて頬杖をついた。
「……ま、何かしらは出来るかな! 手荒でなくたって、痛い目見せる方法はいくらでもあるでしょ」
「あっはは! 俺はケインが一番怖いかも。味方なんだから頼もしいばっかりだね」
嬉しそうなカルミアさんを見て、ケインも笑顔から苦さを消した。
レイジさんが淡々とガノンへ尋ねる。
「もうこれは権力争いの外で、ルークが自分の保身に集中する局面。うちと契約を交わす訳でもない。で、合ってるな?」
「その通りっす」
「うん。なら俺とダンカムは、把握した上でシラを切る事にしよう」
判断はドライだが、眼鏡の向こうの黒い瞳は温かかった。
「会社とは無関係の話だって体裁を保つためだ。ルークが守りたいもんには、ここでの生活も入ってるだろ? お前らが攻めるんなら、俺達は保守しとく。──それでいいか、ルーク?」
最適解のように思う。唇を噛んで無言で頷いただけになってしまったが、彼は満足げに微笑んだ。
「うん。じゃあそう言う事で」
ダンカムさんも笑顔を見せてくれる。
「賛成だ。少しもどかしいけど、表彰で目立ったばかりだもんね。会社ぐるみで荒っぽい世直しを始めたとか言われ出したら困る」
「くはは、放っといても何かと言われがちな事業だしなー。あくまで保身が目的ってんならこれがベストな協力だろ」
「そうだね。……ルーク、僕達にも話してくれてありがとう。安心して支援できる。嬉しいよ」
ガノンが俺へと向き直り、首を竦めた。
「さ、俺からの説明は済んだぜ。全員参加みたいだよ。ルークが号令かけなきゃ始まらないっしょ? ……頑張れ」
頷いて、一歩前に出る。誰も見えなくなるくらいに頭を下げた。
「迷惑かけて、ごめんなさい。集まってくれて、考えてくれて……本当に、本当にありがとう」
また浮かんだ涙が床へ落ちる。
「…………頼らせて、貰えますか……」
「勿論だ。でも甘えは許さない。お前がしゃんと立たないと意味がないだろう」
間髪入れずに答えたのはレヴォリオ。隣へやってきて肩を組まれた。伏せたい頭が持ち上がってしまう。
カルミアさんがニヤニヤと便乗する。
「お、いいね。うちは円陣が慣習なんですよ。皆でやろう」
遠慮の隙もなく、九人全員が円になってしまった。
ダンカムさんの太い掛け声。
「ルークを守るぞォ!」
「おおー!」
俺だけそのまま崩れ落ちて、小さくなった。一年前──あの日の土下座にそっくりだ。
「……この先、どれだけ生きたって、こんな幸せな事ないよ。なのに……こんなにされちゃ、まだ死ねないじゃんかあ……」
「円陣を一瞬で水の泡にすんなァ!」
ログマに丸まった背を蹴られた。ガノンと違って容赦ない。けれど、ウッズに蹴り上げられた時のような屈辱もない。
今ここで俺を囲む笑い声の全てが、俺を想ってのものだと知っているから。
活発な意見交流によって、作戦は思いの外スムーズに決まった。
基本方針は『やられる前にやる』。迎撃ではなく襲撃だ。既に街へ実害が出ており、俺の拠点も知られている状況で、敵方を泳がせるのは危険だとの考え。
四日間で四人、毎日一人ずつ狙う。俺の知る各人の性質とバデリーさんの調査結果から計画した。
俺達は、勢力を大きく見せるため、そして責任を分散するためにも、担当を割り振る事にした。もちろん俺だけは全日参加。
一日目、長剣士ヒーワン。レヴォリオが酒場で聞いたのはこいつの噂だった事もあり、味方はレヴォリオとガノンとする。長剣士対決だ。武器の相性を言い訳にはさせず、最も小知恵の回る参謀を確実にへし折る。
二日目、精霊術士フニッツ。ケインとウィルルが抜擢。全属性霊術を警戒したのもあるが、女好きにつけ込んだ精神攻撃がメイン。こいつを落とせば、奴らの取れる作戦はかなり限られる。
三日目、格闘術士ミザリーズ。これはバデリーさんによる強制決定。肉体強化霊術を使いこなすが……裏社会の有名人であるバデリーさんの方が強いだろうな。今から不安で気が重い。
四日目、戦鎚士ヨシフォ。単騎にして叩くのが最適と見て最終日に置いた、ミザリーズに負けない危険人物だ。カルミアさんとログマ、慣れた二人と組んで、多彩で性悪な戦法に対応する。
ダンカムさんは炊き出しと拠点警備役。レイジさんは通常営業と対外的な窓口。
加えてバデリーさんからは、今夜は四人の動きが無かったと連絡が来た。ウッズの唐突な方針変更を承知こそしたが、当日中に妙案がひらめく事はなかったようだとの事。
……こんなんで、良いのかな?
決して舐めてはいないけど、負ける気がしないんだ。




