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イルネスウォリアーズ-異世界戦士の闘病生活-  作者: 清賀まひろ
第6部 自由に沈まず選び取れ

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34章277話 相変わらずでこそ




 対談の日、早朝。調子は心身ともに中の中。



 今日の着装ちゃくそうは特殊。ゆるめの私服の下にインナープロテクターを着込み、防刃ぼうじん手袋や肘当て膝当て、ダメージ軽減チョーカーなどの小物を合わせ、腰には短剣、背には長剣。そこに耳当て付きの帽子を深く被り、目立つらしい髪色を隠している。一見、護身で武器を持っただけの一般人だ。



 会社を出ると、まだ弱い朝陽が心地よかった。今日はここで防衛団の乗り合い馬車を待つ。


 背後で再度ドアの開く音がして、振り返る。厳しい顔のログマが現れた。


「あれっ。おはよう……?」


 朝の散歩にはまだ早いはず。俺の出掛ける音で起こしてしまったかな?


 彼は挨拶も返さず、俺の格好を見て眉をひそめた。


「話し合いに武器持参、ね。ついに事情を喋らねえまま行くんだな」


「……そうなったね。ごめん」


「お陰で返礼が片付かなかった」


 言われるまで忘れていたが、戦闘スタイルの相談の礼だろう。確かに俺は、ウッズの件へも意見が欲しいと言った。


「家族の事で充分助けられたよ」


「いーや、それじゃ取引に沿わねえ。後味が悪いんだよ。……が、因縁のクソ貴族と話すって事しか知らねえ以上、これだけだ」



 彼は悪態あくたいと同じ調子で言い放つ。


「いいか。中身はいきなり変わんねえ。だから虚勢を張れ。ナメられても脅されても知らねえフリで、堂々と笑って見せるんだよ。それだけで話の流れがちげぇハズだ」



 ログマらしくない素直さで伝えられた、ログマらしい助言。俺に足りない部分を急(ごしら)えで補強できる、的確で親身な協力だ。


 物凄く嬉しくて、それがまた何だか申し訳なくて、苦笑に逃げた。


「……ああ、分かった。頑張る」


「今そのツラが既にクソザコ。れい点」


「うぅーん、自信ねえんだよ、実際にクソザコだから。頭脳戦で上手くやれた試しがない」


「はあぁ? 自分がヒュドラーのボスに土壇場どたんばでカマした大芝居も忘れたか?」


「…………あっ。でもあの大嘘が成功したのは偶然だ。内心大慌てだったし」


「大慌てであれが出来んなら、なおさら問題ないだろうが。自虐が矛盾してんぞバァカ」


 あの時の『心底見直した』って言葉、ただの勢いじゃなかったのか。困ったな。湧いた自信で浮き足立ちそうだ。


「ふふっ、ずっと口悪ぃなあ。――ありがとう。お陰で元気出たから、いける気がしなくもない」


「……そうですかい。チッ」



 遠くから、馬のひづめと車輪の音が近付いてきた。いよいよ出発だ。



 馬車を一瞥いちべつしたログマは無愛想に背を向けた。だが勢いよく開いた玄関ドアに、ばがぁん! としたたかに弾かれる。


「はわっ誰かいた? ごめんなさい!」


 派手な音と体勢を崩した彼に驚きながら飛び出てきたのは、寝巻き姿に寝癖付きのウィルル。俺を目に留めて、満面の笑みを見せる。


「あっ、やった、間に合ったぁ!」


 まさか苦手な早起きをしてまで見送りに? 喜びを味わう暇も無く、ログマがいきり立つ。


「何がマニアッターだ! 危ねえだろ!」


「む、むぅ……そんなに痛かったの? ごめんね? まさかログマも来てるだなんて思わなかったの。意外とルークを心配してたんだあ、優しいね! おはよっ」


「ああああ全てムカつく! こいつを殴ってはいけない社会ごとぶん殴りてえェ!」


「なんでぇ? 壮大な乱暴だねえ……。仲良くしてよぉ。私はログマ好きだよ?」


「――くふっ。あっはははは!」


 我が道を行く二人の噛み合わなさに、つい笑ってしまった。呆れるほど相変わらずだ。……それでこそ、安心させて貰える。



 ウィルルが慌ててこちらに向き直った。


「あっ。あのね! どんな勝負でもルークなら大丈夫だよって言いたくて来たの」


「……ありがとう。そんな事ないけどな」


「ううん、大丈夫! 皆そう思ってるよ」


「皆……?」


「私達って、今のルークの強さを一番よく知ってるもん。心配は心配だけど、ルークがこてんぱんに負けて帰って来るイメージしてる人、いないよ? そんな事、今までなかったから!」


 手放しで俺を肯定し、大丈夫! とまた笑うウィルル。なんだよ。そんなお世辞、わざわざ伝えに来ちゃってさ。何故かログマでさえ、眉間みけんに皺を寄せてため息をついたけど、否定はしなかった。


 おかしいな。俺はこれまで、弱った不器用な姿を晒し、助けてもらってばかりだったのに。褒め上手な仲間に恵まれたものだ。


「……そんなに持ち上げられたら謙遜けんそんしにくいだろ。照れちゃうよ」



 タイミングよく馬車が着いた。そちらへ向けた視界は嬉し涙でかすむ。やっぱり俺は情けない。何も進歩してないようにさえ思う。



 ――けれど。俺はもうとっくに、アミナペトラ兵団株式会社の、降級されたルーク一等兵ではない。株式会社イルネスカドル、本部チームリーダーのルークなんだよな。


 俺も案外、相変わらずでいいのかも。



「行ってらっしゃあい! 頑張ってー!」

「死ぬなよ。それ以外はどうにでもなる」


 馬車に乗り込む俺へ手を振ってくれる、愛らしい同志達。


 今度こそ、いつも通りに返せる。


「本当にありがとう! 行って来ます!」






 防衛戦士団員らと共に、行政会議の会場へと運ばれていく。いつも見ている大きな河を街の内側へと渡り、検問所けんもんじょを通れば、人生初の帝都中央区。皇帝のお膝元だ。



 ここに居住または駐在しているのは、皇族や貴族などの上流階級とその家系、政治を動かす首相や大臣や官僚、国の財政に関わる程の大企業の関係者。あとは彼らの仕事や生活を支える人々のみと聞く。下働きの立場でさえも国の上澄み、優秀な人々で構成されている。


 窓から見える人や建物も、優雅で余裕のある雰囲気だ。自分の生活圏の雑多ざったぞくっぽい賑わいが嘘のよう。



 やがて着いた『バヤト総合評議場』は、だだっぴろい敷地を持つ複合施設だった。


 白い石畳と整った植栽しょくさいの中にいくつもの建物が並び、複数の会議場だけでなく食事や喫茶、宿泊用の施設もある。情報としては聞いていたが、初めて見る人工的な解放感と高級感に圧倒されそうだ。



 馬車を降りてすぐ、同乗していた防衛団員のうちの一人が声を掛けてくれた。


「ルークさんですよね。僕、ガノン兵長から頼まれてる者です! 最初だけご案内します」



 柵に囲まれた議場、その入り口の門では、入場者の身分確認や身体検査が入念に行なわれていた。担当は防衛統括機関員のようで、防衛戦士団と同じ朱色のマントに、金色の刺繍ししゅうが加わったものをまとっている。


 まだ貴族らしい格好の人はいない。警備の防衛団員を含め、運営側や下働きの人員が集合している段階。案内してくれる彼が何やら説明したお陰で、俺も他の防衛団員と同様の簡易的なチェックで済まされた。



 場内を移動しながら、案内の男性は言う。


「敷地内は精霊術禁止でお願いします。結界が張ってあって、警報が鳴るんです。とはいえ精霊力式の道具も会議で色々と使うので、強い精霊反応がなきゃ大丈夫ですがね。うっかり警備兵に取り押さえられないで下さいね!」


 敷地内広場の端、大きさの割に目立たない建物へ。いわゆる管理(とう)だろう。


「この部屋が今日の拠点だそうです。僕は別の仕事で来てる部外者なんで、詳細は兵長に聞いて下さい」


 階段を長々とのぼって案内された部屋には、数人の防衛団員と共に準備を進めているガノンがいた。


「お、来た。――案内ありがと! 助かった」


「いえ全然! じゃ僕、失礼します」


 先導してくれた彼は、全く深入りせずに笑顔で敬礼して、誇らしげに去った。



 ガノンは彼を見送って一瞬だけ憂いを覗かせた後、いつものように人(なつ)っこく笑う。


「さてルーク! まずはお着替えだ」



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