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イルネスウォリアーズ-異世界戦士の闘病生活-  作者: 清賀まひろ
第6部 自由に沈まず選び取れ

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34章275話 新生ログマ、鍛えられる



 新生フル装備のログマは、特殊メインウェポン、通称『霊媒メイス』とバックラーをたずさえている。熱く指導するダンカムさんは、金属鎧に稽古用グローブだ。


 今のログマは、まだバックラーを扱いきれていない印象。攻撃に反応し防ぐ事はできている。しかし、衝撃を流しきれずにダメージをこうむり、隙が生じるのが難点。理想は受け流しながらの反撃なのだが……。



 ダンカムさんのかつが入る。


「受けて終わるな! 続けると左腕が壊れるぞ!」


「嫌でも分かるっての――おらァ!」


 霊媒メイスは全金属製で、長さはショートソード程度。ログマの身のこなしを見る限り、重さは問題にならなそうだ。


 紡錘ぼうすい型の頭部には頑丈な出縁フランジが設けられ、硬い防具や鱗の上からでも殴打の威力を発揮できるだろう。先端にある長めの突起は刺突をも可能にし、精霊術力を集めての操作にも便利そうだ。



 だがやはり、絶え間ない駆け引きの続く肉弾戦は経験不足か。


「打った後ォ! てぇやッ!」


「ぐっ……!」


 メイスの一撃はダンカムさんを捉えたが、鎧の頑丈な肩部分で受けられた後、逆に脚へ蹴りを貰った。結局ログマが後退させられてしまっている。


 表情に心身の苦しさがにじむログマだが、それでも思考は止めていないようだ。


「何故だ! 油断はねえ筈だぞ」


「あの一撃で僕を退しりぞかせようと集中していたのは良い。でも上手くいかずに止まったのが致命的だ。常に手札を用意して、失敗や反撃に対応できるよう気を抜くな。例え確実にぶっ飛ばせると思う相手でも、だ」


「……チッ……!」


「打撃で作った隙に精霊術を繋げてこそ、君の武器が活きる。相手の射程内にとどまるな、足と頭を動かせ!」



 霊媒メイスの頭部、打撃を担う箇所のすぐ下。衝撃から守りつつ光を遮断しない、洒落た形の金属の枠にまった大きな水晶が、赤い光を放った。


「クソほど動かしてンだろが! テメェが距離詰めすぎなんだよおおお!」


 ログマがメイス一振りで展開した三発の火球は、一瞬でダンカムさんの足元目掛けて飛んで行った。展開速度も強さも、これまでとは段違い。やはりこの特殊で上等な杖を使いこなす事で、彼の精霊術は一層輝くに違いない。



 ……しかし今は相手が悪い。ダンカムさんは三発の軌道を読んで避けながら前へ跳び、拳を見舞った。ログマはバックラーを斜めにかざして防いだが、その次を繰り出す余裕は今回もなかった。


 そして指導はまた別の視点へ。


「至近距離だからとぬかったな? 火で守るなら範囲展開と言ったろう。――適切に使えなきゃ豊富な技能も持ち腐れだ! 自分に振り回されて死ぬんじゃないぞ!」


「だああぁ腹立つ! ぜぇっ、次だ次ィ!」




 人も武器も見慣れない組み合わせでの稽古に、自分で分かるほど大興奮してしまう。隣で共に見学するカルミアさんも、ソワソワと手で槍のイメージ動作をしながら、興味津々で訊いてきた。


「いやー、本気の稽古っていいよね。ニヤけちゃう。――結局、デカい水晶一つに纏めたんだ?」


「ううん。持ち手付近にも七種埋まってる」


「そうなの! すげー。贅沢」


「ルビーとアメジストには一段と金かけてるから分かりやすいよ。上下で光ってて目立つだろ?」


「あ、確かに。火と闇は得意だもんね」


 水晶は六属性に回復・妨害等の無属性まで、全七属性を無難に媒介できる。最も広く用いられており、ウィルルの杖も大きな水晶一つだ。


 今回の霊媒メイスでも、傷んだ時の交換まで視野に入れ、価格をなるべく抑えつつ上等な物を用意できるという理由で採用された。


 しかしそれだけでは、属性ごとに尖らせてきたログマの術を発揮しきれない。そこで持ち手付近に、比較的小粒ながら質の良い宝石が七種あしらわれたのだ。



 カルミアさんが楽しそうに言う。


「ログマ、伸びしろあるなぁ。ダンカムの指導もかなり実戦寄りになってきた。出してる力は三割弱に見えるけどね」


「うわあ、流石ダンカムさん。俺ら前衛が崩されるって割とピンチだから、実戦想定の練習は助かるけど……キツそうだな。ふふ」



 ふと、以前の会話を思い出して。


「――ログマがまともに武技を教わるの、人生初なんじゃないか? 精霊術も剣技も我流だって言ってた筈」


 カルミアさんは少し考えて、はっと口元に手をやった。


「そっか、確かに……! 少なくともうちに入ってからはかたくなに一人で訓練したがったから、俺も特に教えてないや。練習試合は数回したかな」


「カルミアさんもか。俺も最近少し助言した程度だ。……多分今までは、自分の力に他人が介入することを避けてたんだと思う」


「あぁー、そっか、だろうね。納得」



 大きく頷いたカルミアさんは、今一度稽古を眺めながら、ふっと優しく笑った。


「自分の強さのために本気で殴り合ってくれる誰かがいるって、やっと分かったところなのかな。叩き込んでもらうくらいで丁度かもね」



 俺もつられて微笑んだ。鍛えられる苦しみは、強さを求める者にしか味わえない愛だろう。


「初の先生がゴールド級なんて、ログマは贅沢だな。あはは!」


 外野の言いたい放題も、気心知れた上長にぶつかり続ける汗だくのログマには聞こえていないらしい。それもまた俺達の口角を上げるのだった。



 この後、俺も心の稽古の予定が入っている。お陰で、張り合いが出るような気がした。



「はい止め。うん、初にしては上出来だ! ――少し待ってて」


 ダンカムさんがおもむろにこちらへ来てグローブを外す。戦士モードの強面こわもてだけど、彼も何だか感慨深そうに見える。


 そして、地面に置かれていた短槍サイズの棒を持ち上げて戻っていった。ダンカムさんって、槍術もシルバー級を持ってたな……。


「今のは僕が超近距離型の敵だった場合だ。モンスターを相手する時が多いな。次は対人戦で多い、得物持ち想定でやろう。さっきよりも距離があるから術が活きやすいけど、相手の刃先も近いから注意だぞ。――さ、構えて」


「……すっ……少しは、休ませやがっても……いいんじゃねえのかァ……」



 カルミアさんと共に大声で笑いながら、一応は後衛であるログマの小休止へ賛成してやった。



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