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イルネスウォリアーズ-異世界戦士の闘病生活-  作者: 清賀まひろ
第1部 鬱病剣士の新しい居場所

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3章16話 円陣





 翌日の昼食後、五人が揃って会議室に集まったところで、話し出す。


「作戦会議を始めるよ。因みにダンカムさんは、依頼完了までの社内業務は任せろ! って作業室にこもってくれてるから、今日からは五人だ」


 ログマがニヤリと笑う。


「昨日は誰かさんが文句言うために呼び止めたから居てくれただけだしな」


「グッ――と、とにかく。今日も仕切りは俺がやるけど、皆自由に発言してね。まず、カルミアさん、昨日の報告を頼みます」


 ログマは意地悪がほんとに得意だよ。くそ。



 むくれて座った俺に代わって、カルミアさんが立ち上がる。顔色的に、昨晩は深酒はしなかったようだ。


「はーい、昨日の調査の報告します。地図に書きながら説明するよー」



 大きな紙に書いた、ゼフキ北区の簡易地図を正面の黒板に広げる。


「――経緯や詳細ははぶくけど、接触場所候補が二つに絞れたんだ。接触場所によって作戦が変わると思う」


 カルミアさんが、地図の会社の位置に黒で家を描き、それより北東に赤で星を描く。


「盗賊団が拠点にしてるのは、北区北東のスラム街。ここならすぐ接触出来ると思うけど、彼らに有利だろうね」


 カルミアさんが指を二本立て、赤丸より東の太い道を青で囲う。


「そこで二択目。奴ら、夜のマイゼン大通りにも出てきて、人を路地裏に引き込んで悪さするんだって。ここを狙うのも有り。戦闘はしづらいけど」



 ケインはなんだか怒っていた。


「マイゼン大通りは治安が良いと思ってたけど、そんなヤツらもいるんだ。最悪。公衆の面前めんぜんでノしたい」


 ちょっとビビってしまった。


「ケイン、血の気多いな。どうしたの……」


「犯罪者、ほんとに嫌いなの! なんでクズの自己満とストレス発散に善人が付き合わされるのか、意味分かんないじゃん。――ねえカルさん、大通りで接触しない?」


 殺気立っている彼女に、カルミアさんも押され気味。苦笑いを浮かべていた。


「はは……。ケインはそう言うと思ったよ。他の皆はどう?」



 ログマが顎に細く長い指を当てて言う。


「スラムを狙う理由が弱いんだよな。盗賊団側に利がありすぎる。唯一の利点は早く接触できることだが、納期以外で急ぐ理由はあったか?」


 目を向けられた俺は首を横に振る。


「他に情報は?」



 問いかけたログマに反応し、ウィルルが手を挙げた。


「私は、急ぐからこそ、大通りがいいと思う……。って言うのはね、近所に大きい精霊殿せいれいでんがあるでしょ。ラビワラ霊殿。昨夜、そこで、力が強い精霊達にうわさを聞いてきたんだ」



 そんなこと、相当精霊術にけた者か聖職者でないと出来ないはず。依頼したら、かなり高額の謝礼が必要だ。



 びっくりしたのは俺だけではないようだ。……理由は違ったけど。


「引きこもりのお出かけ報告か、楽しみだね」


「ログマ余計な事言わないで! ルルちゃん、声掛けてくれたら一緒に行くのに!」


「これは驚いたな……」


 注目が集まったウィルルは縮こまってしまった。


「お、思いつきでやったんだけど、役に立つかもなの……聞いてくれるかな……」


「ぜひ聞かせてよ。役に立たなくてもいいから、頼む」



 うながすと、恐る恐る口を開いてくれた。


「色んな話があったんだけど。特に火の精霊が怒ってたの。盗賊達、最近北区のお家を何軒も窃盗せっとうした後放火してるんだって」


 窃盗と放火……。結構重めの悪さだ。


「そのせいで火を怖がる人が増えて、信心しんじんが弱まったせいで、北区の火の精霊は力が出ないって」


 彼女は身振り手振りを加えつつ、懸命に話した。


「でもね、盗賊団はまだ捕まらないから、火がブームになっちゃったみたいで……」



 ウィルルの声が震える。


「マイゼン大通り周辺を強盗した後、高純度のアルコールを撒いて、火をつける計画があるんだって」



 俺達は口々に驚愕の声をあげた。彼女はびくっと驚いた後、慌てて続けた。


「あっ、あう。――その後はゼフキからしばらく姿をくらますらしいの。間に合わないかもだから、今から大通りに向かわなきゃって」



 今から?



さえぎってごめん。実行は今日なの?」


「そうなの! 今夜! だから聞いて欲しかったの……」



 皆の時が止まる。


 一斉に時計を見上げると、現在十四時。マイゼン大通りまで徒歩だと一時間。



 緊迫感きんぱくかんにざわつく中で、俺自身も慌てつつも、声を張った。


「時間が無い! 今日の流れを指示させてもらう!」


 皆が、再度司会台に立った俺を見る。むずがゆいけど、言ってられない。


「今夜までの必達項目は、盗賊団との接触! ランツォ君も同行してる可能性が高い。必ず接触する為に、作戦を説明するよ」


 地図の赤い星を指さす。


「相手の拠点は北東スラム。夜に実行するなら、日が落ちる頃には大通りに向かうことだろう。今は拠点で準備している筈」


 次は、地図の青印を指さした。


「だから、マイゼン大通りに先行する。彼らの動きと実行地点をいち早く把握して叩く」



 皆を見回す。


「――相談なんだけど、この中で精霊術が得意なのはウィルル、ケイン、ログマでいいかな。偵察ていさつ探知たんちをお願いできる人はいるか」


 ログマが真っ先に返答する。


「この状況なら俺が一番得意だと思う。――ルーク、ケインとウィルルへの指示権を譲れ」


「わかった、頼むよ」



 ログマは二人を見て話し出す。


「まず俺の闇術あんじゅつ火術かじゅつで、通り周辺の悪意と火の気の強い場所を探す。そこを確認するのが二人の仕事。ケインは風、ウィルルは土で様子を窺え。いけるだろ」


 ケインはいつも以上に頼もしい笑顔で言った。


「範囲を絞ってくれるならやりやすい! 任せて!」


ウィルルもうんうんと頷く。


 ログマが俺を横目に見た。


「さて、続きをどうぞ」



 皆頼もしい限りだ。


「――場所が絞れたら接触。交渉は基本俺がやるけど、場所や相手の人数に合わせて動こう」


 皆が頷く。



 ……こんなものだろうか。


「駆け足だったけど以上だ。臨機応変な対応になるけど、皆を頼りにしてます。準備でき次第応接間に集合。一時間後には出よう。じゃあ――」


 解散と言いかけたところで、待ったと言われた。カルミアさんだ。


「何かあった?」


「ああいや、大した事じゃないんだけど」



 はにかむカルミアさんを見て、何か察したらしいログマがため息をついている。


「大きな戦闘が予想される時は、皆で円陣を組んで声を出すんだ。俺達、気持ちが盛り上がりにくい所あるし、形から入ろうって……。ルーク、どう?」


 さっきのため息に凄く納得した。ログマはこういうの嫌だろうな。


 俺も、ちょっと照れくさいけど――。


「やりましょう。皆、前に集まって」



 会議室の前方に集まり、五人で肩を組んだ。こういうの、いつぶりだろう。


 左隣のケインが微笑む。


「ルーク、なにか一言と、掛け声を」


 一瞬何を話そうか考えたけど、カッコつけずに思った事を話そうと思った。


「……思ったより大変な仕事になりそうだけど、あんまり不安じゃないんだ。だって俺達、病気っていう強敵と毎日闘ってるんだから。きっと、上手くいくよ」



 息を大きく吸い、腹に力を込める。


「成功させるぞ!」

「おお!」




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