3章12話 俺の説教を聞いてくれ
まずは君から。優しくて話の通じやすい君と最初に話したがる、俺の弱さを許せ。
「ケイン。昨日は俺の間が悪くてごめんな」
「ううん、大丈夫……。取り乱してごめん」
「あの状態はたまにあるの?」
ケインは言い淀む。少し考えた後、自信なさげに言った。
「数ヶ月に一回かな……。頻度は変わるけど。ごめん」
「わかった。把握しておく。休むことだけ伝えてくれたら問題ないよ」
「ありがとう、ごめんね……」
昨日も、メモでも、今だって、気になっている事がある。
「ケイン。調子が悪い事を謝らなくていい」
「そ、そっか。ごめ――あっ」
癖になっているようだ。
「皆病があるんだし、持ちつ持たれつでいこう。もし俺が倒れても、君は責めずにいてくれるだろ」
「……それはそうかもしれないけど」
「クッキー美味かったよ。ありがとう。本当に気に病むことないから」
ケインは目に見えて戸惑っていたが、頷いてくれた。次だ。
「ウィルル」
「ひっ!」
こんなに怯えられていては、何を言っても否定と捉えられるオチだ。
「……最初に言っておくと、俺は君を嫌いにならない。わかったかな?」
「ほ、ほんと? ――わ、わかった」
彼女の泳ぐ視線が落ち着いたところで、ゆっくりと話し出す。
「ウィルルは、人に否定される事にとらわれ過ぎだ。良さが出にくくなってると思う」
「――え、えと?」
少しでも伝わればいい。続けることにした。
「薬を作ってくれて、それと、俺に感謝してくれて、ありがとう。メモにありがとうと書いてくれたのは君だけだ」
全方位への嫌味を挟んでしまった。少し伏し目がちになる各位とは裏腹に、ウィルルは少し嬉しそうに照れていた。
「君は優しい。火傷の時も助けられた。嫌われる心配の代わりに、皆の事を心配してくれないか。皆嬉しいし、君のことも嫌いにならない」
「そっか。――そうなんだ。私、少しわかった。私にできること、もっとするね!」
前向きに捉えてくれたようで、手応えを感じる。笑顔で頷き返して、隣へ目をやる。
「さてと。……カルミアさん」
「うぅ、ごめんよ……」
また顔が土気色。昨晩の状態では当然だ。
昨日の事については反省しているようだが、飲酒の習慣自体から正して貰わないと困る。
「深酒は前からダンカムさんに注意されてたんだろ。やめられないの?」
「……つらい時、飲まなきゃいられなくなるんだ。頭をぼやかさないと、もう――」
「わかるよ。俺もそう言う時はあるし、正直酒は好きだ」
カルミアさんの顔が綻んだが、本質はここじゃない。
「でも、酒で意識が朦朧として自動的に吐いちゃうのは異常事態なんだよ。命に関わるし、皆が心配する。――分かってると思うけど、再認識してくれ」
彼はしょぼくれてしまった。だが、いきなり禁酒にするほど、俺も鬼じゃない。
「メモに、今後二杯にするって書いてくれてたな。それなら、大丈夫なんでしょ。二杯を基準にすれば、飲みすぎても三、四杯の筈だよね」
「そうだね」
「そのルール、今後絶対守ってくれ。そうでないと、本当に禁酒だ。一緒に飲む事も出来なくなる。だから、頼む」
「わかった……。情けなくてごめん」
こんなに反省してるのにお酒がやめられないのか。ちょっと依存してるのかも。
「何か別の手段で発散できるように、俺も一緒に考えさせて」
「ありがとうね。助かるよ」
根は深そうだが改める気はありそうだから、少しずつ良くなるだろう。そう信じたい。
次は、今もそっぽを向いているあいつ。何のつもりの反抗ポーズなんだろう。イライラさせてくれる。
「……ログマ」
返事はないが、聞いてるんだろ?
「さっきもケインに言ったけど持ちつ持たれつだ。昨日のことは気にするな。怪我はなかった?」
「……少しコブとアザがあるだけだ」
「そうか。お大事に。無事ならそれでいいよ。――でも」
返却した巾着袋を指差す。
「お金を渡すのは無しにしよう」
ここはやはり素直じゃないログマ。はんと笑って反論してきた。
「お人好しで素晴らしいことだな」
「俺の性格は関係ない。共同生活や仕事のフォローにお金を払うのは違うと思うんだ」
彼の眉間に少し皺が寄る。今気づいたが、彼の目の下にはまだ深い隈がある。
「――何がどう違うんだ」
腕を組んで考えた。
「えっと。値段のつかない恩と迷惑を貸し借りして、長く一緒にやってくのが、仲間だろ」
自分の脇腹を指差す。
「前に貰った、火傷の薬代。あれは、やったやられたの話を終わらせる役割があったと思ってる。昨日の話は、仲間同士の助け合いだろ。それを金で精算しないでくれ」
ログマが顔を逸らし、表情が読めなくなる。
「チッ、お説教かよ。ご苦労だな。……そんなん知らねえよ」
「じゃあ、知る努力をしてくれ。それを、今回の詫びとして受け取るから」
やっぱり返事しねえ。ムカつく。まあ、頭が良い奴だからそれなりに理解するだろ。
「皆もそうしてくれるか。お礼やお詫びの金銭授受は極力なしにしたい」
皆は迷わず頷いた。……もしかして、ログマが金で済ませようとした相手、俺だけ? まあ、いいけどさ……。
隣のダンカムさんが立ち上がり拍手を送ってきた。鋭い音が耳に響いて嫌な気持ちになった。
「素晴らしい! いやあ良いリーダーだね! 皆の課題と目標を――」
「ダンカムさん座って。貴方にも言うことがあるから呼んだんだ」
ぴしゃりと言うと、きょとんとして素直に座った。病気こそないけど、俺が一番問題だと思ってるのはこの人だ。
「昨日みたいなトラブル、ダンカムさんは何度も経験してきたんでしょう。その都度メンバーの相談に乗って、やってきたんだと思う」
厳しい目を向ける。
「それだけでいいと、思ってませんか」
「え……」




