3章11話 鬱憤が隠せない
3章 共に
あの後、自分の夕飯を完食した俺は、大変だった。
「大丈夫、大丈夫。俺、ウィルルのこと嫌いじゃないよ。ダメな子じゃないよ。……ね。一緒に食べよう?」
ウィルルを宥めて完食させた後部屋に送還。……俺が大丈夫じゃねえよ。
食器と残飯を下げる。ログマ、結局、全然野菜食べれてねえじゃん。
「ああもう、ずぶ濡れじゃねえかよ──おーい、ログマ。ログマさん。……ログマ! おい! この暴力野郎!」
麺と汁まみれのログマを綺麗にして、揺らして、叩いて、蹴って、ようやく起こして部屋に送還。……結局俺も暴力野郎になったよ。
「カルミアさぁん。もしもーし」
「うぅ……ごめん……」
「起きた? ほらちゃんと水飲んで。もう寝るよー」
カルミアさんの意識が戻ったタイミングで大きめの紙袋と水の瓶を渡し、部屋まで肩を貸して送還。……流石に寝ゲロは自分で処理しろよな。
「あーもー、ゲロまみれじゃん……うわ、ログマの麺踏んだ…」
ぐっちゃぐちゃの食卓を片付けて、椅子と机と床を拭いて、色んな汁にまみれたカーペットと俺の服は洗濯室へ。
パンツ一枚のまま食器を洗う。
「ああ寒いなあ! ああ冷たいなあ! クソだなー!」
洗濯物を干して、時計を見たら深夜だった。
風呂にも入らずふて寝をして起きたら、もう昼前になっていた。
全身が気持ち悪くてシャワーを浴びに向かうと、小窓前の台が物と紙で散らかっていた。
「また散らかしてくれてんじゃねえよ……」
イラッとしながら、ごちゃごちゃの中のメモを五枚拾う。言い訳を聞いてやろうじゃないか。
『ごめん。絡んだのも吐いたのも全部覚えてます。反省してます。次から二杯までにします。得意の料理と良い酒をご馳走するので、今度一緒に飲みましょう。 カルミア』
『昨日は役に立たなくてごめんなさい。嫌わないで下さい。お掃除ありがとう。疲れに効く薬草を調合したので、入れておくね。他のお薬との飲み合わせは、大丈夫だよ』
『ここ数年で最悪の寝方だった。尻拭いをさせて悪かった。対策を考える。慰謝料が足りなかったら請求して』
『昨日は困らせてごめん。今日は持ち直したよ。大変だったみたいだね、助けられなくてごめん。ルークが心配です。後で話を聞かせてね。 ケイン』
『ダンカムです。昨晩は、僕の退勤後、頑張ってくれたようだね。お疲れ様。ルークのお陰で、今朝は皆朝食を食べられていた。もし出て来れたら、皆で依頼の話をしよう』
台の上には、チョコレート、小さな薬瓶、麻の巾着袋、手作りらしいクッキー、特別手当と書かれた封筒。……これからも迷惑かけますっていう賄賂ですかね。
言いたい事は沢山あるが、まずは自分の事。大きなため息をついた後、シャワーを浴びた。着替えて、身だしなみを整える。病気になってから、この一連の身支度だけで結構疲れるんだよ。
もう昼食だ。皆の前に出て行きたくないが、規則正しい食生活の為、基本的には全員で食べるようにというルール。
感情を宥めるために、詫びチョコと詫びクッキーを早食いし、詫び薬を一気飲みした。薬の後味に顔を顰めながら巾着袋をひっくり返すと、五百ネイ金貨四枚。封筒からは五千ネイ紙幣。
巾着袋と封筒に金を戻し、ズボンのポケットに入れて、二階へと上がった。
食堂へ入ると、五人全員が昼食の焼き飯を前に食卓に揃っており、一斉にこちらを向いた。様子を窺う視線がまとわりつき不快だ。
それらを振り払おうとして、ぶっきらぼうな声が出てしまった。
「メシ、俺の分ある?」
「あ……おはよ! あるよ、ちょっと待って」
今日はちゃんとゆるふわヘアーでオシャレなケイン。顔色はまだ悪そうだったが、すぐに配膳してくれた。礼は言ったが、固い笑顔を返された。
挨拶を最後に無言の昼食。窓越しの風音と食器音だけが響く。なんだこの雰囲気、俺のせいなのか。悪いことしてないと思うんだけど。
何を思ったか、もじもじしたダンカムさんが話しかけてくる。
「ルーク、沢山寝れたか? 体調は?」
「……不本意ながら沢山寝ましたね。体調は微妙です」
そっか! と言ってまた無言。広がらない話を振るんじゃねえ。
気分は悪いし味も分からない俺は一番に食べ終わり、自分の食器を持って立ち上がった。
「昼飯時間が終わったら全員筆記用具持って会議室に集まって。ダンカムさんも。昨日請け負ってきた依頼の話と、昨晩の件。全部一気に片付けよう。よろしく」
まばらな返事を背に受けながらキッチンのシンクに皿を下げ、洗った。自室から依頼の資料を持ってきて、会議室に先行する。
会議室の二列の長机、一番前の端に腰を下ろし、大きな溜め息をついた。
鬱憤が溢れ出て隠せない。今更無理に隠そうとしても感じ悪いだけだが、このまま周囲に撒き散らしても、誰も得しない。一人で消化するのも、無理そうだ。
大きく深呼吸をした。──気持ちを整理しよう。言語化して、伝えて、次に繋げるんだ。これからも一緒にやっていく仲間なんだから。
昼食時間終了前に皆揃った。
正面の司会台の前に立つ。様子を窺う視線も、もううんざりだ。
「時間を貰ってありがとう。今日は俺が仕切ります。──まず昨日の件を精算しましょう。メモ、ありがとう。その上で、ログマ、ダンカムさん、これは返します」
袋と封筒を二人の元へ行って置いた。
戻ってきて続ける。柔らかく言うぞ、俺。
「俺、昨日は正直、本当に大変だった。ちょっと皆に今後直して欲しいことがあるから、聞いてほしい」
皆が身構えたり怯えたりしてるけど、聞いてもらう。




