第22話 ダンジョンへ
俺の病室で皆がアレコレしているうちに、俺はスマホで親に一週間くらい電波の届かないところにいるから、という連絡をする。
行方不明になったと警察に行かれたりするのも嫌だからな。
相変わらず親は気楽なもので
『それが終わったらケンイチ無職でしょ? ちょっとあなた顔見せに帰ってきなさいよ。寝る場所は縁側しかないけど。レンちゃんの面倒見るので私忙しいのよ、少しくらい家に帰ってきてたまには親孝行を――――』
などと長文お気持ちを返してきた。レンちゃんは俺の甥っ子、親にとっては初孫である。無職だからってこき使おうとしているな、これは……。
そんな事してたら再就職も出来ないのでとりあえず長文お気持ちは見なかったことにした。
とりあえず、気が向いたら帰るとだけ返事して病室のセキュリティロッカーにスマホと財布を入れた。ついでに、最後に自販機でコーヒーを買って飲む。
もうすぐフルダイブVRの実証実験だもんなあ。緊張する。
コーヒーを飲み終わりそうになった頃、看護師の吉田さんが俺を呼んだ。
「お待たせしました! 茅原さん、準備はよろしいですか?」
「あ、最後にちょっと歯を磨いてきます!」
そうだ、コーヒーを飲んだ口を一週間放置するなんて考えただけでも嫌だからな……。気がついてよかった。
なんか実際に近づけば近づくほどフルダイブVRへの夢が現実めいて色褪せていく。
どんなにVRが楽しくても生きていれば体は汚れていく。
ゲームが楽しければ楽しいほど、薄汚れていく自分とVRの中のキラキラした自分とのの落差が悲しくなりそうだ。そうなる近い未来を考えると、ちょっと憂鬱ではある。
治験終わったら湯船に使ってのんびり風呂に入りたいし歯も磨かないとな。
……やる前から億劫になってきた。
俺は歯を磨き、病室の中で俺を待ち受けている人々に挨拶をしながら促されるようにベッドに横たわった。
「茅原さん、本日もよろしくお願いします。これからテストを開始しますが大丈夫ですか?」
四方さんが以前のようなクールな顔で俺に質問した。先日のうろたえた様子はもう微塵も残っていなかった。
「はい……あれ? 点滴とかは?」
「VRに突入してから施術します、まずはVRで五感を没入できるかのテストが先ですので」
「そうなんだ、助かります」
ちょっとホッとした。点滴はともかくカテーテル入れてる所はたとえ自分のでもあまり見たくないので……。
看護師さんとかに見られるのは……もう……諦めよう……。
俺の周りを前回と同じく大きな機械が取り囲み、更になにかよくわからん機械が追加されていた。
「今回は茅原さんの好みに合わせましてダンジョンRPGとなっています。中で一週間遊んで、実際にどのくらいリアルに感じるのか、また長期VR滞在した場合の心身への影響などを調査する目的です」
いつもの技師さんが淀みなく説明してくれる。
「もちろん、何かありましたらいつでもお声がけいただければ返事も出来ると思いますので」
「わかりました」
もう何度もVRにはログインしてるからな。慣れたもんよ。VR自体には恐怖も何も無い。俺はワクワクしながらベッドに横たわり、ログインするのを待っている。
「では、検査を開始します」
技師さんの声とともに、一瞬意識が遠のき、また意識が復帰する。
『La fin de l'âme ~魂の行き着く場所~
New Game
Config
??????? 』
初めて見るゲームのタイトルだ。タイトルの読み方は全然わからなかった。
暗く重い雰囲気だが、シリアスなRPGなのだろう、すごく楽しみだ。ただ、タイトルがフランス語かなにかなのに、メニューは英語なんだな……。この辺、日本って感じがする。俺は嫌いじゃない。
俺は迷わず『New Game』をタップした。
すると、俺は薄暗い、陽の差さない平原にいた。数十メートル先には光の柱が煌々と輝いている。それ以外には何も目立つものは確認できなかった。見渡す限りの荒野だ。
見える景色は薄暗いけれども美しく、まるで現実のようだった。これどういう理屈で3Dモデルが現実みたいに見えて感じるんだろうな……。
自分の手足を見ようとしたが自分の手足も何も見えない。まずはキャラメイクからか?
『ようこそ、終わりの平原へ……』
まるで亡霊のように薄ぼんやりと光る女性が俺に向けて一礼する。
『ここはあなたのような罪深き彷徨う魂の集まる場所。さあ、名前と生前の姿を強く思い浮かべて……』
彼女のセリフとともに、俺はキャラメイク画面に転移した。
『茅原さん、それ決めたら変更できませんから、よーく考えてキャラメイクしてくださいね!』
技師さんの注意事項が聞こえてきた。
えっ、マジか。最初は適当なキャラで突撃して様子見、それからガチキャラを再作成しようと思ってたのに。
しかし、なんで駄目なんだろ。気になるが、理由は後で聞こう。
キャラメイクに俺は二時間ほどかけた。数回決定直前の確認画面まで行って試したが同じステスキル装備でも容姿や性別、種族によってステータスが大分変わる。これは気軽に容姿すら選べないということか。
ガチ攻略を考えて生存しやすい方向で考える。一週間変更できないし、ログアウトも出来ないことになってるからな……。
ちなみに、名前は一瞬で決まった。チケンである。
結局、俺はハーフリングの女、素早さと幸運に特化させたタイプを選んだ。
幸運は回避率、ドロップ率、クリティカル率に影響する。器用さや力を上げなくても初期からそこそこ生き残れるであろう感じ……と思いたい。
やったことのないゲームだからな……。回避がカスみたいに使えないゲームもあるので、それだった場合は低層で一週間やり過ごしていく予定である。
初回選択スキルは数十個あるうちから【幸運のおまじない】【鑑定】【隠密行動】を選び、装備も重量制限があるので厳選し、シャツにフード、丈夫なナイフ、軽い盾、応急手当用品、火打ち石、水袋。あと皿とフォーク、軽い携帯食などを持った。
多分、現地でもある程度は補給できると思うので……。出来なかったら詰むな。出来ると信じる。
重量が持てるタンクタイプやバランス型も考えたが、俺の性にあまり合わない。
逃げやすく、戦いやすく、何よりVRで遊ぶなら身軽に動けるほうが楽しいと思ったのだ。
自分の能力を超えた動きで遊べる。それがフルダイブVRの良いところだと俺は思う。
魔法使いもVRならではだと思うが選ばなかった。すぐ死にそうだからだ。最初の魔法と、最初に出てくる敵の相性が合わないとそれだけで詰む可能性があるしな……。
「よし、これで行くか」
俺は覚悟を決めて、確定のOKボタンを押した。一瞬暗転した後に、俺は光の柱の手前に移動した。
どこからともなくナレーションが流れてくる。
『ここは罪人の集う場所。赦しを請う者よ、迷宮の奥深く、十二階の奥底に辿り着け。その奥底に辿り着いたものだけが世界の赦しを得る事ができるであろう――――』
案内役らしき薄ぼんやりした女が俺に語りかける。
『罪人よ、光の柱へ向かい、世界に対峙するのです……』
うーん、本格的なファンタジーっぽい。どんな敵がいるのか楽しみだ。
しても12Fもあるのか、一週間でクリアできるかな……。
俺は言われたとおりに光の柱に近づく。ただ眩しいだけで、向こうも透けて見えるしただの装飾にも見える。
しかし、光に恐る恐る触った瞬間、意識がブラックアウトした。




