第173話 スキル談義
久々のソロ活動チャンスだが、グリセルダとおタヒが過保護なママと化して俺を引き留めようとしている。困った。
「とりあえず一回、短時間だけ外に様子を見に行っていただくのはどうですか? やっても見ないうちから無理と決めつけるのはよくないです」
清野さんが助け舟を出してくれる。まあ確かにいきなり数時間単独行動とかは全員不安か。
「俺も一回本格的に隠密行動を試してみたかったんだよなー。熟練度も上げたいし本格的に使ったのって二層まででさ。ここでも通じるのか気になってて」
俺の疑問に、清野さんが答えてくれた。
「隠密行動は取れる人の少ない激レアスキルですからねえ。隠密行動対策とか、するだけお金の無駄なんでしないと思いますよ、普通は」
「そうなの?」
「はい、登録されてるだけでもテオネリアの全人口で三人しかいなくて、しかももう全員おじいちゃんおばあちゃんで……登録外で取っている人も殆どいないんじゃないですかね」
なるほど、いなくはないのか。
「本当にそんなレアなんですか?」
「レアですねえ。茅原さんみたいなスキル構成は普通の人にはできないんですよね……」
前々から隠密行動がかなりのレアスキルっぽいことは何度も聞いていた。しかし、初期から選べるスキルのはずなのに、何故だろう?
「でも隠密行動って、初期のスキル選択で選べますよね?」
「稀にファビエや私みたいに、隠密行動がスキルツリーに生まれたときから存在しないものもいるが、もっと社会的な理由があるんだ」
エト姫が御自ら教えてくれるらしい。俺は大人しく拝聴することにした。
「我が国ではスキルは子供の頃から覚えるんだ。子供に隠密行動なんて取らせる親はまずいない。殆どの親が我が子に真っ先に取らせるスキルはヒールだろうな。変わった親でも知能強化、解毒あたりだ。それらを取ると隠密行動は取れない。子供に真っ先に隠密行動なんて取らせる親がいたら、児童福祉課が真っ先に親と対面の上カウンセリングが始まるだろうな……」
なるほど、そう言う意味で俺のスキル取得がレアだということなのか。
じゃあ、他のスキルも異端なのだろうか。ちょっと聞いてみることにした。
「じゃあ【視界拡張】とかもあんまりいない? たしか隠密行動が条件で生えてきたんだけど」
「いない。隠密行動から派生するツリーのスキルはどれもレアだよ。茅原氏のおかしいところは、それでいて【幸運の祈り】を持ってることだね。多分この二つを両方持ってる人は他にいないんじゃないかな……」
「なんで? すっげー便利だぞ。おタヒのターン延長と組み合わせたら運が補正カンストまで上がるんだけど?!」
幸運の祈りは最強スキルの一つではないかと俺は疑っている。そのくらい強い。隠密行動に運が加われば、まず被弾しない。万人に薦めたいステータスとスキルだ。
「まあそのおタヒ氏のターン延長も相当レアなスキルだが、幸運の祈りの前提スキルの『幸運のおまじない』を隠密行動と一緒に取れる人間がレアなんだよ」
「なんで?」
どちらも俺は初期スキルとして取った。理論的には取れるはずだ。
「隠密行動なんて、取るのは99%犯罪者だ。犯罪を行うと非表示ステータスのカルマ値が大きく下がる。幸運のおまじないには取得と利用に条件がある。カルマ値がマイナスでないことだ」
ようやく皆がレアだという意味がわかった。
確かに、俺も子供に隠密行動なんか取らせたくない。子供が使えば絶対隠密行動のまま車道に走って轢かれたり、そうでなくても思いもよらぬ事故を起こすだろう。
あと、普通に犯罪に便利なスキルすぎるんだよな……。
スキル社会ならではの取得しにくいスキル、ということか……。
「そうなんすよね、だから地球人にスキルを取らせると、こんな面白い、理論的には可能だけどテオネリア人にはできないスキルを取れるんだ、って感動したんすよねぇ……スキルの組み立てって、最初は便利さ優先で取るから隠密行動は中々取れなくて……。私もファーストスキルはヒールっす」
カハールカさんがしみじみと呟く。そういえば、一回ログアウトした時にスキル構成をべた褒めしていたな。
それは、理論的にはできるけど、普通の人にはできない構成だから褒めてくれた、ということだったのか。
それを聞いていたグリセルダとおタヒは、何故かドヤ顔をしていた。
「ふふふ、そうでしょう! だってチケンは私の尚侍候補ですもの、そのくらいは当然よ!」
「いや、私の侍従長候補であるが……しかし、私の見る目は確かだったということだ。チケン、もっと誇ってもよいのだぞ?」
そう言われたものの、喜んでいいのかわからない。
グリセルダに褒められたのは嬉しいが。
「そういやユニークスキルとレアスキルって違うのか?」
「違う。ユニークスキルは生まれながらに持つ希少スキルで、レアスキルは持っている人が少ないだけのスキルだ。使えないスキルだから誰も取ってないパターンのレアスキルもある。【くしゃみ】とか使い所少ないからな……」
【くしゃみ】ってなんだよ。でも花粉症を強制発動させるようなスキルと思えば使えなくもない……いや、貴重なスキルポイントを使ってまで取らないか……。
「ユニークスキルなんかはたまに遺伝するから同じ時代で稀に二人持ってたりするが……【複製】がそれだ。遺伝で父上と私、ファビエが使える。王太子の千里眼も多分その類いだと思う」
遺伝するスキルかあ。複製も千里眼も便利そうだけど、俺が持っててもまともなことに使えなさそうな気がするな……。
金相場を破壊したり、競馬や株で儲けて税金トラップに引っかかって爆死したり、ろくでもない未来しか想像できない。
まあ、取ろうと思っても取れないから気にしないでおこう。
「グリセルダ氏の【灰は灰に】もユニークスキルの類いだと見ているけど、違うかな?」
そう聞かれたグリセルダは返事をしなかった。
あまり話したくなさそうだったしな。元々警戒心が強い性格みたいだし、無理強いさせなくて済むように、ここは話をそらすか。
「で、そういやそろそろ俺の隠密行動のレベルも上がりそうだし、ちょっと一廻りして周囲を見物してきていいか? 使わないと熟練度が上がらないんだよな」
「えー! 危険じゃない! ダメよ!」
「インテから実況映像流してもらって危なそうなら逃げ帰ってくるとかでもダメかな?」
おタヒの過保護っぷりがすごい。まるでかーちゃんのようだが、おタヒには隠密行動というものの実像が理解できていないせいもあると思うんだよな。
逃げ足には自信があるから信頼して欲しい。というかそれ特化で作ったボディーだからな……出来てもらわないと困る。
「それなら良いのではないか? 隠密行動スキルが何処まで実用できるスキルか知っておく必要はあるだろう」
「そうなんだよ、このスキル個人での活動が一番生きるんだよな。通信はつなげておくから見守っててくれよ」
「えっ見たい! 隠密行動持ちの一人称動画とか史上初じゃないか?! ぜひ頼むよ茅原氏!」
エト姫の史上初、と聞いてようやくおタヒの警戒心が緩んだ。
自分の手下が史上初の快挙と聞いて喜ばないボスはいない。……俺がおタヒをボスと認めてるかどうかは別だが!
俺は再度装備を整え、隠密行動の実証実験を開始することにした。
前々回のあとがきで☆やブクマなどくださった皆様ありがとうございました!
読んでる人いるんだーと思うとやる気が出ます!
あと絵文字も面白いので毎回見てます、これも嬉しいです!
コンゴトモヨロシクお願いします!




