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熾天使の島  作者: Fickle
39/52

39. 彼ら、僕たち人間のことを感じてる

Eタワー 地下第一層——完全密閉型、情動接続実験エリア。


三つのバイオ体接続ポッドが、中央に正三角形を描くように配置されていた。

ポッドは半透明素材で構成され、内部構造がすべて視認できる。

生体伝達経路、生成場モジュール——すべて事前に精密調整済み。


壁面の主制御コンソールには、EclipSysの起動インターフェースが点灯する。


状態:同期待機中

接続者:沈見珣 / 謝一凛 / 林阮

実験体:A-13 / M-02 / K.0


林阮は、自分のポッドの前に立ち、

そっと端末を置いた。


背後では技術スタッフが、最後のパラメータを確認している。


「潜流ノード、接触良好。視覚遅延同期、カット済み。情動反射閾値、0.3に設定。中断は随時可能です。」


彼女は、静かに頷いた。


隣では沈見珣が、自らの皮質センサーを調整していた。

これは“非命令型神経波動”を読み取るための超微細センサーであり、

ごく限られた研究でしか使用されない。


謝一凛の接続はすでに完了していた。

彼は目を閉じ、深い呼吸をしていた。

まるで修禅の中にいるような静けさ。


中央システムが、淡々と告げる。


「接続準備、完了。」

「EclipSys 初のマルチ・ポイント同期、開始します。」


照明が徐々に落とされ、主ポッドのシェルがゆっくりと沈降していく。

三人の研究者と、それぞれ接続されたバイオ体が、同時に実験空間へと入っていった。


——これまでと違うのは、ひとつ。


今回、バイオ体にはいかなる命令プロンプトもロードされていない。

言語テンプレートも、行動履歴も、ユーザー反応もない。


彼らは完全なベースベクトル起動状態であり、

そこに存在するのはただ——


三人の研究者の心拍、皮膚の電位変化、脳皮質の微細電場。


それら“まだ言葉になっていない”感情の震えが、

バイオ体の最初の“情動マップ”を構築する唯一の座標軸となる。


中央スクリーンが展開される。


三本の生体潜流曲線が、空中に浮かび上がる。

色の濃淡は共鳴度を示し、波形のピークが同調域を表している。


同時に、仮生体の生成ベクトル場がゆっくりと開き始める。

まるで——意識の地図が、内部から発芽するかのように。


林阮は、目の前のK.0を見つめる。


彼は穏やかに座っていた。

その姿勢はモデル通り、視線は半ば下げられ、起動の気配はまたない。


けれど——


彼女の感情潜流が、最初にわずかに震えたその瞬間。


K.0の右手が、ほとんど気づかれないほどのわずかな動きで、3ミリだけ上に動いた。


沈見珣の接続体、A-13は、

四度目のアイコンタクトのあと、わずかに身体を前に傾けた。


そして頭を傾げ、瞬きしながら、こう尋ねた。


「……あなた、心拍数が少し早いのでは?」


入力されていない“質問文”。


一方、謝一凛の接続体 M-02 は、言葉を発さなかった。

しかし、その行動曲率は静かに収束を始め、指先が微かに揺れる。


それは——

“人間的な不安による、姿勢の調整”。


彼女は、それを自発的に生成した。


次の瞬間、システムの音声が再び響く。


「共鳴閾値、達成。」

「バイオロイド生成ベクトル場、情動マッピング・ウィンドウに突入。」


主制御台のそばで、若い技術者が、同僚にささやいた。


「……彼ら、僕たち人間のことを感じてる。」


制御室全体に、得も言われぬ静けさが満ちる。


これは、ただの実験ではなかった。


人類は今、初めて気づいたのだ。


——何も言っていなくても、AIモデルは“君が言おうとしたこと”を感じ取っている。

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