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10・お色気王子と恋の行方


「……はぁ」

「はう!」


「……ふぅ」

「はわわわ……」


「……はぁぁぁぁぁ」


「はふん!」

「ひふん!」

「ふふん!」

「へふん!」

「ほふん!」



「お兄様、物憂げな仕草で人心をみだりに惑わすのはお止めください」

「何の話だ、イライザ……はぁ」

「それですよ、その溜息。そんなものをそこかしこで撒き散らされては、王宮で働いている者たちの腰が抜けて、仕事に支障が出ます」

「何だそれは。人が毒でも撒いているかのように……私は何もしていないぞ?」


 私は溜息を吐くことも許されないのか。

 王太子とは何と面倒な立場なのだろうか。


「王太子だとか王子だとか、そういうのは関係ありません。お兄様がお兄様だからです。」

「意味が解らない……だが、私が溜息を吐きたくなる理由も分かるだろう?」


 私が恨めし気にそう言えば、イライザは首を傾げた。



「そんなに溜息を吐く理由、ですか……私には、『この前の舞踏会でアレク様を前にテンパったお兄様が勢い余ってプロポーズしたけれど、何故かアレク様の隣にいたミシェル様(性別、男)へのプロポーズだったと周りに誤解され、ご本人には欠片も伝わらなかった事』位しか思いつきませんが、他にもあるのですか?」

「いや、それ以外なくないか!?」



 心なしか迷惑そうにそう言うイライザに、私は突っ込んだ。


「何故、私がミシェル殿へプロポーズしたことになっているのだ!? ミシェル殿は男性ではないか!」

「確かにミシェル・ディアーラ侯爵令息は間違いなく男性ですね」


 ただその令息の見た目が、この世界の美姫達が束になっても敵わない程の絶世の美女であるだけで。


「どう考えても、あの場にいた女性はアレクサンドラ嬢だけで、私と彼は恋敵であるのに……!」

「確かにあの場にいた女性はアレクサンドラ・グローライト伯爵令嬢だけでしたね」


 ただその令嬢の見た目が、歴戦の猛者と言わんばかりの貫禄を持ち、凛々しく男らしい姿であっただけで。


 ――――絶世の美貌を持つ王太子が、一般的には長身である彼より背が高く、彼より体格のいい女性にプロポーズした場面に、絶世の美女の姿をした令息がいた。


 王国中を熱狂させている王子がプロポーズをするというだけでも国民は発狂寸前なのに、その相手がどう見ても嫋やかな令嬢とはかけ離れた姿だったのだ。


「見ていた人々の記憶が、美貌の王子の求婚相手は(令嬢の横にいた)絶世の美女であったと書き換えられても仕方がなかった……のかもしれません」

「いや、仕方がなくはないだろう!? 勢いだったとはいえ、一世一代の告白が相手に伝わらなかったばかりか、よりにもよって恋敵(※男)に惚れていると勘違いされているのだ!」

「うわ、悲惨……」

「引くな! 他人みたいな顔をしていないで、どうしたらいいか教えてくれイライザ! 私はどうしたらいいんだ……!?」

「丸投げされても……いや、普通にアレク様にもう一度プロポーズするしかないんじゃないですか?」

「そ、そそそ、そんな……そんな事……は、恥ずかしくて……っ!」


 ポポポポ、と私の頬が赤く染まるのをイライザは生温い目で見つめた。


「でも、言わないと誤解は解けませんよ」

「そ、それは分かっているのだが……」

「一度は言えたじゃないですか」

「あ、あの時は……!」


 思い出すだけでも、血の気が引く。

 彼女を見つけ、犬のように喜び勇んで向かった先にいた、仲良さ気に手を繋いでいた二人。


「……必死だったのだ。とにかく、彼女の関心を惹かなければミシェル殿にアレクサンドラ嬢を取られてしまうと……」

「お兄様……」

「お前も見ただろう? あの二人を……」


 思い出すだけで胸がツキリと痛んだ。


「……とてもお似合いだったのだ……」

「ええ、そうですね(見た目は男女が完全に逆でしたが)」

「ミシェル殿の事は私でも知っている。優秀で有能な騎士だと評判だ。オマケに侯爵令息で、見目も良くて……」


 私は益々ガックリと肩を落とす。


「……私なんか、いまだにまともに会議にすら出られない……仮にもこの国の次代を担う王太子であるのに……」

「それは、いまだにお兄様に慣れない重臣たちにも問題があるのでは?」


 イライザがフォローしてくれるが、私は中々浮上できないでいた。

 考えれば考える程、自分のダメな所が浮かんでくる。

 何が、『幼い頃から王族に相応しい品格と教養を求められ、博識と柔軟な思考、全ての人々の模範となる人格を持てと厳しく躾けられてきたし、私自身、いずれは国の頂点に立つ器となれるよう、努力し続けてきた』だ。

 二十年間、ずっと努力し続けてきてもこの様だ。好きな女性にプロポーズすら満足に出来ない。


「どうせ私など所詮どこまでいっても『エロ王子』なのだ……『エロスの化身』が分不相応にもあんな素敵な女性に恋心を抱いた所で上手くいく筈がなかったのだ……私など、適当に人々に享楽と娯楽を振り撒くのがお似合いの道化……この国の事はイライザ、お前に任せ――――」



「いい加減になさいませ!!」

「ごめんなさい!?」



 ピシャリッと容赦なく妹に叱られ、思わず凹んでいたのも忘れて背筋を伸ばした。


「いつまでも過ぎた事をグダグダ、グダグダやかましいのです」

「やかましいって……」

「全く、オルヴィア王国の第一王子ともあろうものが情けない! 一度の失敗位でなんですか! 情けないったらありません! このヘタレ! グズ! ダメ男! アホ王子!」

「そ、そこまで言わなくても……」

「大体、お兄様はあれがプロポーズだとでもいうのですか?」

「え……」


 結婚して下さいって、プロポーズじゃないの?



「いきなり結婚して下さいって何ですか! まずは好意を伝えるべきでしょう!」

「へ」



 イライザはフン! と鼻を鳴らした。


「いきなりプロポーズとか気持ち悪いです!」

「き、気持ち悪い……」

「お父様とお母様に感謝する事です。その顔じゃなければ、殴られたって当然ですからね」

「あ、アレクサンドラ嬢はそんな事はしない!」

「確かにアレク様はなされないでしょうね。――――あの方は優しい、理知的な方ですもの」


 イライザはニッコリと笑う。


「まずはきちんとアレク様に想いを伝えるべきです」

「そ、それは、でも……」


 アレクサンドラ嬢に誤解されているのは辛い。

 けれど、ミシェル殿はアレクサンドラ嬢の幼馴染だと聞いた。

 話を聞いてもらえず、誤解を信じて、身を引くと言われたら立ち直れない。


「勘違いなさっていても、あの方は人の言葉にきちんと耳を傾けることが出来る方ですよ」

「……うん」


 イライザに言われて、私は頷いた。

 パニックになっていた私は忘れていたのだ。

 彼女はそういう人だった。

 いつだって、相手をきちんと見てくれる。

 私に対しても、ずっと誠実に接してくれていた。



 ――――そうだ。だから、私は彼女に恋をしたんだ。



「……アレクサンドラ嬢に話してくる。ミシェル殿には謝罪を」

「ようやく決心なさいましたか。行ってらっしゃいませ。アレク様は本日、仕事で王宮に来ておりますわよ」

「何!」

「頑張りなさいませ」


 イライザはニッコリと笑う。

 美しく、聡明で優しい妹姫。



「何で、お前に縁談が来ないんだろうな」

「お兄様が原因だと、この前言いませんでしたか?」

「……スマン」

「早く前に進んで下さいな。後がつかえておりますのよ」


 呆れながらそういう妹に背中を押され、私は意気揚々と足を踏み出した。

 アレクサンドラ嬢に想いを伝える。

 あ、愛してる? いや、少し重いか?

 ずっと貴女が好きだった。うん。これでいこう。

 初めて見た時から貴方が好きだったのだ。

 ……言えるかな? 考えるだけでもう倒れそうなのだが……いやいや、言わなくては!

 噂は誤解だ。本当は貴女に求婚した。――――貴女が好きだから。

 ……っ……っっ!!

 言えるかな? どもったり、噛んだりしないかな? ああ、緊張してきた……!

 あ、あの麗しい姿はアレクサンドラ嬢!?

 庭園で何を……あの服装は隣国の……? いや、チャンスだ!

 好きです、好きです、アレクサンドラ嬢の事が――――




「アレクちゃま、だいしゅきー!」

「マリアージュ王女、光栄です。私も大好きですよ」

「きゃあ! りょうおもいでしゅわー!」




 ずっしゃぁぁぁぁぁあああああ!!


「お兄様!? 今のは何の音ですか!?」

「……先を越された……ず、ずるい……私だって好きだって言われたいのに……」

「え? 何です? 出鼻を挫かれた? それくらいで情けない、全くこれだからヘタレは……はっ! あ、あれは隣国のマリアージュ王女? 何故アレク様にあれほど懐いているのですか! アレク様の一番の女友達は私ですのに! お兄様、退いてください! 邪魔ですわ!」

「グフッ!」


 傷心の所を妹に轢かれた。

 階下では妹と隣国の王女が何か言い合っている。

 よろよろと体を起こせば、階下にいたアレクサンドラ嬢と目が合った。

 その目は心配そうで、少し悲し気で。


 私はいてもたってもいられず、声を上げた。


「アレクサンドラ嬢……っ!」

「殿下?」

「アレクサンドラ嬢、わた、私は……」


 この前の事は誤解です。

 私は、私は貴方の事が――――




「貴女が好……っ」

「お兄様、煩いですわっ! 邪魔なさらないで!!」

「うるちゃいの! どっかいって!!」




 ずっしゃぁぁぁぁぁあああああ!!


「レオンハルト殿下!?」


 二人の王女が投げつけたセンスが両目に直撃し、私は倒れる。

 アレクサンドラ嬢の心配そうな悲鳴が上がった。

 優しいのはやっぱり彼女だけだ。


 私は、私はただ――――



「……ただ、アレキサンドラ嬢が好きだって言いたいだけなのにぃぃ……」



 薄れゆく意識の中、彼女が驚いた顔が見えた気がした。



ここで一先ず連続更新は終了です。

ここからは不定期更新となります。完結まで頑張りますので宜しくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] めちゃ楽しい! 王子がヘタレすぎてうざカワイイです。 更新を正座待機。
[一言] >ここで一先ず連続行進は終了です。 >ここからは不定期更新となります。 そ、そんな殺生な! 毎秒更新して
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