五十 血筋なのかもしれない
私がまんまと騙されてしまった決定的なポイントは、弥生の予言である。
匿名として送られて来た、三行の予言のせいだ。
はじめから思い出してみよう。
一通目
朝缶コーヒーを買っても、商品が出てこない。
昼食には蕎麦を食べる。
ゴキブリを踏みつぶす。
二通目
電車は遅れる。
自転車にぶつかる。
携帯電話は三回鳴る。
三通目
ガムを踏む。
コーラはむせる。
熱が出る。
四通目
トースターが壊れる
ぼや騒ぎ
息子を殴る
五通目
わたしと会う
思い出すと、どうしようもなく偶然的だと思われる事柄も多いが、私自身が予言を的中させていたのではないだろうか。
本当にゴキブリを踏んだのか? あれはコオロギではなかったか? 携帯電話がなったのは本当に三回か? いつの時点から数えるか、制約なんてないはずだ。熱が出るって、誰が? 裕樹と書かれてはいなかった。もし聡子が熱を出したとしても、私はそれが的中したものと考えただろう。電車が遅れたり、コーラでむせたり、ガムを踏むなんてことは日常茶飯事だ。言われなければ、靴の裏を見ることなどない。
煮え切らない点も確かにある。しかし、弥生が所属する組織が大きければ、私一人を騙すことなどどうとでもなるのではなかろうか。たとえばあの定食屋のオヤジ。彼も西上のように少女買春の常連客であったらどうだ。その事実をネタとして、私の注文に間違えさせることなど容易いはずだ。そこまで面倒なことをせずとも、私の後をただ付けるだけでもいいのだ。定食屋のオヤジに裏口から一万円でも握らせれば、注文を取り間違うことぐらい誰でもするだろう。
こうして考えれば、何千何万という可能性があったはずだ。それなのに私は、手紙の言葉を超自然的な力だと信じてしまった。普通に考えれば、最も可能性が低いものを選んでいたのではなかろうか。
やはり、私は騙され易い血筋なのかもしれない。