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ハイム道具屋の日常手記  作者: 夜眠
第1章:龍王祭の騒動
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39話:あと7日

龍王祭まで残り7日。


街中にはすでに、祭典前夜特有の浮き足立った空気が色濃く漂っていた。蒸し暑い夏風が人々の落ち着かない気配を運び、街全体が太陽に熱せられた鍋のように、今にも抑えきれない期待感が溢れ出しそうだった。


最後の一人としてブートが依頼に来るのを期待していたが、あの事件以来、あの巨体を見かけることはなくなった。


もっとも、それも仕方のないことだろう。


エイヴァから届く迷惑メッセージにも、孤兒院は龍王祭の準備で目が回るほど忙しいと書かれていた。おそらく祭りが終わるまでは、ブートもここへは来られないはずだ。


そんな中、今のハイム道具屋も、どこか奇妙な空気に包まれている。


二階の板張りの床の上では、ライラがヘッドホンをつけ、耳の先を従順に折り曲げていた。彼女はリズムに合わせて微かに体を揺らしながら、手元の教材をじっと見つめている。その傍らには、文字でびっしりと埋まった一冊のノートが置かれていた。


そういえば、最近よく彼女がノートに何かを書いているのを見かける。以前、夏休みの宿題はもう終わったと言っていたから、学校の課題ではなさそうだ。


ロルは何度か声をかけようとしたが、そのたびに言葉を飲み込んだ。ライラももう16歳。思春期の真っ只中にある少女なら、他人にあれこれ干渉されたくない時期なのだろう。


もし下手に踏み込んで、ライラから蔑みのこもった「キモい」という一言を投げかけられたら……ロルは自分の精神が甚大なダメージを受けることを確信していた。


脳裏に浮かんだ冷ややかな視線を振り払い、ロルは手慣れた営業用の笑みを浮かべて、目の前の依頼人に意識を集中させた。


「当店の規定について、他に何かご不明な点はありますか?」


「いえ、よく分かりました。丁寧な説明をありがとうございます」


現在、ハイム道具屋の一階では、ロルとスクエア型の眼鏡を押し上げた依頼人が向かい合って座っている。


今回の依頼人は、竜人族の男だった。


一分の隙もなく整えられた黒髪に、頭上には竜人族の象徴である湾曲した角。端正な顔立ちにかけられた眼鏡が、知性と冷徹さを漂わせている。


彼はロルより頭一つ分背が高く、真夏とは思えない三つ揃いのスーツを完璧に着こなし、ネクタイも寸分の狂いなく締められている。まるで教科書から抜け出してきたエリート社会人のようだ。


若々しく見えるが、竜人族の寿命は常人とは異なる。ある年齢を過ぎると老いることがなくなり、臨終の間際に一瞬で老け込むと言われている。目の前の男の実年齢など、誰にも判断できない。


「私はロル・マフィロ 、二階にいる少女は妹のライラ・マフィロ です。苗字は同じですので、名前で呼んでいただければと思います」


男は静かに眼鏡を押し上げ、氷湖のように冷ややかな面持ちを見せた。その様子が、ロルに先ほどの一幕を思い出させた。


約束の期限まであと7日だが、ノルマの依頼も残り一つとなっていたため、ロルは今日もソファでだらだらと退勤時間を待つつもりだった。


しかし突然、ハイム道具屋の扉が開いた。ロルがすぐさま顔を向けると、スーツ姿の男が眼鏡に手を添えながら入ってきたのだ。


それ自体は何でもない光景だが、ライラはひどく驚き、耳をピンと立てるだけでなく、ペンやノートまで床に落としてしまった。


だが、彼女を責めることはできない。亜人であるライラの聴覚と嗅覚は常人を遥かに凌駕しており、彼女自身もその感覚に頼って生きているからだ。


客の来店をいち早く察知できなかったということは、ライラが相手の気配を微塵も感じ取れなかったという証明に他ならない。


ロルは営業用の笑みの裏に警戒を潜ませ、まだ動揺の収まらないライラの代わりにカウンターへ向かった。


「いらっしゃいませ、ハイム道具屋へようこそ。魔道具のお買い上げでしょうか?それとも、お悩み事のご依頼でしょうか?」


男は並べられた魔道具に目もくれず、真っ直ぐにカウンターへと歩み寄ってきた。その途中で、ロルも竜人族の象徴である湾曲した角を目にした。


ライラが気づかなかったのも無理はない。世間一般の竜人族に対する印象は、強靭な肉体、膨大な魔力、長寿といった目に見える先天的優位性ばかりだ。


しかし、実は竜人族は「気配を隠す」ことに非常に長けた種族なのだ。


個体数は決して少なくないにも関わらず、滅多に姿を見かけないのはそのためだ——とはマリーナが言っていたことだが、ロルにとっても実物を見るのはこれが初めてだった。


「依頼したいことがあります。ただし、こちらの男性店員と二人きりで話したい。女性店員には一時的に席を外していただけますか?」


冷淡な口調に加え、細められた瞳からは無視できないほどの圧迫感が放たれていた。


正当な理由もなく投げかけられた無礼な要求に、ライラが我に返って拒絶しようとした瞬間、ロルは即座に彼女を制し、口の動きで伝えた——大丈夫だ。


「承知いたしました。ですが外は暑いですから、彼女は二階に控えさせます。それでよろしいでしょうか?」


「問題ありません」


そんなわけで、ライラは今、ヘッドホンをして二階に座っている。


危険なものや違法なものを除き、ロルは依頼の種類を制限していない。そのため、たまにこうして一風変わった依頼人が現れることもあるのだ。

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