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星と丸の王国  作者: 藤木美佐衛
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第14話 公爵とランボー

 –未知流−


 祭りは三日間行われた。

 最終日にはメインイベントの仮装行列が行われ、大人も子どもも仮装する者も見物する者も皆心から楽しんでいた。

 仮装行列は、鳥や獣の扮装ふんそうが多かった。ホンモノの鳥の羽根を使って身体全体を飾り付けたり、ツノをつけたり、さまざまな工夫がされていてとても面白かった。

 でも、全ての扮装に共通するのは、必ずアーマ神のシンボルである星と丸がデザインされていることだ。


 エンゾの娘さんが、夫と三人の子どもを連れて来ていた。エンゾは可愛い孫たちにメロメロだった。

 別の教会で修行中の息子さんは、そっちの教会の仕事で忙しいそうで、帰れなかったらしい。


 ナディシアの二人の息子たちも休暇をもらって里帰りしていた。二人とも王宮勤めの公務員だ。

「長男のカーナルと次男のミシュリンよ」

 ナディシアが、彼らを紹介してくれた。

「初めまして。お噂はかねがね母から伺っております」

 どんな噂をしてるのか、少し心配になった。


「王宮でも話題になっていますよ。屋台で面白いもの食べられるって。どこに行けば食べられますか」

 良かった、そっちか。

 てか、王宮で話題⁈ どゆこと?

 二人は、初日に祭りに参加した同僚から聞いたと言った。

「噴水の真ん前の屋台ですよ、ご案内します」


「小さい頃からこのお祭りは楽しみでたまらなかったんです。毎年仮装行列の日に合わせて休みを貰ってるんですよ」

 二人共ナディシアに似て気さくな人物だった。


 王宮勤めってきっとエリートなんだろうな。ナディシアのような一般市民の子弟でもなれるってことは、広く優秀な人材を選んでいるのだろう。ナディシアも鼻が高いだろうけど、それをひけらかさないのが彼女のいいところだ。


 二人を屋台に案内し、そこにいた慶太に紹介して私は持ち場に戻った。


 祭りの人出は最高潮に達していた。

 そんな時、広場に一台の馬車が乗り込んで来た。祭りの期間中、広場は歩行者天国になっており、馬車の乗り入れは禁止している。広場への入り口には全て侵入禁止の立て札があり係員も立っている。

 豪華な装飾がなされたその馬車は、その立て札をぎ倒し、係員の制止を振り切って広場の中に勝手に乗り入れて来た。


 広場は祭りを楽しむ人々でひしめき合っていたのに、その馬車は全くお構いなしに人混みの間を悠々と進んで来た。かれそうになった人が悲鳴をあげた。あたりは騒然となった。


「何よ、あの馬車。ここはホコ天だっちゅうのに。傍若無人ぼうじゃくぶじんはなはだしいわ」

 教会の前で開いていたバザーで、孤児院の子ども達と一緒に売り子を務めていた私は、腹立たしい思いをしながらその馬車をにらみつけた。


 騎馬兵が馬車に近づく。


「わしを誰だと思っとるんだ!」

 馬車の中から何やら怒鳴る声が聞こえた。

 すると、その特徴のある濁声だみごえにロイスがはじかれたように反応した。彼は馬車の方へ目をやると急に怯えたような顔をして、教会の中に逃げ込んだ。私はあわててロイスを追いかけた。


 教会の中を突っ切って裏の畑まで逃げ込んだロイスにやっとのことで追いついた。

「どうしたの、ロイス?」

「あ、あれは、モートデルレーン家の馬車です。僕が閉じ込められていたお屋敷の」

 ロイスは真っ青な顔でそう応えた。


「僕はあの馬車を何回か直したことがあるの。紋章を覚えてる。それに、あの声は、モートデルレーン公爵です」

 ロイスは『復元魔法』で何度かあの馬車の傷や故障を直したことがあったらしい。

 貴族の馬車にはその家を表す紋章が彫刻されている。ロイスはその紋章と、彼を怒鳴りつけていた声を覚えていたようだ。その声は、ロイスの心にえないトラウマを刻みつけていた。


「もうバザーの方はいいから、自分の部屋にいなさい」

「ごめんなさい」

 ロイスは少しパニックを起こしていた。

「謝らないで。悪いのは君じゃないのよ」

 そこにいた孤児院の職員に声を掛け、ロイスを自室に戻らせてバザーに戻ると、その馬車は教会の前までやって来ていた。


 馬車からは、きらびやかな衣装に身を包んだ二人の男女が御者に導かれて降りてきた。夫婦のようだ。

「何やら珍しい料理を食べられると聞いてきたのだが」


 幸いモートデルレーン家の人々は、ロイスに気づかなかったようだった。ロイスはその後もずっと表に出ることを恐れて、孤児院の中で過ごした。



 –慶太−


 残念ながら、焼き鳥はタレ味がのものが作れなかった。醤油がこの国に存在しないからだ。全部塩味だ。

 実はこの国に来て、どうしても醤油味が欲しくて作ろうとした。大豆に似たものと塩はあった。しかし、こうじが手に入らなかったので諦めたのだ。

(クソッ、日本に帰って醤油を持って来れないかな)

 なんだそりゃ。持ってくるって。

 自分に突っ込みを入れた。


 塩味だけの焼き鳥は、日本人としては物足りなさを隠せないが、仕方がない。

 しかし串に差すという形態が珍しいのか、焼き鳥は飛ぶように売れた。

 鶏身、鶏皮、ハツ、レバー、せせり、バラ。ねぎま、アスパラベーコン、つくね。日本で人気の焼き鳥のメニューを出来るだけ再現してみた。

 ホットドッグも同じくらい売れ行きが良く、追加で仕込みをするのに夜遅くまでかかった。


 最終日にはナディシアの息子さん達と、エンゾの娘さん家族にも会えた。彼らは焼き鳥とホットドッグにいたく感動してくれた。


 俺と未知流にとって初めての祭りは、屋台もバザーも大きな売り上げを稼ぎ、大成功を納めた。

 屋台では、俺が商品を作りジュールが客に渡して代金を頂くという役割分担にしていた。人見知りなジュールの客あしらいも三日目ともなると慣れて来たようだった。

「ジュール、あともうひと頑張りだな」

「そうですね。まもなくフィナーレです」


 モートデルレーン公爵夫妻は、教会で未知流に俺の屋台の場所を聞いて、馬車から降りもせずに仮装行列に沸く人混みを掻き分けて屋台まで乗りつけた。

 騎馬兵たちはもう見て見ぬふりをしたようだ。これがここでの現実だ。


 屋台の真ん前に馬車を停めて、二人は降りてきた。並んでいる人々を押しのけて当然だと言わんばかりに一番先頭に来た。文句を言う者は誰もいなかった。身分の高い貴族に楯突くとろくなことがないことをよく知っているのだろう。これも現実だ。


 馬車の主についての情報は、馬車が屋台に到着する前に教会からの伝令で俺に知らされていた。ロイスを監禁し虐待していた張本人だということも。


「これはこれはモートデルレーン公爵閣下。こんなものが閣下のお口に合うかどうか」

「ほう、名乗らずとも知っておるとは感心だ」

「当然でございます。公爵閣下の紋章を存じあげない者はこの辺りにはいません」


 本当は、ロイスが言わなかったら知らなかったが、ここは機嫌を取っておいた方がいいと判断して俺はそううそぶいた。


 公爵夫妻は焼き鳥とホットドッグを買って、馬車の中で食べ始めた。馬車は非常に邪魔だったが、誰もとがめなかった。


「少々下品だが、不味まずくはないし面白い食べ物だ。」

 公爵はそんな感想を述べた。

(一言余計だよ。美味いって言えよ)

 高慢な上から目線は持って生まれた性分なんだろう。


「光栄でございます。ありがとうございます」

 我慢、我慢。こちらはあくまでも低姿勢を貫いた。リーマンを十三年もやってれば、これくらいのノウハウは取得している。


「今度、孫娘の誕生日会を催すから屋敷に来てこれを作れ」

「へ?」

 俺は思わず変な声を出してしまった。


 モートデルレーン公爵の屋敷に乗り込める⁈

 ついにランボーになれるか俺?

 願ってもないシチュエーションに俺は心が震えた。


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