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【完結】百合なペットと二人暮らし  作者: くもくも
2章 旅行にはペットも連れて
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7. 旅に備えて

「お、つばめちゃん! こっちこっち!」


 会社から出るとすぐ、天使の声がした。



 次の週末に温泉旅館を予約した私達は、その旅行の準備のため、私の仕事終わりに駅前に買い物デートに行くことにしたのだ。


 会社のすぐそばの信号のところから、ひときわ目立つ、きな粉色の髪の毛の女の子が手を振っている。

 スタイル抜群で整ったお顔。流石はプロのモデルさんだ。


 うへへ、今から私、この子とデートするんですよ。


「おまたせ、キナコ。暑かったでしょう?」


 さりげなく、そして素早く手を繋ぎながら言う。こういうのは当然のように習慣化していかないとね。


「いや、時間ぴったりでしたよ。逆につばめちゃんはそんな感じでお仕事大丈夫なの?」


「余裕余裕! 今日なんか、デートが楽しみすぎて10分以上前から定時ダッシュに構えてたからね! ……あ、あれは同僚の人だよ。お疲れ様でしたー」


 同じく定時ダッシュ仲間の同僚に挨拶しておく。あなたも良いアフターファイブを。

 私はキナコの手をにぎにぎしながら、横断歩道をずんずん進んで行った。


「つばめちゃん、こんなとこ見られて、会社の人に変な噂されません? その、同性愛的な」


 笑っているのか心配しているのか、微妙な表情で言ってくるキナコに、私は笑って返した。


「今どき私のとこみたいな大きな会社は、ハラスメントとかでうるさいからさ。恋人がどうだとか、同性愛がどうだとか、そういう話自体が基本的にNGなんだよ。それにキナコと噂になるなら、むしろ嬉しいっていうかさ。うへへ」


 実際は影で色々言う人もいるかもしれないが、そんなことはどうでもいい。

 今キナコと過ごす、この一分一秒を粗末にしてはならない。今はもう会えない、猫の先代キナコが教えてくれた大切なことだ。


 キナコはそれ以上何も言わなかったが、私と繋いだ手はずっとにぎにぎしてくれているし、心なしか表情も明るく見える。


 よくわからないけどこの間から、どうもキナコは、私が人前でキナコといちゃつくのを隠さないほうが喜ぶみたいだ。

 ペットとしての誇りのようなものだろうか? いちゃついていいのなら、こちらとしては望むところだけど。



 目的の百貨店に着いた私たちは、とりあえず店内に併設されている喫茶店に入ることにした。

 なにせ夕方のくせに、道がかなり暑かったのだ。


「わ、このお店タピオカドリンクがあるんだ。私は絶対これ」


「タピオカって、結構長く人気が続いてますよね。わたしもタピオカ抹茶ミルクにしよっと」


 注文の品が届き、向かい合ってプニプニのタピオカを飲んでいると、やっぱりちょっと恋人っぽい感じがして、嬉しくなってしまう。


 足をわざとぶつけてみると、向こうもわざと足を絡めてきてくれる。

 こんなの、もう恋人じゃん。好き。キナコ好き好き。


「で、わざわざこんな大きなデパートに来て、何を買うつもりなんですか?」


 口をタピオカでもにゅもにゅさせながら話すキナコ。

 いちいちやることなすこと、かわいいわあ……。


「荷物を入れる大きめの旅行バックが欲しくて。あとは、キナコも色々着替えとか必要でしょう? この前、夏のボーナスもたっぷりもらってるから、遠慮せず欲しいものは見ていこうね」


「うーん。嬉しいですけど、それだとわたしが情けなさすぎるっていうか……」


 キナコは太めのタピオカ用ストローをがじがじと噛みながら唸る。

 猫っぽい。かわいいしかない。


「いいから。ペットを飼うって結構お金は必要なんだから、当たり前だよ? 大丈夫大丈夫。かわいいかわいいキナコのためなら、なんだって買ってあげたいんだよ」


「うー、まあ、うん。わかりました、甘えさせていただきます。でも、ここのタピオカのお会計だけはわたしが。だって、一応これデートだってつばめちゃんが言うからさ。全部払ってもらってたら、完全にヒモみたいじゃないですか」


 まあ、実態としてはヒモだよね。

 でも私とキナコの間では、そうは思っていない。それが大事なことだ。


 まだ短い期間しか一緒にいないとはいえ、キナコは私の大事な家族。

 ペットであるならば、扶養して当然。

 ペットを越えた存在だとしても、扶養して当然だ。


 そしてキナコが、ちゃんとこれをデートだと認識してるってこと。

 これは本当に嬉しい。何なら本当にワンチャンあるのでは? と期待が膨らむ。



 百貨店の一階には、化粧品がたくさん並んでいる。

 これでキナコはモデルさんだけのことはあって、特に基礎化粧品は結構気を使っているようだ。私はわりと適当だが。


「あ、化粧水買っておきます。これは自分で買うからね」

「気にしないでいいから私に任せて。でもその代わり、私にアイシャドウ選んでくれない? もうすぐ今使ってるのが無くなりそうで」


 あれこれテスターを使っていると、店員さんも近づいて話しかけてくるが、その言葉は全く耳に入らない。

 キナコが真剣な表情で顔を近づけ、私の顔に、目に触れてくれるから、頭の中はもうキナコのことでいっぱいになる。


「よし、つばめちゃんはこれにしたらいいよ。もっと美人さんになりました。……ていうかつばめちゃんすごいね、こんなに店員さんガン無視する人、初めて見ましたよ」


 うへへ、そうかな? キナコのことしか目に入らなくてね。

 キナコちゃんは化粧品売場で働けば、人気者になれるよ絶対。


「ありがとうキナコ。じゃあ私はこれだけでいいや。キナコは他にいらないの?」


 二人の幸せな時間のためなら、多少の散財は痛くも痒くもないね。



 二階では二人の下着を買い足した。

 キナコに見られるかも、と思うと、私の方もあまり汚くなったものは使い続けられないので。


 ちなみに胸のサイズだけは私の方が僅かに勝っていた。

 他は全体的にボロ負けだけど。


 キナコがちょっとエッチっぽい見た目の下着を私に勧めてくるものだから、今後しばらくは毎日が臨戦態勢っぽくなってしまう予定だ。

 もちろんキナコ以外には見せる相手はいないが、夜は今のところ何もないとはいえ、心は常に臨戦態勢でもある。カモン、キナコちゃん。



 三階では旅行用に、カート付きのキャリーバックを買うことにしたが、荷物になるので家まで宅配をお願いした。


「つばめちゃんは非力っぽいし、旅行中はさっきのバック、わたしが運んであげますね」


 もうこの子、理想の彼氏すぎて困ってしまうなあ。



 最後に四階で服を色々と物色し、結局キナコにTシャツを一枚だけ購入した。

 スタイルがいいから色々似合うんだろうけど、本人もあまり高価なものはおねだりしにくかったのかも。



「さてキナコ、帰る前に上のレストランコーナーで食べて帰る? 地下でお惣菜買って帰ってもいいよ?」


 正直私としては、このあと料理というのも若干しんどいし。


「それならお惣菜がいいです! つばめちゃんと二人っきりで食べたいし。しかもこの時間帯なら、お惣菜は割引されてますよきっと。割引されてたら、二倍おいしく感じるんですよねえ」


 二倍おいしい理論はよく分からないが、二人っきりがいいのは全面的に同意だ。

 そのために旅行の夕食も部屋食にこだわって探したんだし。




 その日、うちに帰ってから、お惣菜をレンジで温めたりして二人で食べ終わると、急にキナコが私をぎゅうっと抱きしめてきた。


 柔らかい。いい匂い。

 頭がくらくらする。


 キナコはペット、キナコはペット、キナコはペット……。


「つばめちゃん、今日は本当にありがとう。大好きだよ。今日、色々買わせちゃってごめんね?」


 すごいヒモっぽい発言! とは思ったが、もうキナコのかわいさに一瞬でメロメロにされて、ひたすら撫で撫でするしかなかった。


 これで私からも遠慮無くしゅきしゅき言えればいいのだが、先日それでキナコが不機嫌になったのを思い出して、ぐっと口を閉じるしかなかった。

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