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【完結】百合なペットと二人暮らし  作者: くもくも
1章 私のペットは女の子
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6. ペットの気持ち

 机の上には、先日キナコがモデルのお仕事で、夜遅くまで撮影されていた写真が載っている雑誌が三冊もならんでいる。


 うち一冊はすでに開封しており、後の二冊はとりあえず私の寝室に保管するつもりだ。


 プロが撮影したキナコの写真は確かにかっこいい。

 でも、私ならもっともっとキナコのかわいいところを写真におさめられるのになあ。


 最近キナコのお仕事はそれなりに好調のようで、ちょくちょく撮影に出掛けているようだ。

 プロの手によるキナコの写真がたくさん集まるのは、まあ嬉しい限りである。


 しかもそのお給料で、コンビニのコスパの良いスイーツを買ってきてくれた日もあった。

 基本的にはヒモっぽい生活が継続中だけれど。


 猫の先代キナコも、よく私のところに変なものを持ってきてプレゼントしてくれていたものだ。なつかしい。


 なお、私のお仕事の方も、質はともかくスピードについては絶好調。

 私生活の充実が私に力を与えてくれており、定時退社のスピードに磨きがかかってきている。



「わ、ねえキナコ見てよ。この露天風呂すごくない? しかも全室部屋食だって。私、部屋食大好きなんだよね」


 今は夕食を済ませ、先日購入した旅行雑誌を眺めつつ、キナコのお腹を撫で撫でしているところだ。

 キナコとの温泉旅行に、夢は膨らむ一方である。


「わたしは、バイキングも結構好きですよ。ていうか部屋食なんて、子供のころの家族旅行が最後かも」


 キナコが起き上がって私の手元の雑誌を覗きこもうとしたとき、お腹を撫でていた私の腕に、ふにょんとした感触があった。


 い、今のは! ノーブラですね!?


「うわ、平日と休日でこんなにお値段違うんですか。つばめちゃんもわたしみたいに、平日がお休みだったらいいのにね」


 ノーブラノーブラ。


「ん、平日も普通にお休みとれるけど。そっか、金曜日とか月曜日にお休みとったら、平日料金で泊まれるとこもあるじゃん。これはやるしかないね」


 ふにょんぷりぷりんのノーブラ。


「……つばめちゃん、なんかいいことあった? さっきから表情やばいですよ?」


 ええ、とても良いことが先ほど。ノーブラ。

 気づかれないように、私はあわててページをめくった。


「小さくてもいいから、温泉街があるとこがいいよね。足湯とかさ、アイス売ってるとこがあったりして。朝の温泉街とかさ、浴衣でキナコとお散歩できたら私、幸せすぎて死んじゃうかも」


 二人でお土産屋さんを巡ってみたり、おやつを買い食いしてみたり。

 行きたいなあ、キナコと温泉デートしたいなあ。


「……盛り上がってるとこ悪いんですが、わたしはお金が無いんです。最近少しお仕事増えてきたけど、旅行はまださすがに……」


 は? 何言ってるの?


「ちょっと、キナコ大丈夫? ペットと一緒に泊まれるホテルっていうものはあるけど、自分でお金を払うペットはいないよ? ペット様と一緒に旅行。飼い主ってのはさ、ペットと一緒に過ごすためなら、お金なんて惜しくないんだよ?」


 キナコは目をぱちくりさせて、そしてふわりと笑った。


「いや、わたし一応人間ですから。……ふふ、でも、嬉しいなあ。つばめちゃん、大好き!」


 はああ! きたあああ!!


「私も! キナコしゅきしゅきい! 大しゅきい!」


 嬉しすぎるキナコのリップサービスに、半ば正気を失ってふわふわの髪を撫で回す。


 だけどキナコは私の言葉に、急にまた物憂げで、伏し目がちな表情になり、寂しそうに笑っていた。


 なんだかこの顔、この間も見た気がする。

 確か同じように、私がキナコに好き好き言っていた直後ではなかったか。


「ご、ごめんねキナコ? もしかして、あんまり好き好き言われるのは嫌だったかな? 女の子同士だもんね? でも、ほら、飼い主としては、ペットのことが大好きなのは……」


 キナコは同じ顔のまま、いや、むしろさらに表情を曇らせて、すっと立ち上がりロフトに上がって行ってしまった。


 な、なぜ……?

 

 いや、確かに猫は、あんまり過剰に構いすぎるとストレスを感じて嫌がるものだ。

 もしかしてそれと同じかな。

 

 しかし猫の扱いに関しては百戦錬磨の私には、もちろんこういうときの対策がある。

 私はキッチンに向かい、腕捲りをした。




「ほーらキナコちゃん、いい匂いがしてきたね? 実はプリン作ってみたんだ。もちろんキナコの分もたっぷり大盛でね。できたてのまだ暖かいプリンって、食べたことある? ほら、機嫌治して降りてきて?」


 食べ物で釣る。

 これが鉄板の対応だ。猫の先代キナコも、これに耐えられたことは一度も無かった。


 私はロフトの下から、キナコに誘惑を続けた。


「このあと、表面にお砂糖まぶして、バーナーで炙るよ? お砂糖がパリパリのカラメルになって、すごく美味しいよ?」


「い、いらないですよ! プリンなんて! プリンなんて……好きだけど! 大好物ですけど!」


 ふふん、これは陥落間違いないなしだ。


 大きく作ったプリンの表面にカラメルを作っていく。バーナーで焦げるお砂糖の匂い。この破壊力よ。




「う、うまあ! つばめちゃんすごい! スイーツも作れるんですね! プリンとろけるう……」


 即堕ち2コマである。

 抗えぬ、できたてプリンの誘惑よ。


 スプーンを幸せそうに握りしめたキナコを見て、ほっとひと安心しつつ、しかし私は悩んでいた。


 もしかして、キナコは女の子同士の、いわゆるゆりゆりな感じはお気に召さないのだろうか。


 でも、じゃあなんで私のところに来たんだ。


 確かにお金には困ってるだろうけど、キナコくらいの美人さんなら、頼れる男も選り取りみどりだろうに。


 いや、でも、そうだとしたらそもそも、最初に会ったときの朝の、あの全裸朝チュンは何だというのか。

 いつも私とのボディタッチだって、あんなに自分からも積極的に来るくせに。


「ねえつばめちゃん、食べないの? お腹いっぱいだったら、わたしが代わりに食べてあげてもいいよ?」


 がめついなあ。

 私はスプーンに自分の分のプリンをすくい、キナコに差し出してみた。

 キナコは間髪入れずにそれを、あーんの状態で口に入れる。


 なんとまあ、幸せそうな顔ですこと。


 さっぱり分からない。何がキナコの機嫌を悪くするポイントなのか。

 女の子同士でも、あーんも間接キスも大丈夫。でも、好き好き言われるのは嫌い。


 全く、どういうことやら。


 とはいえ幸せそうにプリンを口に運んでいくキナコを見ていると、結論が出そうもない私の悩みなんて、ふっと消えていってしまった。


 第1章は以上です。

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