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【完結】百合なペットと二人暮らし  作者: くもくも
3章 いちゃラブ生活
15/17

15. ペットの方言

 仕事を終えてアパートに帰ると、珍しくキナコが迎えに出てこなかった。

 なんだか寂しい気持ちになっていると、リビングの方からキナコの声が聞こえる。


 ま、まさかこの私達の愛の巣に誰かを連れ込んでたりとか?


 私は音を立てないよう、抜き足差し足、慎重にリビングに近づいていった。


「……から! 本当だって! そがんことなか! ……ばってん、怖かもん。もし断られたら、どがんすっとよ……」


 あ、久しぶりのキナコの方言。

 地元の人と電話中だったか。


 まあ、浮気じゃないのはわかってました。

 玄関にキナコの靴しか無かったし。ていうか、私達ラブラブですから。


 私は、ガチャりとリビングのドアを開けて、でも電話の邪魔にならないように声は出さず、ハッとこちらを向いたキナコに手を振っておいた。


 キナコはちょっと困ったように笑いながら、こちらに手を振り返す。


「ねえ、今その人が帰ってこらしたけん。電話一回切るよ? どうせまだ先の話やろ? ……だけん、ちょっと待たんね……」


 私は、あら気にしないでいいのよウフフ、といった素振りでスーツを脱いだりしていくが、耳は全身全霊でキナコの方に向けている。


 方言をもっと聞きたい、という気持ちが半分。相手が誰なのか、何の話なのか、と気になっているのが半分だ。


「……わかった。わかったってば。……うん、聞いとくけん。……もう、わかったって言いよるやろ、そがんこと言わんでよ。……うん、うん。……うん、また。」


 キナコはため息をつきながら電話を切ると、私の方に駆け寄ってきて、力なく私の腰に抱きついた。


「つばめちゃん、おかえりなさーい……」


 なんとも元気のない声。

 私はキナコの頭を撫でつつ、にっこり笑った。


「ただいま、キナコ。電話は地元のお友達? なんか、大変そうだったけど」


「いや、お母さんです。……つばめちゃん、今日ごはんの後、ちょっとお話いいかな?」


 なにか深刻そうな表情のキナコ。

 これは……よくわからないけど、夕飯はちょっと頑張って、キナコの好きそうなメニューにしてやるか。




「はああ! うんまあ! なんで、なんでわたしがグラタン好きなの分かったんですか? うまあ……」


 よし、楽勝。

 グラタンが嫌いなやつなんていないからね。ちょっとシーズンオフの料理だけど、最近少し涼しくなってきたし。


 マカロニと混ざった、こってりのホワイトソース。たっぷりかけたチーズにほどよい焦げ目。


「チーズすごい……おいしか……」


 ふふ、ちょっと方言が残ってるキナコ、かわいかかわいか!




「で、さっきの話って?」


 食事を済ませ、紅茶を淹れてから話かけると、キナコはだらんと私にしだれかかりながら、またため息をついた。


「あー……いや、うん、ちょっとちゅーしてからにします」


 思い付いたように、キナコは私の顔を押さえてキスをした。

 私が何か言おうとすると、またそれをすぐ自分の唇でふさいでくる。


 ほほう、そっちがその気なら、こちらにも考えがありましてよ。


 私はキナコをソファーに押し倒すと、馬乗りになったまま笑顔でキナコの服を脱がしにかかった。




「……はあ、はあ、参りました……」


 一戦終え、顔を赤らめたままのキナコから、敗北宣言を引き出した。

 付き合い始めた当初は、私も初心者ゆえにいろいろと力量不足を感じていたが、最近ではもはや、キナコの夜の弱点はほぼ完全にマスターした自信がある。


 しかし、やっぱりキナコはかわいいなあ。かわいいしかない。

 ただの美人は三日で飽きるというけど、キナコのかわいさは不滅。永遠。

 かわいすぎるから、続けてもう一戦もアリだなこれは。


「わああ、言います! ちゃんと話しますから、ちょっと休憩させてよ!」


 一戦終えて息も絶え絶えになったキナコは、次なる攻めを再開しようとした私の腕を押さえて、ついに観念した。


 ていうか、キナコは一体何と戦っているのか。

 そもそもキナコから話があると言ってきたくせに。



 軽く服を着なおしてから、もうすっかり冷めた紅茶で喉をうるおし、キナコは話を始めた。


「……さっき、お母さんと電話してたんですけど、最近私がお金の無心をしてこないから、逆に心配になったみたいで。……ほら、夜のお店で働いてるんじゃないか、みたいな」


 ああ、私と暮らすようになってからは、そりゃお金はあんまりいらなくなってるもんね。

 ……実質はヒモだから。


「それで、その、今は恋人、女の人と暮らしてるから、お金には困ってないって言ったんですけど」


 ほうほう。確かキナコのご両親は、キナコが同性愛者だってことは知ってるんだもんなあ。


 しゃべりづらそうにしているキナコの頭をゆっくり撫でて、私は無言で話を促す。


「ほら、なんというか、そういう相手にお金で迷惑をかけるような生活は、結婚できるわけでもないのに、ダメだよって言われちゃって。いや、そりゃそのとおりなんですけどね」


「私は一切、迷惑だなんて思ってないからね。ていうか、実質結婚だと思ってるから私は。扶養だからねこれは」


 力強く宣言する私に、キナコは遠慮がちにキスをプレゼントしてくれる。


「……で、売り言葉に買い言葉っていうか、わたしも、その、実質結婚してるようなもんだからって言ったんですけど……そしたら、その、相手を連れて挨拶に来なさいって」


 おお、まあそりゃそうか。

 お母さんたちからしたら、かわいい娘をとられるっていうのは、相手が男でも女でも一緒だもんね。


「いいじゃん、ちょうどそっちのご両親にも挨拶行きたいと思ってたしね。で、いつ頃がいいかな?」


 私の言葉に、頭を撫でられたまま、キナコはふんわりと笑った。


「……ふふ、つばめちゃんのこういうとこ、本当に大好きです。わたし、もし断られたり、そのことでギクシャクしたら怖いなあって、少し不安だったんですよ。いつも、悩んでたのがバカらしくなるんだよね」


 へへ、おバカな猫ちゃんだなあ。

 キナコの実家に行けるなんて、私からすれば、いわゆる聖地巡礼みたいなもんだからね。


「キナコは変なとこで気にしすぎだよ。私がいかにキナコを愛してるか、まだあんまり伝わってないのかな? ……お母さんたちに、きちんとご挨拶させてくださいって、伝えておいてね」


 キナコは、またふんわり笑って、そして押さえきれないように、また私にキスをした。


「うん。……つばめちゃん、大好き。」


 まったくもう、かわいすぎるのは罪だよキナコちゃん。


「で、年末年始で実家に帰ろうかと。だから……つばめちゃん、そのとき、一緒にうちの両親に、挨拶に来てくれますか?」


 ちょっと照れたような表情で上目遣いになるキナコ。

 あざとい。そしてかわいい。


「もちろん。ありがとうキナコ。私をご両親に紹介してくれて。……それじゃあ、年末なら、早めに飛行機予約しないとね。いや、長崎行きってそもそも飛行機の便はあったかなあ」


 次なる我が家の旅は、キナコの地元ツアーになりそうだ。


 ……いや、さすがにまだ気が早いか。

 明日も最高気温は30℃くらいだって、天気予報も言ってたしね。

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