14. お盆といえばお墓参り
久しぶりに訪れたお墓の周りには、少し雑草が増えてしまっていた。
周りにも二組ほどお墓の掃除をしている家族がいて、これぞ日本のお盆、といった感じだ。
キナコ全面協力の元、墓石もざっくりキレイに拭き掃除完了。こんなかわいい女の子にキレイにしてもらえて、ご先祖様もみんな喜んでいることでしょう。
「そういえばつばめちゃん、先代猫のキナコ先輩のお墓もこのあたりにあるんですか? 今日でどっちもお墓参りするって言ってましたけど」
お墓にろうそくをセットしながら、二代目キナコちゃんが尋ねてくる。
「え? いや、このお墓に猫のキナコも一緒に入ってるんだよ。ほら、ここに書いてあるでしょ?」
メインの墓石の横にある、先祖の皆様の名前が掘られた石には、確かに三条キナコと書いてある。
「え、これつばめちゃんが自分で名前書いたでしょ!? ……油性マジックで書いてあるなんて……こんなの初めて見ましたよ。つばめちゃん、正気ですか?」
いや、確かに当時は正気を失っていたかも。
先代キナコが死んでしまったあと、火葬した猫の骨をこっそりお墓の中に収容し、この石に油性マジックで名前を追加しておいたのである。
「へへ、まあ私以外このお墓に誰が来るわけでもないし、大丈夫でしょ。私のお父さんも猫派だったからさ、天国でかわいがってくれてるよ、きっと」
熱心な宗教家の人に見られたらすごく怒られそうな気がするけど、先代キナコも間違いなくこの三条一族の一員だったのだから、まあこのくらいはオッケーだろう。
二代目の人間キナコは、ちょっと引いたような目で私を見ている。
「つばめちゃんのこのぶっ飛んでる部分は、ご両親の遺伝なんでしょうかね? 親の顔が見てみたいっていうの、本気で思ったよ……」
「おやおや、そんなこと言っちゃいけないよ。ほらキナコだって、おばあちゃんになって、死んじゃったらこのお墓に入るんだから。うちの両親に今のうちから気に入ってもらっておかないと」
キナコは私からお線香を受け取りながら、目をぱちくりさせた。
そして、急に向こうを向いて、お線香を持っていないほうの手で、顔を隠してしまった。
もしかして、泣いてる?
「わ、わわわ、キナコ、なんかごめん。わたし、変なこと言っちゃったね? 死ぬとかなんとか、嫌な話だったね? ごめんね?」
まずい、キナコが泣くとこなんて、初めて見た。
「……違いますよ。へへ、なんか嬉しくて」
キナコは、目を拭いながらこちらに向き直った。
「だって、今のプロポーズみたいじゃないですか。一緒のお墓に入ってくれ、みたいな。女同士なのに、わたしとずっと一緒にいることを、あたりまえみたいに言ってくれるから、嬉しくて……」
キナコはふんわりと笑いながら、泣いている。
ポロポロこぼれる涙がすごくきれいで、こっちまで泣きそうになる。
なんだよう、ずっと一緒にいるなんて、当たり前に決まってるじゃんか。
「いつか、キナコのご両親にも挨拶に行くからね。ふふ、まさか自分が、娘さんを下さいって言う立場になるなんて、びっくりだよ」
キナコはまた少し泣いて、また笑った。
おはぎをタッパーのままお供えし、線香の煙がうっすらと漂う中で、キナコと並んでお墓に手を合わせる。
ご先祖様、お父さんお母さん、私は子孫を残せそうにないので、たぶん三条一族はここでおしまいだけど、どうかお許し下さい。
女同士だけど、私はこの子と生涯添い遂げるつもりです。
許してくれなくても、そうします。
いや、許してくれなかったら、もうお墓の掃除に来ませんからね。徹底抗戦を辞さない覚悟です。
天国のキナコ、私の横にいるのが、新しいペットだよ。
しかも最近、恋人同士にもなったんだ。
見てくれてるかな?
先輩として、天国から応援してね。
長い間、私と一緒にいてくれてありがとう。
大好きだよ。愛してるよ。
「……つばめちゃんまで泣いてるじゃないですか。また、先代キナコ様のこと思いだしてたんでしょ。なんか、嫉妬しちゃうな。同じペットだけにね」
長い時間、手を合わせていた私を、キナコはじっと見つめていた。
私の涙を手のひらでぐいぐい拭いてくれる。
今日はお互い、涙もろいね。
「さ、キナコ。お供えのおはぎはここで食べちゃおう! まさに死人に口なしだからね! 私達で代わりに食べてあげなきゃ!」
「それはちょっと意味が違うし、なんか不謹慎ですけどね。でも、ちょうどお腹空いてたから、嬉しいな」
帰り道、私達は手を繋いで、また田舎道を歩いていく。
「今日は、来れてよかったです。ちょっと色々びっくりしたけど、つばめちゃんのことを、またいっぱい好きになっちゃったかも」
絡めた指をにぎにぎしていると、キナコのほうも同じように力を入れてくれる。
キナコ大好き。
「こちらこそ、今日は来てくれてありがとう。両親に紹介できたみたいな気分だよ。先輩猫も、たぶん天国で喜んでると思うよ」
歩きながらキナコに顔を近づけると、キョロキョロとあたりを見回して、キナコのほうから軽くキスをしてくれる。
「そういえば、実はうちの両親には、わたしが同性愛者だって何年も前からバレてるんですよ。最近は一応応援してくれてたし、つばめちゃんを連れて帰ったら喜んでくれるかもなあ」
「一緒に暮らしてるっていう、おばあちゃんは? さすがに驚くんじゃない?」
「いやあ、おばあちゃんはいつもわたしの味方になってくれますから。ていうか、わたしの性癖が親バレしたのは、実はおばあちゃんのせいなんですよ。高校生のとき、わたしがこっそり女の子同士のエッチな動画を見てたんですけど……」
とりとめもなく、話は続く。
わりと寂れた駅が近づいてきて、さっきおはぎを食べたばかりだけど、私達の話題は今日のお昼ごはんの話に変わっていった。




