98話:担任が、クラスごとの異世界転移に取り残されたら悲惨だろうなあ。
最初は、なんか短編を書いてみようかと思ったんですが、悲惨すぎて……やめた。
さて、今日もホームルームから始めるかね……などと、教室のドアを開けた彼(彼女)が目にするのは、誰もいない空間。
え、もしかしてクラス全員ボイコット?
動揺するか、現実逃避するかはさておき、自分でそれを報告するか、周囲が先に報告するかはわからないが、大騒ぎになるだろう。
生徒たちが噂する。
保護者が騒ぐ。
マスコミが食いつく。
謎の集団失踪事件……しかも原因は不明。
失踪した生徒たちは、みんないつものように家を出た。
友人と一緒に学校に行き、教室で別れたなどという証言も出てくるかも知れない。
ある朝突然、クラスの生徒全員が消えた。
分かることは、ただそれだけ。
するとどうなるか。
みんなが納得できる理由を求めだす。
もちろんそんな理由が与えられるわけはないから、納得できる落しどころを求めだす。
学校が、世間が。
上から下へと圧力がかかる。
最初はやんわりと、しかし脅迫じみたものへと変化するのはすぐだ。
『君に責任がないのは分かっている。しかしだな……』
世間は、学校は、クラスの担任に『自主的な辞職』を強要するだろう。
クラスの生徒達が集団で消えた方法も、行方も、何もわからない。
しかし、事件は起こった。
何もわからないから、世間は何らかの区切りを求める。
理由がわからないと、その謎が、不安そのものが自らの身に降りかかるかも知れない。
区切りというのは、結局自分とは関係がないことという安心を得ることでもある。
『クラスの担任教師が辞職した』
これでなんとなく、一区切りついたような気になってしまう。
ああ、あの事件はクラスの担任教師に何らかの理由があったんだ……と、そんな気になってしまうという雰囲気を得るため、そして与えるために、集団が個を犠牲にする。
これは珍しいことではなく、むしろ日常生活で普通に行われていることだ。
しかし、担任教師の地獄はここからずっと続いていく。
ほかの学校で職を……無理である。
かつて担当していたクラスの生徒が集団失踪。
学校としては、保護者に不安を与えるような教師を受け入れられるわけがない。
冷静に、理論的に考えて、担任教師一人がそんな事件をおこせるはずがないのだが、何もわからないという不安に耐えられないために、人は容易く誰かを犠牲にし続ける。
担任教師は、教師という職はもちろん、土地からも離れることを余儀なくされるだろう。
家族がいたら、かなり悲惨な目にあう。
他人による嫌がらせ、様々な圧力。
自分から家族に別れをきりだすだろうか、それとも家族の方から離れていくだろうか。
そうして、全てを捨てて流れてみたところで、必ず過去は追いかけてくる。
土地から土地へ、転々と。
気力が尽きるか、金力が尽きるか……生を求めるならば、国を捨てるしかあるまい。
無論、そんな過去を持つ人間をほかの国が受け入れるかどうかはまた別の話だが。
……と、ちょっと考えただけでもこうなるのは目に見えている。(日本国内に限る。ほかの国のことは知らないので)
いや、真面目な話。
ネットの普及で、身バレ顔バレ、過去が追いかけてくる速度も半端ないでしょうから。
なんというか、リアルって世知辛い。




