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99話:世紀末野球部伝説。

救世主など現れない。

 私が所属した野球部の中で、高校に関しては他と比較してもかなり恵まれていたと思う。

 部員同士のヘイトがほぼ皆無というか、部員のヘイトは基本的に指導者に集中してましたから。

 ……そう聞くと、ひどい指導者だったと思われるかもしれませんが、いろんな意味でかなりましな人だったと思います。

 集団をまとめるのに嫌われ役は必要ですが、嫌われ役が必要以上に嫌われるとその集団は瓦解してしまいますから……まあ、想定内ってことで。

 大学は……その、私から見ると温い集団で、よく言えば仲良し集団というか、体育会系の悪い部分に関しては何も問題はなかったかと。

 体罰とか、暴力行為に関して世間の目が厳しくなってきている時代でしたからね……。

 でもまあ、ほかの大学に目を向ければアレですよ。

 1年生が、3年生なり4年生の寮の部屋に呼び出しを受けます。

 遅くなったらビンタなので、慌てて駆けつけると『おう、テレビのチャンネル変えてくれ』ですからね。

 わざわざ食堂まで呼び出して何かと思ったら、自分で手を伸ばせば取れる位置の『そこの醤油とって』とか。

 もちろん、ちょっとでも不満を面に出したらビンタではなく鉄拳制裁です。

 ついでに、学年全員連帯責任で、説教と暴力コース。


 ……冗談でもなんでもなく、こういう上下関係が普通に成り立っていたりする時代というか、集団というか、特殊な歴史の積み重ねの果てというか。

 柔道部に関する某名作漫画において、『伝統の名において先輩にやられたことを後輩にやる』『自分がやられた時よりも軽くやってるつもりが、記憶補正によって重くなっている』シーンが描かれてましたが、あれはものすごく真実を突いているような気がします。


 と、いうわけで。

 私の中学校の野球部の話をします。

 当事者として、野球経験の中で最もひどかった野球部だと確信しています。(笑)

 まあ、小学校、中学校時代の年齢の違いってのは、かなり大きな差を生むのは言うまでもありません。

 ピカピカの中学一年生からみたら、3年生の先輩はマジ怖い。

 うわあ、3年生ってみんなこんなんかよ……と思ったら、3年生のガラの悪い連中のトップクラスが野球とサッカー部に集まっていたというオチだったり。

 といっても、中学野球の最後の大会は7月頭に始まって……はい、県大会までいけませんでしたから、早々と顔を合わせることもなくなったのでほっとしました。

 え?

 ああ、もちろん約3ヶ月の間に度胸試しと称したパンツいっちょの自己紹介とか、グランドに水まいてびしょびしょにした場所でヘッドスライディングの練習とか、返事が悪いとか、声が小さいとか、様々な難癖をつけて尻をバットで叩かれたり(いわゆるケツバット)、ビンタされたり、殴られたり。

 それでまあ、ケツバットとか、ビンタとかですけど、やり方はもちろん、やられ方にもコツというか技術があるんですよ。

 たとえば、ビンタですけど、怖がって避けようとしたら耳に当たって、鼓膜が破れたりします。

 だから、向こうが反応できない角度から素早く叩くか、『これからビンタするぞ』と意思表示してからやらないと、事故が起きます。


 ああ、うん。

『何言ってるの?』と思うのは基本的に現代社会人として正常なんですが、あの時代の私の故郷において、それはある意味一般常識だったんですね。

 あ、殴られると思ったら、歯を食いしばって微動だにしない。

 野球部に限らず、学校の教師……といっても、いわゆる生徒指導役の教師の体罰は日常茶飯事でしたから。

 目を閉じさせるのもひとつの方法です。

 見えないと、避けることもできませんから。


 まあ、結論だけ書くと。

 3年の先輩によるビンタによって1年生の鼓膜が破れ、3年生が引退したあとの2年生によるケツバットによって1年生が腕を骨折(バットを怖がって尻を引き、腕に当たった)しました。

 ケツバットの方はちょっとばかり問題になって、再びの『ケツバット禁止令』が出されました。

 聞けば、6年ほど前にも野球部員の保護者会の間で話し合いがあって、彼らの言い分によると『ケツバットは廃止されたはずなのに、誰が復活させたんだ』とのこと。

 まあ、ここで本当に怖いのは『立派な傷害事件であるはずのビンタの方が表立って問題にならなかった』ところですね。(笑)

 なんというか、『避けたほうが悪い』ってことでしょうか。


 さて、3年生に比べたらおとなしく見えた2年生の先輩たちですが。

 ここでまた私は、人間の心の闇というか、ねじくれた感情の発露を目の当たりにすることになります。

 それまで散々先輩たちにやられた心の鬱屈もあったんでしょうが、チームの主力選手ではない、先輩たちがなんというか……。

 夏休みを終えて目前に控えた秋季大会において、ベンチ入りできるのは15人。

 2年生は全部で14人。

 1年生でベンチ入りできるのは1人……自意識過剰と言われればそれまでですが、同学年において自分の実力が頭一つ抜けている程度の自覚はありました。

 ただ、同学年の投手を控えとしてベンチ入りさせるのもアリだよな……とすると、ベンチ入りできないかもしれないというぐらいの分析もできていたのです。

 どうせベンチ入りしたところで、アクシデントがない限り試合には出られません。

 指導者の方針が、部活動は教育の一環という観点で、実力優先ではなく、学年優先なのは明らかでしたから。


 すると、この指導者がやってくれたのです。

 おそらく、練習をサボりがちな先輩に対する懲罰的な意味合いもあったんでしょうけど、1年生から3人をベンチ入りさせやがったのです。

 どうせ、試合に出させるつもりもないのに。

 さあ、メンバー発表の翌日、私を含めた1年生のベンチ入り3人が2年校舎の男子トイレに呼び出しです……オラ、ワクワクしてきたぞ。(笑)

 ベンチ入りを外れた先輩と、レギュラーではない先輩がそろって、『いい気になるなよ』などと、説教と暴行の嵐です。

 これで終わりかと思ったら、まだ続きがありました。

 メンバー入りの3人の中に、家が自営業というか商売を営んでいるのがいまして。

 そして、レギュラーになれなかった2年生の先輩の中に、いわゆる地元の有力者っぽい人がいましてね……圧力をかけてそこの仕事を引き上げさせやがったんです。

 恥ずかしいことに、私はそんな大騒ぎになっていることを知りませんでした。

 当然、地元の商工会でその話が出て、『それ、ウチの子もおるから他人ごとと違うな。よっしゃ、その喧嘩、買うたるわ!』と、どこかのアホ(笑)がぶち上げて……。

 最終的に、市議会議員さんと、県議会議員さんを巻き込んで……。


 まあ、これを予測しろという方に無理がありますが……指導者が地元の人間じゃないから、このあたりの配慮ができなかったのは事実ですね。

 どうせ試合に出さないんだから、おとなしく2年生全員ベンチに入れとけよって話です。

 今だから笑い話に……笑い話?……にできますけどね、当時の私としては恐怖ですよ。

 野球が上手くなりたい、活躍したい、あわよくばプロになって有名人になりたい……とひたすら努力してベンチ入りしたら、実家に迷惑がかかるかも知れないなんて。

 私の『田舎(故郷)大嫌い』の感情の何割かは、この時の恐怖というか、不条理に対する怒りやあきらめでしょうね、きっと。

 血縁、柵……その辺を理解せずに、同級生と喧嘩したら路頭に迷う可能性だってある……大人になった今ならともかく、少年時代にこれを味わうと……。


 私は別に人格者でもないというか、むしろマイナス方向の人格を有していると思います。

 それで野球が上手くなるなら体罰もやったかもしれませんが、無駄なことはしたくなかったし、そんなことに時間をかけるぐらいなら自主練習したかったので、自分たちが最上級生になった際は、目に付く限り暴力行為はやめさせました。

 ただ、やはり私の目の届かないところでその手の行為は行われていたようで……まあ、正直どうしようもないですね、ああいうのって。

 パンツ一丁はともかく、ほかの部活が活動しているグランドの隅で大声での自己紹介は、度胸がつくかもしれないなと、黙認したので、偉そうなことも言えませんが。


 ただ、私の一つ下の学年が、またやんちゃ(笑)揃いで。

 大会を目前に控えた時期に、木刀持って他校の連中と喧嘩して骨折して戻ってくるとか。

 決してネタじゃないんですが、あくまでもこれが普通というわけではなく、やんちゃ(笑)な連中のやることですから。

 一般人は、木刀なんか持ってないし、持ち歩かねえよ。

 つーか、そんなもんで殴ったら骨が砕けるぞ。

 多分こいつら、私たちがいなくなったあとに後輩たちへのケツバットをはじめとした暴力行為をやらかしたんだろうなと思います。


 そしてまた、歴史は紡がれる……。

逃げるしかないのだ。

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