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93話:イギリスのメシマズは真実なのか?

 まあ、そもそも『メシマズ』が誰にとっての『メシマズ』なのかってところから問題にしなきゃいけないわけですが、それは後回しにしておいて。

 まずは、真面目なお話から。

 そもそも、イギリス本島がいろいろな作物の北限にあたっていること。

 ぶっちゃけ、食材そのものを豊かに揃えるという点でかなり不利なポジションにある。

 EUトンネル開通によって、食材流通において改善が見られる昨今ですが、イギリスのメシマズ風評はそれ以前にばらまかれたから、詳細は省きます。

 結局、地質もあって野菜が少ない。

 私たちの世代が耳にした『メシマズ』からすると、イングランド料理は茶色いイメージがあります。

 肉料理と、申し訳程度のサラダ、以上……みたいな。

 つまり、料理の外観に彩りとかを求める人たちにとっては、必然的に評価が低くなる。

 当然、日本人はこのカテゴリーに属する。

 言うまでもないが、歴史的に仲の悪いおフランスの方々が、イングランド料理をクソミソに貶す。

 おフランスも、料理に彩りとか、配膳バランスとか、芸術的な何かを多大に要求するお国柄です。

 イギリスのメシマズが、日本だけでなく世界的な認識……の根拠とされる発言のほとんどは、おフランス絡みだったりする。

 まあ、奴ら(主にフランス)に好き勝手に言わせてなるものかと、イギリスはアピールとしてメシマズ風評を払拭しようと奮闘中。

 さて、野菜(食材)が少ないということは、当然ながら燃料も豊かではないということだ。

 いや、電気とかガスの話じゃなく。

 日本だと、山、森……無論色々と制限はあり、争いの種でもあったが、薪は有力な燃料源であり、資源でもある。

 まあ、説明するよりスコットランドなんかの観光というか、風景写真や画像を見てもらったほうが早いと思う。

 料理が文化であるならば、それは積み重ねの歴史にほかならない。

 歴史を積み重ねるだけの資源がそもそも乏しかった背景がある。

 飯盒炊爨のお話でちょっと触れたが、炭ならまだましだが薪の火力で調理すると、普段の料理の腕なんか発揮できない。

 火力不足かつ、安定した火力を得る難しさ。

 弱火でコトコトとかいうレベルのお話ではない。

 さつまいもを焼き芋にする際に、甘味を増やす決め手は60度前後の温度調整にあるという話を聞いたことはあるだろうか?

 落ち葉焼きで作った焼き芋は美味しいというのは、ちょうどそのあたりの温度帯を維持できる可能性が高くなるからだ。

 そんな科学的な分析が行われたのはここ数十年のお話であるのに、『落ち葉焼きの焼き芋は美味しい』という認識が当たり前にあったこの奇跡。

 当然これは先人達の試行錯誤によるものだが……この試行錯誤のために必要なのは、情熱であり、資源でもある。

 もちろん、資源がないなら無いなりに努力するのが人という生き物であり、それは地域による特色となって花を咲かせる。

 うん、花を咲かせることもある……のだが。

 もともとフランス文化の影響を色濃く受けていたイギリスだが、100年戦争をはじめとした殴り愛のはてに文化的独立を目指した。

 そんなイギリスに悲劇が襲う。

 そう、産業革命である。

 人口の4分の3が農村に住んでいたと言われる17世紀。

 これがなんということでしょう、人口の4分の3が都市部に住むようになるまで100年とかかりませんでした。

 農村部は、新鮮な食材が手に入りやすいです。

 流通が発達しまくった現在と違って、都市部で新鮮な食材を手に入れるのは難しいです。

 もともと豊かとは言えない食材が、都市部では更に乏しく。

 保存性、輸送のしやすさを優先した食材が都市部に運び込まれます……船によって。

 なんということでしょう、これまでイングランドで積み重ねてきた歴史が、このローリングな100年によってものすごい勢いで散逸したのは言うまでもありません。

 都市部に住む労働者。

 彩り?味?独自性?

 うるせえ、とにかくカロリーもってこい!

 紅茶に砂糖をぶち込め。

 ジャムは砂糖たっぷりだ。

 フィッシュアンドチップスは、脂分たっぷりで一日の活力カロリーを得られるぜ!何しろ自分で作らなくて済むしな。


 そう……彼らが料理に要求するものは、何よりもカロリー。そして手軽さ。

 今の日本でも、この悲しい現実は存在するわけですしね。

 いわゆる『おふくろの味』だって独自の料理文化である。

 その、貴重な料理文化が現代日本においてものすごい勢いで失われているのはみなさんにもわかるのではありませんか?

 え?

 うちの『おふくろの味』は消滅すべき?

 いやいや、消滅すべきレベルの『おふくろの味』だって、貴重な資料ですし、多様性というのはそういうところから生まれるものですよ。

 いわゆる、ピラミッドの裾野ですね。


 と、イギリスのメシマズの背景というか、積み重ねたはずの歴史の散逸と、そもそもの積み重ねる条件の悪さが前提としてあるわけですが。

 残念ながら私は実際に食べたことがないのであれなのだが、1980年代、90年代に何度もイギリスに足を運んだことがある知人は、『ちゃんと金出せば、美味いもんは食えたぞ』と、言い放った。

 うん、『ちゃんと金を出さなかったらどうなったのか?』なんて疑問は口にはしない。

 安くて美味いのは努力目標であって、基本的に高いものは美味しいのだ。

 ここで深読みすると。

 ひとまず世界の風評は置いといて、日本人の間に広がっている『イギリスメシマズ説』は誰が振りまいたのかを考えてみよう。

 私の親の世代だと、海外旅行といえばハワイだ。

 某歌謡曲ではないが、まさしく憧れの、なのだ。

 私の世代になると、海外旅行は広がりを見せてくる。

 いろいろな意見はあるだろうが、イギリスがメインではなかったことは確かだ。

 ヨーロッパ旅行は話題になっても、イギリスメインの旅行はあまり聞かなかった。

 ケルト大好きとか、アーサー王とか、スコットランドにロマンを感じるとか、なにか別の目的持った旅行者というイメージがあるのだが……知人に殴られそうだからこのあたりは曖昧なままにしておきたい。

 何が言いたいかというと、日本人の海外旅行というといわゆるパックツアー……語弊があるのはわかってますが、自力でひとり旅、二人旅が少数派なのは間違ってないと思う。

 ここからは、あまり根拠のない想像の話になるのだが。

 美味いものを食べたきゃ金を惜しむなってのは、世界での共通事項である。

 もちろん、安くて美味しいものを探すのが楽しいという人もいるだろうが……重ねていうが、高いものに外れは少ない。


 学生の貧乏旅行で、金をけちってイギリスの食事でひどい目に遭う。

 旅行そのものはそれなりに満足感を覚えたがゆえに、余計に食事がクローズアップされる。

 笑い話のネタに、もしくは旅行の愚痴話のネタになる……基本、若者(同世代)の間で広がる。

 イギリス旅行がメジャーではない故に、この風評を覆せすネタが出てこない。

 いつの間にか定説に。


 うん、やや強引かなとは思うんですが、こんな感じではないかと。

 いや、『イギリスはメシマズ』説って、バブル景気崩壊~ネット普及の期間、ほとんど話題にならなかった気がするんですよ。

 悪評千里を走るというか、近年の『メシマズ』って、ネットのせいで広がっただけではないのかな、と。


 昔、クソゲーと言われるゲームの批評を、ネット上で丹念に拾っていったことがあるんです。

 ゲームの販売数に対して悪評が多すぎ(というか、販売数よりも多い)たり、明らかにゲームをプレイしていないのがわかる批評文がゴロゴロしてたり……。

 そういうのを知ってるだけに、私はどうも世の中に溢れる悪口や噂に対して斜に構えてしまうところがあります。

 まあ、そのあたりの虚実は置いといて……。

 イギリスが、というかイギリスの料理界が悪評を払拭せんと躍起になって、各国の料理を取り入れて進化しているのは確かです。

 観光客に対してのアピールもありますしね。

 イギリスはメシマズなどと、安易に口にしない方が良いと思います。

 少なくとも、言われた方は気を悪くするでしょうから。

 まあ、私は噂よりも『金出せば美味いもんは食えた』という知人の方を信用します。


 そういえば、中国返還前の香港。

 観光客のメインは日本人……とまでは言い過ぎでしょうが、パックツアーのために日本人観光客用の土産物店、レストラン、その他が全部決められた場所だったらしいですね。

 ほら、日本人が大好きなカニ。

 日本人観光客のために、カニ料理を用意。

 このカニ料理が、地元名物料理とか。(笑)

 商売の事を考えると、当然『日本人観光客向けの味付け』にならざるを得ません。

 さてさて、日本人観光客がメインじゃない旅行先で、観光客用のレストランで食事したら美味しくなかった場合……これは、誰にとってのメシマズなのか。

 でも、『〇〇の料理は美味しくない』とネットに書き込めば、日本人にとってはそれが真実になってしまうかもしれませんね。

 日本で店を開く海外の料理店は、当然メインの客である日本人向けの味付けにするでしょう。

 これを盾に、『〇〇がメシマズ?そんなことないよ、だって……』という反論も、足元が見えていないという意味で同じことになるでしょう。

 うん、人間は人間である限り主観を逃れることはできませんが、多少は客観的な立場をイメージすることができるはずです。

 私も、そうありたいなあとは思っているのですが……難しいですね。

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