85話:陸上競技観戦2
まあ、実際に観戦しに行って楽しいと思えるかどうかは波長が合うかどうかでしょう。
さあ、三日目はあいにくの雨。
またまたやってきた私を見て、顔見知りになった部員が苦笑い。
雨が降っているので、スタンドに割り当てられた各大学のスペースからは避難……屋根の下および内部は、大混雑状態。
ああ、これは私の存在が邪魔になるなと思ったので、傘をさしてスタンドのスペースの方に移動。
おそらく人数そのものは、一昨日や昨日と同じぐらいいるはずなのだが、スタンドはメインスタンドの上方(屋根がある)を除けばがらんとしていて、所々に傘の花が咲いている程度。
競技が始まると、僅かにジャージ姿の人間が現れて声援を飛ばしたり、手元でラップ(長距離競争などで、1周を何秒のペースで走ったかなどを記録すること)をとったり……なんというか、色々と大変そうである。
実はこの日、10種競技が始まるので個人的にひっそりと注目していた。
十種競技、通称デカスロン。
名前のとおり、100メートル、走り幅跳び、砲丸投げ、走り高跳び、400メートル(この5種目で一日目終了)、(ここから二日目の5種目)110メートルハードル、円盤投げ、棒高跳び、やり投げ、1500メートル。
各競技の記録をポイント化して、10種目での点数を争う。
長所を伸ばしつつ、短所を補う……万能性を尊ぶヨーロッパで特に人気が高く、キングオブキング(キングオブスポーツだったかも)と称される種目です。
ちなみに女子は7種競技。
男子においても、日本の高校だと8種競技になる。
この日、天候のせいもあって全体的に記録は低調で、会場的には盛り上がりに欠けた一日だった。
3日目ともなるとかなり周囲が見えてくるというか、参加している選手がわずか数人みたいな大学も珍しくなく、自分の競技が終わったらそのまま帰るのも普通のことっぽいのがわかってくる。
競技プログラムを借りてチェックしてみたところ、すべての競技を含めて参加人数が1人の大学が2つもあった。
こうなると、もう個人競技スポーツ以外の何物でもない。
ただ、陸上競技において羨ましいと思ったのは、こうした大会以外にも各地で記録会が催され、陸上連盟に登録していて出場料さえ支払えば誰でも出場できて、失格しなければ記録が残せるということだ。
野球に限った事ではないが、どんなに練習をしても試合に出られなければなんの結果も残せないスポーツがほとんどだ。
前にも少し述べたが、日本におけるスポーツは学校教育と密接につながっていて……というか、学校を卒業してしまうと、結果を残した人間以外は、スポーツする環境がほぼなくなってしまう。
無論、遊びとは別の話だが。
結果を残せないまま……良い結果を残せなかったではなく、試合に出ることなく野球部を去った人間は私が知るだけでもたくさんいる。
これは公式試合だけの話ではなく、練習試合にさえ出場できない人間はいるのだ。
そういう意味では、陸上競技は選手にとってとても優しいスポーツであるように私には思える。
少なくとも、記録という形で結果が残せる。
ギリギリの部分でそれは甘さを生むかもしれないが、スポーツの普及という面からなくしてはいけないものかも知れない。
少し話がそれた。
やや全体的な盛り上がりに欠けているとは言ったが、団体としてしのぎを削る大学は反対にヒートアップしていくようで。
野球みたいな競技と違って、陸上競技の場合、出場選手の最高記録、最近の成績などはほとんど出揃っていて、各種目の予想結果、予想ポイントを集計して、現実との突き合わせが……。
早い話、上位を争う大学は自分たちの学校はもちろん、ライバル校のスコアなどが大きな紙に記入されて張り出されていて、部員が戻ってくるとそれを見て一喜一憂。
それだけに、やたら盛り上がる連中と、ものすごく醒めた連中との温度差が……。
さて、私が注目していた十種競技(初日)はあまり盛り上がらず……というか、(私の主観的には)意外にも5千メートルや1万メートルなどの長距離が盛り上がるのである。
8百メートルや1500メートルの中距離なんかも、スタンドから大歓声が上がる。
実はハーフマラソンもあるのだが、日程や場所の問題で既にこの開催前に競技を終えていたらしい。
この中長距離競技の盛り上がりについてだが、後になって考えると競技人数の違いかなと。
確かめたわけではないのだが、短距離・中長距離・跳躍・投擲の4つの部門に分けると、まず投擲が一番少ない。
そして跳躍と短距離。
大学において部員の半数以上が長距離に所属する選手という構成が珍しくないようだ。
まあ、普通に考えたら自分に関係する競技に注目するものだろう。
オリンピックの放映なんかだと、日本ではマラソン以外割と空気扱いですけど……たぶん、関係者にとってはこめかみピクピク状態かもしれません。(笑)
さて、4日目。
こうなれば半分意地である。(笑)
ちなみに友人が、200メートルの準決勝で肉離れを発症。
タイム的に決勝に残ったが、棄権するしかないよね……え、出場る?
棄権すると失格で、せっかく決勝に残ったのにポイントが入らない……ので、友人はほかの選手の背中を見送りながら、ひょこひょこと歩いてゴール。
1ポイントゲットだぜ。
うん、シビアな世界だ。
競輪で、転倒して骨折したのにフラフラになりながら自転車に乗り直してゴールする選手の姿を思い出した。(順位は変わらなくても、ゴールせずに棄権すると賞金が全額貰えない)
最終日ともなれば、行われる競技はほとんど決勝。
スタンドは盛り上がる……一方で、割り当てられたスペースに誰もいない大学も少なくない。
ああうん、甲子園を目指す学校と、そうでない学校との温度差みたいなもんですね、わかります。
そして最終競技のひとつ前。
4×400メートルリレー……通称マイルリレー。
4×100メートルリレーと同じく、速い選手を4人をそろえなきゃいけないことから、決勝に残るような大学は基本的に団体でも有力校。(マイルは特にそうらしい……同じ短距離でも、100よりは400の選手層が薄くなりがちなんだとか)
セパレートコースの4×100と違って、マイルリレーは第二走者のバックストレートからオープンコースに変更(だったよな?)され、選手同士の接触、バトンがあたって落ちるなどの悲劇もうみます。
接戦時のポジション取りは過酷で、あまり言葉にできないような反則や、裏技があるらしいですが詳しくは知りません。
ただ、この競技での見所は……各学校の応援合戦である。
ほかに行われている競技がないのもあるだろうが、選手のサポート以外の部員はスタンドのスペースに集合し、揃った掛け声『(一例として)ゴーゴーレッツゴーレッツゴー〇〇!(大学名と選手名を交互に繰り返す)』を、レースの間中、ずっと繰り返す。(3分以上)
部外者からするとあれかもしれないが、当事者からするとおそらくこれはアツイ。
と、いうわけで……ウチの大学はこのレースの結果、2位以上を確定。
来季からは一部で……記録を見る限り、すぐに二部に戻ってきそうだと思ったのは内緒。(実際そうなった……というか、そのぐらい1部と2部のレベルの壁は厚い)
そして、最終競技。
十種競技の最終種目、1500メートル。
よくわからないが、競技日程において最終種目は十種競技の1500メートルで、そのひとつ前はマイルリレーとほぼ決まっているのだそうな。
へえ、そうなんだ……とこの時は頷いたのだが、そんなことは全然決まっていないようだ。
おそらくこの地区における慣例みたいなものなのだろう。
それはさておき、団体での上位を争っている学校は、大抵この競技でも上位入レベルにいるので、応援合戦はそのまま団体での争いに直結。
十種競技は投擲種目も含むため、割と体格がある選手が多い(もしくは短距離・跳躍系)のですが……そういう選手にとって、この1500メートルは地獄なのだとか。
十種競技において、スプリント競技、跳躍競技、投擲競技はそれぞれ3種目ずつ振り分けられ(400が純粋なスプリントかどうかは疑問だが)、1500だけがいわゆるぼっち競技。
二日目の最終種目ということによる疲労に加えて、苦手な種目となると……確かに。
だが、ウチの大学の選手は専門が長距離なんだとか。
え?
聞けば、今年は誰も十種競技に出場しない……じゃあ、俺が出ます。
どういう形にせよ、大会に出られるのは嬉しい……というノリで、春先から棒高跳びとか、投擲種目とかの練習をやっていたらしい。
つまり、これまでの9種目で慣れない地獄道を歩んできたわけ。
そして、彼は最終種目で弾けた。(笑)
ぶっちぎりである。
この地区の大学二部において、レースの駆け引きもあるが1500メートルを4分ちょうどで走ればなんとか決勝に残るぐらいのレベルらしい。
そして彼が叩き出したタイムが、4分8秒。
ちなみに、彼に遅れること約1分……2位の選手がようやく5分を切ってゴール。
なんで十種競技の選手があんなタイムで走れるんだよ?
うわあ、俺十種の選手に負けた!
などの阿鼻叫喚のスタンドの中、うちの大学は大盛り上がり。
ただ残念なことに、見た目は派手でもポイント勝負になるのが十種競技である。
確か、100メートルを12秒2で走って600点ぐらいで、11秒2で走って800点ぐらいと、この種目では1秒の差で200点差がつく。
10秒4で1000点ぐらいと、ここでは0秒8で200点の差が出るように、得点は計算式によって導かれるので、単純ではありません。
まあ、この種目で900点以上稼いだ彼は、入賞圏内にギリギリ滑り込み。
団体優勝こそ逃したものの、ウチの大学にとっては大団円か。
あれ、追い風参考のボーナスポイントあったら優勝してたな……などと思ったのは内緒。
友人の怪我がなければ……あたりの誤算は、どの学校についても言えることだから。
その一方で、ゴールした十種競技の選手が集まって……トラックを一周回り、円陣を組んで声をかけ、Tシャツやら何やらを空高く放り投げる。
おお、なんだかわからないけど、終わりの儀式っぽい。
そしてスタンドから改めて拍手の嵐が降り注ぐ。
それを見ていると、なんとなくですが、ああ、これで終わりかという気分になるから不思議である。
実際はこの閉会式と表彰式(団体)何かがあるのですが。
こうして、初めてのまともな陸上競技大会観戦は終わった。
最終日が楽しかったので、後日、ちょいと関東まで足を伸ばして日本選手権を見に行ったのだが……レベルの高さに感心はしたものの、正直楽しくはなかった。
そういう意味では、対抗戦という形で盛り上げるのが一番簡単な競技なんだろうと思う。
……知り合いがいなかったからという理由もあるかもしれない。
私が陸上競技についてそれなりに詳しくなったのは、これがきっかけだった。
実際調べてみると、ものすごい頻繁に記録会やら競技会が行なわれています。




