表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/200

83話:飯盒炊爨の思い出。

 飯盒炊飯。(はんごうすいはん)

 飯盒炊爨。(はんごうすいさん)

 たしか、中学校の時のイベントでは後者の言葉が使われてました。

 まあ、意味はほぼ同じですけど。

 飯盒を使って、飯を炊く(爨ぐ)。


 と、いうわけで……私が通ってた中学校には、通称秋の遠足と春の遠足がありました。

 秋の遠足はそのまんまの遠足で、春の遠足は、同じクラスの男女合わせて6名ほどでグループを作り、自分たちで昼食を作って食べるというイベントです。

 まあ、野外で行う調理実習みたいなもんですね。

 私が通った中学校では、体育祭が春のゴールデンウイークあたりに開催され、それに続いて春の遠足は5月の中旬ぐらいに(雨天順延)開催。

 ただし、学年別で開催というか、1年と3年のみのイベント。(2年は修学旅行があるため)

 1学年160~200名が、『徒歩』で山の麓の河原までたどりつき、グループごとに事前に決めたメニューを作り上げ……まあ、いろんな悲喜こもごもの笑いと涙、ところにより乱闘が繰り広げられるイベントなのです。

 ちなみに、河原はキャンプ場などではありません。

 水は、近くの公園と神社で調達。

 燃料は、一定量の薪が支給されます。(飯盒でご飯が炊けるぐらいの量)

 食器、調理器具は、飯盒と、飯盒をつるす鉄棒のみ支給。

 自分たちが決めたメニューを作るにあたって、必要と思うものは、全て自分達で用意しなければいけません。

 当然、かまどは河原の石、岩を使って自分たちで組みます。

 火力が足りないと思ったら自分たちで炭を用意するもよし、河原の流木や、山に入って枯れ枝を拾ってくるのもよし。



 ……知ってる。

 高校の時も、大学の時も、この話をすると、『こいつ、どんな田舎出身だよ』という表情で見られたから。(笑)

 それはさておき、このイベントって計画性とかを育むのにかなり優れたイベントなのです。

 時間制限有り、火力制限有り、その中でちゃんと自分たちが昼食を取れるメニューは?

 それを調理できる腕はあるか?

 何より大事なのは、調理器具、材料、必要なら燃料、その他を、各グループが荷物として抱えていかなければいけないことです。

 学校から約6キロってとこでした。

 まあ、往復10キロ以上。

 このイベント、もちろん兄弟姉妹から情報を得る人間も少なくないのですが、だいたい1年生の時に痛い目にあうのです。

 焼肉とかバーベキューなら楽だなどと言い出す男子が必ずいて、材料費はもちろんですが、それ用の鉄板を抱えて移動中に動けなくなるとか、そもそも薪の火力と家庭用のガスの火力の違いが分かってないとか。

 こういうイベントで、調理に失敗してみんなから分けてもらうとかあるらしいですね。

 ははは、我が中学校のこのイベント、救済処置は一切ありません。(笑)

 教師は教師で、事故が起こらないように目を配ってはいますし、軽い指導も行うのですが、自分たちのご飯を作ってますから。

 ええ、教師だって失敗したら飯抜きですよ……失敗しないけどね。

 このイベント、自分たちで決めたならそれで構わないというか、己の分をわきまえるというか、メニューがレトルトカレーでもオッケーなのです。

 ただ、周囲から馬鹿にされるというか。

 俺達すごいだろうという自己顕示欲と、実現可能なラインを見極める冷静な判断力……今なら問題ありすぎの素敵イベントだったのです。


 まあ、私の場合兄が二人いましたからね。

 1年の時は、無難にカレー。

 かまどを組むための手頃な石の争奪戦がひどいことになると聞いていたので、スコップ持参で穴を掘り、高さを稼ぐという順調なスタートをきったのですが。

 カレーなら何度も作ったことがあるから大丈夫……の仲間が、ガスの火力と薪の火力の違いを認識していませんでした。

 材料を炒めてから作るタイプと、炒めずにお湯で煮込んで作るタイプ。

 彼女の家は、後者だったのです。

 ガスと違って薪の火力では、制限時間内に十分火を通すことができなかったのです。

 水を継ぎ足し、具を避けてカレースープにして、きちんと炊けたご飯を食べました。

 全体的に見れば、かなりマシな部類だったようですが、かなり惨めというか、敗北感あふれる状態だった記憶があります。


 そして3年になった私。

 ひそかに、リベンジ精神を滾らせておりました。

 メンバー的に、計画はもちろん調理に関しても自分が主力であることを確認した私は、ほぼ全てのグループが、飯盒のご飯と、おかず一品というメニュー構成になる中、品数を増やすことを敢行。

 1グループでかまどを4つ用意しました。(笑)

 燃料確保に疑問があったため、各個人が家庭で下ごしらえを済ませた(反則)豚汁。

 火力不足を補うために、フライパン2つで肉野菜いいためを連続して調理。

 そして、普通に炊き上がったご飯。

 ホットケーキミックスを使って、食後のデザート。

 かまど4つを用意した時点で周囲に与えたインパクトは絶大でしたが、メイン3品に、簡単とは言えデザートまで用意したのです。

 教師までが感心して、大いに自尊心をくすぐられたのですが……。


 なんか、普通のご飯すぎて、飯盒炊爨って感じがしない。


 仲間から消極的な評価をいただきました。(笑)

 ああ、うんそうだよね。

 遠足って、いわゆるハレのイベントだもの。

 普段の家でのメニューを再現するより、イベントにふさわしいメニューを作るべきでした。

 これで失敗とかすれば、たぶん良い思い出になったんでしょうけどね。

 小賢しい計画で、小奇麗にまとめて……それが楽しいイベントになるとは限らないというか、むしろつまらいものになる、か。

 なんというか、たこ焼きを作ったグループの話を聞いて、ああ、負けたなと思いましたもん。

 飯盒炊爨にわざわざたこ焼きプレートを用意して、ご飯のおかずにたこ焼き。

 いかにもイベントっぽいですし、メニューの取り合わせもツッコミどころ満載でしょうしね。


 グループの6人(私も含めて)のうち、既に二人ほど誰だったか思い出せないような状態ですが、もしみんなにとってこのイベントの記憶が楽しいものでないとか、そもそも覚えてませんみたいな状態だったなら、申し訳ないことをしたなあと。

 いまさら考えてもあれなのですが、今ならどういうメニューを……。(笑)


 故郷を離れて約30年。

 ツッコミどころ満載のこのイベントが今も生き残っているのか、私は知りません。

 焚き火すら許されない時代ですしね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ