75話:ゆすらうめ
どうもかなりマイナーな果実らしい。
一口に田舎といってもいろいろあって、ほんの3キロほど離れたところに住んでいた旧友なんかは『ザクロやアケビを食べたくなるんだよな』などと言う。
ザクロもアケビも秋の果実で……残念ながら私はアケビを食べたことがない。
いわゆる環境なんてものは、思っているよりも狭い空間が反映されるのがこれだけでもわかると思う。
ザクロといえば、一昔前に流行った『ザクロは人間の味がする』というのは、説話というか、鬼子母神のお話を曲解したものだろう。
人間の子供を食べる鬼子母神をたしなめるため、彼女の子供(100人)の一人を誘拐してみたところ、半狂乱になって子供を探し求めた彼女。
子供を失う母親の気持ちがわかったなら、人間の子供を食べるのはやめなさい。
食べたくなったらザクロの果実を食べて我慢しなさい。
この、ザクロの実を食べて……が、誤解というか曲解の元だと思われます。
日本人からすると、ざくろの実は精々10センチぐらいの大きさです。
つまり、ザクロを食べて我慢するというのは、ザクロの味が人間の味に似ていて……と。
さて、この説話は当然日本ではないところのお話が元になってます。
ザクロにもいろいろ種類がありますが、中央アジア(イラン?)原産(北アフリカ説もあったような気がします)のそれは日本に伝わって来る過程で色々と変化してます。
中国の歴史を学ぶというか、昔の資料を調べていると、ザクロがでてきます。
昔から親しまれた歴史ある果実なわけですが、問題なのは大きさ。
当時というか昔の中国のザクロは、子供の頭ぐらいの大きさだったそうな。
つまり、ザクロを食べて我慢するというのは味ではなく、『ザクロの実を子供の頭と思って』食べて我慢しなさいという、大きさを主観に置いたものという解釈が正しいと思われます。
色々と情報過多の現代ならともかく、小さなザクロしか知らない人は、『ザクロ:人間の子供』の変換に際して『味』を連想した……というより、わかってて悪意的に解釈したブラックジョークが広がったものだと私は思います。
はいはい、うんちくうんちく。(笑)
故郷の味というか懐かしい味の条件の一つに、手に入れづらいってのがあると思うんです。
旧友にとってのアケビやザクロのように、私にとって懐かしいもの、子供の頃に何度も味わったもの、今はちょっと手に入れづらいもの。
ここでようやく、サブタイトルの『ゆすらうめ』の登場です。
ちょうど花が散って、実が出来始める頃かなあ……梅雨入りする前の、5月下旬あたりに食べてた記憶があるからたぶんそのぐらい。
自分の常識は世間の非常識という言葉があるように、私としてはかなり馴染みのある果実なのですが、中学、高校、大学……とお年寄りはともかく、同世代の間ではほとんど認知されていない。
形としてはさくらんぼに似ていて、正球ではなくてほんのちょっと細長いイメージ。
時期は初夏ということで、濃い緑の葉が繁茂した枝に、鮮やかな赤い実が映えて美しいものです。
かなり足の速い果実で、多分そのせいで市場にはほぼ出回らない。
摘んで2日ももたなかった様な……。
まあ、ゆすらうめの木が祖父祖母の家の庭にあったというだけのお話。
正直、手入れはもちろん収穫もされずに放置状態だったので、基本は全部私のおやつになってました。
多少知恵がついて、大きくなる前に実の数を制限したりして、甘味を増やしてみようとしてみたりもしたのですが……本当に必要だったのは、花が咲く前の肥料とかそういうものだったんでしょうね。
ちなみに、次兄は柿の木を増やしてました……子供の食欲おそるべし。
さてこの不遇のゆすらうめの木、長兄の家を建てる際に切り倒されて……懐かしの味どころか、幻の味に。
まあ、あっさりと切り倒されたことから察することができるように、味については……。
基本酸っぱいです……手入れ次第で甘酸っぱくなるのかな。
昔は貴重な甘味だったかもしれませんが、現代人の舌にかかると……まあ、今思うとジャムにしたり、ジュースにしたら結構いけそうな気がします。
今調べてみたら、『櫻』という漢字はもともとゆすらうめを指すものだったそうです。
バラ科のサクラ属。
さくらんぼに似てて当然か。




