70話:刃物の手入れについて
なんの道具も持たずに山に登ったりすると、刃物のありがたみが身にしみます。
私が刃物について興味を持ったのは、次兄の影響である。
草刈鎌を砥石でせっせと研いでいる次兄を見たのがきっかけだった……はず。
田舎とはいえ、当時は既に日常的に子供が刃物と関わる機会はかなり減少して、料理の包丁とハサミ、カッターナイフ程度がせいぜいだった。
純粋な農家だと、また話は別なんだろうけど。
次兄に聞いてみたところ、母親に庭の草刈りを命じられたのだが、鎌の手入れが全然出来てないから仕方なく……。
私と次兄は、3つの年齢差があるのだが……ネットはもちろん、書物も十分にない当時において、彼の知識がどこから来てたのか今でも謎だ。
本人曰く、小学校の図書室の蔵書はすべて読破したらしい。
私もほぼ読破したが、知識は得られなかった……解せぬ。
ちなみに、小さな学校だったから図鑑も含めて、蔵書数は1500~2000冊程度だったと思う。
ハ〇カワのSFシリーズとか、超〇力シリーズとか懐かしいなあ。(笑)
話がそれた。
子供である私は、新しい遊び道具を与えられたとばかりに、刃物を研ぐというか、刃物の手入れに手を出してくことになる。
ああ、もちろん野球の自己特訓(笑)の合間に。
刃物の研ぎ方のコツは、わりと直ぐにある程度は掴めた。
『この包丁、すぐに切れなくなる』……などとぼやきながら、簡易包丁研ぎを使う母親を白い目で見つめる程度には。
結局、包丁がすぐに切れなくなるなんて言ってる人間は、使い方が悪いことがほとんどだ。
もちろん、元になる包丁そのものが、どうしようもないというケースもたまにあるが。
一般家庭レベルの使用頻度で言うなら、刃を痛めないように使用していれば、研ぎなんてほとんど必要ない(魚を自分で捌きまくってる家庭だと話は別だが)……世の中に出回っている包丁というか工業製品は、その程度には平均化されていて優秀だ。
月に二度ばかり、研磨剤を含む洗い物スポンジで刃筋に逆らわないように、両側から押さえるように2、3度擦ってやれば10年、20年と使える。
もしかすると刃物としては一番馴染みのあるかもしれないハサミも同じだ。
ハサミの構造を理解して、その構造を痛めないように使用していれば切れなくなるなんてことはめったにない。
少し刃が引っかかるような感触がでたら、前述と同じく、研磨剤を含むスポンジで刃の両側から挟むように洗浄してやれば切れ味を取り戻す。
念の為に言っておくが、スポンジで刃の部分(切る部分)を擦ったら、刃が丸くなって手入れではなくとどめを刺すことになって終了してしまいます。
包丁なら砥石で研ぎ直しもできるが、ハサミでそれをやるのは結構難しい。
次兄のおかげで興味を持ち、実践知識とスキルを多少なりとも取得した私が言うのもなんだが、大学や社会人生活を経験して、刃物に関する知識……といっても、刀などの武器とかの話じゃなく、日常生活に関わる刃物の取り扱い方とか手入れの知識がものすごい勢いで散逸してるのを感じます。
まあ、ハサミや包丁は次々と新しい物を買ってもらわねばまずいってのもあるんでしょう……私のように20年以上同じものを使われたらあれでしょうし。
ただ、私のそれは専門スキルなどではない。
実際にやってみる。
刃物の構造を知り、どうやって切断しているか知る。
切れない状態と、切れる状態の違いを知る。
修正する。
それだけの話である。
ちなみに私は不器用です。
そういえば100円ショップで砥石を売ってる(200円だったが)のをみて驚いた。
でも、荒砥と中砥しか置いてなくて、仕上げ砥がないのには笑った。
いきなりこれに手を出して、荒砥で包丁に研ぎなんて入れたら刃筋がぶっ壊れるのは目に見えている。
ナイフ専門店などに行けば、仕上げ用のオイルストーンを置いているんでしょうけど、家庭用の包丁レベルで、そんなものは必要ない。
と、いうか……荒砥と中砥しか置いてないって、そこはかとない悪意を感じてしまう。
正直、家庭で必要なのは、仕上げ砥だけだと思う……つーか、研磨剤を含むスポンジさえあれば、どうにかなる。
切れ味だけで言うなら、注視して確認できるレベルの小さな欠けがある方が、包丁は良く切れる。
ただ、魚を捌く際に骨に引っかかると厄介だから、おすすめはしない。
そういえば、今でも小学生の図画工作で彫刻刀は必須なのだろうか?
あの彫刻刀セットにも申し訳程度の砥石があったが……あれは、ひどかった。
あれを使って、削り味の悪くなった彫刻刀を、削れなくなった彫刻刀へとクラスチェンジさせた小学生はものすごい数になるんじゃないだろうかと思う。
話は変わるが、書道セットについてくる硯。
売ってる墨汁使う時点で、はたしてあれの存在価値は……どうしても、資本主義的陰謀の香りが消せない。
まあ、既に時代は『包丁?使わないなあ…』の家庭が少なくないそうだ。
調理バサミとピーラーで完結するレベルから、調理する寸前の食材がこちらにございます、の加工済みの食材を購入して調理するレベル、出来合いのもので済ませるレベルなど……まあ、人それぞれですし。
確かに、刃物というか『ナイフは便利だ』といっても、ナイフが便利に使える状況ってのも……わりと限られている。
でも、ハサミとカッターナイフ。
この刃物は、まだまだ現役でいられるだろう。
個人的に、ハサミの手入れは包丁より難しいですが、研磨剤含みのスポンジによるお手入れをお試し下さい。
失敗しても、100円で新しいのが買えますし。(笑)
人生、トライアンドエラーですよ。
……というか、最低でもナイフ、できればナタを持ってから山には入りましょう。




