0073 無名の火
蒸気機関車の汽笛が高らかに鳴り響いた後、徐々に低くなっていく。蒸気機関車はゆっくりと駅に入り、ついに停車した。盧安は自分の荷物を背負って列車を降りた。
空がほんのり白み始め、地平線にはまだ一筋の明月がかかっている。乾燥した冷たく爽やかな北風が真正面から吹きつけ、盧安は思わず綿入れの上着をぎゅっと巻きつけた。この綿入れはあと数時間着なくてはならない。昼には暑くなるらしい。
西域は東方王朝にとって最も西北の領土であり、ヨーロッパにとっては極東の地域である。西域から東方王朝へは河西回廊が接続しており、他の場所は広大な針葉樹林と草原に隔てられている。西域のさらに西北、つまり中央アジア諸国の真北には、高原が広がっている。
この高原の独特な地形により、氷河の融解水はまず東へ流れて西域に達し、その後60度方向を変え、西域から西南へと流れ、西域の諸国へと注ぐ。
この高原と西域が接する部分は比較的なだらかな緩斜面であるが、西側諸国の広大な領土との境界線は、地球上のインドとチベット高原のような天険である。
地形のため、地球世界のインドがどれほどチベットを狙っても無駄である。中国の地形は階段状になっており、鉄道を高原まで敷設できるが、南アジア大陸の平原にいる者が急峻なヒマラヤ山脈を仰ぎ攻めようとしても、たとえアメリカの戦略輸送機をすべて与えられたとしても、鉄道の輸送量には到底及ばない。
戎星では、地形が世界の力関係に対して同様に決定的な役割を果たしているため、西方諸国はより北の高原地域に対して手をこまねいている。西方諸国は西域に対して兵を用いることは可能だが、あまりに遠いため、東方王朝の兵力が西方諸国の河川上流域全体を占拠するのをただ見ているしかない。東方王朝が衰退した時、戎星の西方人は西域を占拠できるかもしれないが、西方人が西域を占領する方法は、依然として貴族の領地を一つ一つ分封するというものだ。時間が経つにつれて、西域の西方人とさらに西の西方諸国との関係も希薄になる。東方が再び強盛になると、朝廷の大軍が東に進み、西域のどの封地の西方貴族も防ぎ止めることはできない。これらの領主たちが西へ援軍を求めた場合、西方諸国が少しもめるだけで、救援はうやむやになってしまう。
そこで、西域を占領した西方の領主たちには三つの選択肢しかなかった。領地を放棄するか、領地で戦死するか、天朝に帰順するかだ。そのうち、領地を放棄して西方へ逃げ帰った者は5分の1を占めた。三千年前には、まだ多くの西方貴族が領地で戦死することを望んだが、ここ千年ほどは、西域で領土を死守することを選ぶ西方貴族は非常に少なくなった。例えば74年前、吉王朝が再び西域を奪取した際、多くの西域領主が連合軍を組織して一戦を交えたが、最後は吉王朝の大軍が一戦で勝利した。西域には再び大軍を召集する力がまだあったにもかかわらず、すべての西域領主たちはあっさりと降伏を申し出る上表を提出した。
74年前から、それらの領主は西域領主であり、もはや西方領主ではなくなった。三千年にわたり、西域は度重なる東西の衝突の中で民族融合が進み、ここの人々は東方の血筋と西方の血統の両方を持つようになった。
盧安が列車を降りると、ここが吉王朝とは異なる異国情緒あふれるスタイルであることに気づいた。ここの家屋の屋根は高くて鋭く、西洋のゴシック様式と東洋の飛檐様式が融合している。通りを行く男女の少なくとも三分の一は外国人だと盧安には見えた。
兵士たちは駅前で整列し、その後、引き継ぎの将校に率いられて駐屯地へ向かった。一方、蒼辟の親兵隊長である青琅は笛を吹き、盧安がいるこの列を二十数台の馬車に乗せて、城の北へと向かわせた。
四時間後、盧安は目の前の豪華絢爛な別荘城を見て、思わず感嘆した。「まったく、退廃的な帝国主義の享楽生活だなあ。」
この大荘園は皇宮や王府の様式を模倣しておらず、いかなる格式を逸脱した点もないが、それでもなお堂々として大気な印象を与える。敷地面積は四百ムー(約26.7ヘクタール)に及び、果樹園や馬小屋を内包している。荘園全体が川沿いに位置し、釣りを楽しむこともできる。
これほど豪華な荘園の新しい主人は盧安ではない。ここは蒼辟の住まいである。高位の将軍として、身の安全を図るために、この荘園にいる使用人を他人に任せることなどできず、自分の息のかかった者たちを用いる。蒼辟が自らの腹心と見なす親兵たちは、この豪華な荘園で起居を共にすることになる。
今、盧安は使用人の服を着て、雑巾で床を拭いている。青琅が盧安に課した要求は、白いタオルでタイルを拭いても、タオルが依然として真っ白な状態を保つことである。
青琅という親兵の隊長は、柔らかい鞭を持って広間を歩き回り、まるで鶏小屋を見回る雄鶏のようだ。現実には床にひざまずいて拭き掃除をしているが、予行演習で周囲の状況を完全に把握している盧安は、今、内心非常に不快である。
不快ではあるが、それでも運命を受け入れるしかない。さもなければ、盧安は馬小屋や便所などの掃除に行くしかないのだ。青琅は蒼辟に対して忠誠心が厚いが、同時に心の狭い奴でもある。
予行演習では、盧安は絶えず床の摩擦係数を変えて、青琅が転んで頭から血を流すようにした。しかし、盧安は現実ではそうしなかった。ここは封建社会であり、自分が気に入らない小物を罰しても、もともと下位にいて抑圧されていた哀れな者たちが、以前の小物の立場に立つと、やはり小物になってしまう。盧安は、自分一人では罰しきれないと感じている。
中央には大荘園の豪華な建物があり、荘園の周囲にある四つの鐘塔が盧安たちの居住場所である。鐘楼が十六回鳴った時、盧安たちは中心建物から撤退し、鐘塔内の自分の宿舎の前に来た。
ドアの前に立って雑然として異臭のする部屋を見つめ、息苦しい中で一日働いた盧安は、心に突然抑えきれない怒りが湧き上がった。部屋の中の散らかったものを見ながら、盧安は思わず独り言をつぶやいた。「どうしてこんな状況に落ちぶれてしまったんだ?!」
せっかくの異世界転移で、旅行気分でリラックスしながら強化を待っていたのに、結局自分の強化はまだ結果が出ず、危険な任務を背負わされ、さらにここでペこぺこしている……
盧安の心に荒々しい焦燥感が芽生えた。予行演習で盧安は突然狂ったように短剣を抜き、楼内の人々に乱暴に斬りかかった。
元一から、予演算の中の世界は寿命が予演算の長さしかない世界だと知って以来、盧安は予演算中での行動がますます放肆になっていった。
予演算の中で、盧安の剣から逃れた生存者は鐘塔の頂上へと走り、必死に鐘塔の頂上にある警報の銅鐘を打ち鳴らした。一方盧安は血腥い廊下を踏みしめ、血まみれの剣を手に鐘塔を出た。鐘塔の外では、青琅の十八騎兵が近づいてきた。盧安は戦利品空間から風神弓を取り出した。気流が弓弦に高圧で集まり、円刃に絡みついた。円刃と周囲の気流は無抵抗界面に包まれて突然発射され、先頭にいた青琅は胴体を真っ二つに切断された。予演算の中で青琅が腰を断たれて流れ出た腸を見て、盧安の心の中には一抹の快感が湧き上がった。
現実では、二人の同室者が、魯安が戸口で一瞬息をのんで立ち尽くしているのを見て、思わず促した。「ツチノコ、早く入ってくれよ。俺は一日中くたくたなんだ。」
現実で、魯安は急に振り返り、その目に宿る恐ろしい殺気に、背後で急かしていた者は思わず一歩後退した。一方、魯安もまた急に動作を止め、手はパックパックから五センチのところで突然止まった。
魯安は少し呆けた後、申し訳なさそうな表情で二人の室友に言った。「すまない。疲れすぎて、さっきは少しぼんやりしていた。」
この時、魯安は心の中で、先ほど予演していた自分の状態に対して非常に警戒していた。なぜなら、さっきの自分はまるで自分らしくなかったからだ。
「なぜ突然、残忍さや血腥さに全く無感覚になったのか?まさか殺戮の場面に次第に慣れてきたのか?もしほんとうにそうなら、この先すべてに慣れてしまったら、俺は一体どうなってしまうんだ?」盧安はため息をつき、つぶやいた。「自由奔放な風、名もなき火がむやみに燃え上がる……最近、本当に俺の悪癖は多い。」
盧安は中に入り、この部屋を片付け始めた。
他の二人は盧安の様子を見て、思わず忠告した。「穿山甲、明日片付けるのでもだめか?今日はこんなに疲れているから、先に休もう。」
盧安は言った。「明日、青琅がもっと疲れるとはどういうことか思い知らせてくれると思う。」
二人のルームメイトは盧安のこの返事を聞き、仕方なく盧安と一緒に散らかった部屋を片付け始めた。
今日は神殿が開く日です。千キロメートル以上離れた吉王朝の都はいつもより賑わっています。多くの選ばれし者たちが都にやって来て、神殿の神の恵みを受けます。
都に位置する神殿は、長さ七キロメートルの青いレンガの城壁に囲まれています。城壁には金色の鎧を着た戦士がいて、むだな人の進入を防いでいます。いわゆる聖殿は、形状が単純な幾何学形の組み合わせです。この建築様式は周囲の古建築とは全く調和しません。
木材やレンガ・石の材料の強度では、このような建築様式は作れません。神殿全体は完全な複合材料で製造され、大量にガラス繊維強化プラスチックが使用されています。
城外で、北頜一行は新平絲一行と出会いました。新平絲は北頜の隊列を見て、何かをほのめかすように言いました。「あなたたちは五人だけを連れて行くつもりですか?」
新平絲の問いに、北頜たちは答えにくそうにしている。司軒は北頜をちらりと見た。北頜は上の空で言った。「今回の強化が完了したら、次の計画がある。君に心配してもらう必要はない。」
「それなら急いだほうがいいわね」彼女は微笑みながら言った。「もし私の助けが必要なら、遠慮なく言ってね。詳しい計画は知らないけれど、今回の任務で皆が何かを得られることを願っているわ。」
北頜は新平絲が去っていくのを見つめ、唇を噛みしめた。
新平絲の態度は非常に寛大で、むしろ王者の風格があり、実質的な利益を一切費やさない王者の風格だった。新平絲がわざわざやって来て寛大な態度を示したのは、実は北頜と対比させ、自分の望む効果を得るためだった。
北頜は元々盧安を軽く抑え込むつもりだったが、手に負えなくなり、今では収拾がつかない状態だ。隊員を管理する際、隊長たちはチームの安定を保つために飴と鞭を使い分けるのが常で、新平絲も例外ではない。北頜は今、盧安に威圧を加えたものの、恩恵を与えることができず、そうなれば彼のチームに少なからず問題が生じるだろう。
今や北頜の率いるチームには離反の兆しが見え、そこへ新平絲がやって来たことで、北頜は司軒の自分を見る目に棘が含まれているのを感じ取った。




