0431 聖人にはなれない
早朝、遠くの明けの明星が輝きを放っている。
日本列島のある埠頭に、一隻の巨大な汽船が停泊している。
宇田は甲板に立ち、傍らで朝の潮風を楽しんでいる様子の淺空明子に尋ねた。「一緒に来ないのか?」
淺空は長い髪を肩のあたりで一束にまとめながら、答えなかった。
「元老会たちは、東進と西拓を同時に進めなければならないと言っていた…」宇田はやや皮肉を込めて言った。「こんな案に君が賛成するとは?二つの案を同時に進めるのは、まったくもって愚かな行為だ。」
淺空は遠くの波を見つめながら言った。「最近、君の周りには人が増えたようだね。彼らからずいぶん面白い話を聞かされたようだ。」
宇田は言った。「しかし、決断を下したのは私だ。東方の誘導薬は我々の予想外で、東方の実力と再び差が開いてしまった。早期の協力ができないなら、彼らを中断させるしかない。」
「それで、君は賭けに勝てると思っているのか?」
「この勝負は必ず勝たなければならない。」
淺空は笑って言った。「それなら行ってこい。」
「なぜだ?」
「聞きすぎだ。」淺空は空間の門へと足を踏み入れた。
淺空が消えた後、宇田から60メートル離れた場所で、船の貨物積み込みを担当する輪廻者が通信機を取り、チームメイトに言った。「交渉失敗、光陰は参加したがらない。彼女は七主锚が集まる危険を感じ取ったのだろう。」
実際、淺空は七大主锚が集まる危険を感じ取ったわけではなく、宇田の今回の行動の態度が頼りにならないと感じ、ついていくのを怖がったのだ。
七時間後、上海の街で、ちょっと変わった小さなイベントが開かれていた。
数軒のスーパーの前で販促活動が行われており、棚には虫肉の缶詰がずらりと並べられているが、一缶も売れない。人々が集まっているのは、缶詰を一個試食し、五十文字の感想を残すと二十元の報酬がもらえるからだ。
虫蛹の味は良くない。タンパク質は非常に高いが、醤油で染められた虫蛹の縞模様は食欲をそそることはない。近くのゴミ箱にはこれらの虫蛹が積まれている——多くの人が缶詰をゴミ箱に捨て、そのまま空き缶を持って賞を受け取りに行く。夏の高温で、この高タンパク質のものはすぐに悪臭を放ち、ハエが舞い寄る。
この虫蛹は盧安の新製品で、目的はこの時期に売り出すことではなく、宣伝だ——少なくとも誰かが極度の空腹のときに、この製品を思い出すように。
ゴミ箱に捨てられたものと、積極的に賞を受け取る人々を見て、盧安は思わず自嘲した。「きっと誰かが私を馬鹿だと思っているんだろう、ふふ。」
今この瞬間、いかなる情緒状態も自らを善良な人士と標榜するものはいない。善良な人士とは心から誠意をもって他人を救おうとする者であり、盧安はただ他人が死ぬのを見たくないだけ、特に身近な誰かが醜い死に様を晒すのを望んでいない。死に直面した時、人は道徳的な境界線を打ち破り、往々にして見苦しいものだ。
盧安は自分がその状況に置かれたら、自分も似たようなものだろうと思う。本当にそういう状況に遭遇したら、跪いて命乞いをし、許しを請うかもしれないと感じている。盧安は自分がどれほど剛直かとは思っていない。ただ、そういった辛い出来事や危機には敏感で、早めに避け、できるだけそのような境遇に陥らないようにしているのだ。日頃から自省せず、死の間際でもなお口が達者で傲慢な英雄たちには、盧安は一杯の酒を捧げるが、決して真似はしない。盧安はもともと臆病な性格で、そのような英雄的な振る舞いは学べない。
第三次超能大会は、あと2日で始まり、正確には39時間後に始まる。盧安は遠くに停泊している巨船を見つめ、思わず息を呑んだ。
この巨船が近づくと、盧安は7つ目の不快な超能クラスターの到着を感じ取った。
この7番目に到着したやつは、盧安の超能に、極めて狂気じみた独特の感覚を与えた。他の超能とは相容れず、常に鋭く対立するような存在感だった。
これがメインストーリーにおける「怒り」の主錨であり、特徴は復讐だ。いわゆる復讐とは、人を損なうことであり、自己の利益になるかどうかは気にしない。これもまた知性があってこその特徴である。もちろん、この特徴はこの時間軸上での紅日帝国末期の神風精神によく似ている。しかし、盧安はどうもこの新しく現れた存在は、常に窮地に慣れすぎていて、この平和な環境にまったくそぐわないと感じている。
夕方、虫肉の販促活動が終わったが、結末は盧安が想像していたものとは少し違っていた。これは平穏にはならない運命のようだ。なぜなら、ある者がわざわざ自分を狙って来たからだ。盧安の予演では回避できるのはわずか十分間だけだったが、今回は一人の怒りが用意周到に放たれたのだった。
「ガチャン」という音とともに、缶詰の缶が盧安の体に当たった。茶色いスープが盧安全身に飛び散った。わずか17歳に見える、襟元を開けた不良風の男が凶暴な顔で盧安を見つめている。彼は口に缶の蓋のプルタブをくわえている。「プッ」と、彼はその缶の蓋を脇に吐き出した。
「誰がこんなものを作れと言ったんだ!」このリンネ者は機嫌悪く問い詰めた。
盧安は笑顔を作って言った、「口に合わないのは分かっていますが、意見に基づいて改善します。」
平手打ちが「パッ」と盧安の顔を叩き、盧安をよろめかせた。このリンネ者は執拗に言った、「こんなものを作ると命に関わるって、分かってるのか!」そして盧安を激しく蹴りつけた。
この轮回者は異常に興奮して盧安に大声で叫んだ。その時、遠くの車から二人の轮回者が駆け寄ってきた。
そのうちの一人の轮回者が、すぐにこの暴走した轮回者を連れて行った。もう一人の轮回者が走り寄って盧安を助け起こし、申し訳なさそうに盧安に言った。「彼の家族が汚染された缶詰を食べてしまって、少し感情的になっているんです。そういえば、なぜ家禽の肉の缶詰をもっと生産しないんですか?メタノールタンパクは家禽の飼料として使えるはずですよね。」
この轮回者はそれとなくほのめかしているようだったが、盧安は心の中でため息をついた。先ほどの出来事で、盧安はこれがどういうことか、もう察しがついていた。
さっき自分を殴ったあの輪迴者は、明らかにこの位面の他の時間線からこの輪迴者チームに引き込まれ、そして再びこの時間線の災害がまだ始まっていない時点に来たのだ。自分を殴った理由は単純で、おそらく元の時間線で彼の親族が変質した缶詰を誤って口にし、食中毒で亡くなったのだろう。
虫肉の缶詰は、比較的寒冷な環境で保存しなければ、衝撃で外殻が変形して空気が漏れると、極めて変質しやすい。そして、そんなものを食べれば、細菌感染は避けられない。この缶詰で家族を亡くしたなら、その缶詰を激しく憎むのは当然だ。実際、盧安は他にも缶詰を生産しており、例えば鶏肉や魚肉などの缶詰もあるが、それらは値段がやや高い。
これが、怒れる輪廻者が「なぜ盧安は虫肉の缶詰を作るんだ」と痛罵する理由だ。彼に言わせれば、もっと良いものを作れるのに、なぜ粗悪品を作って人を害するのか、と。
盧安は怒りではなく、無力感を覚えた。知識と視野の限られた者に、いつまでたってもその理由を説明することはできない。虫は糖類をタンパク質に変換する効率が最も高い種であり、微生物の方がさらに優れているかもしれないが、将来の生産条件の要素を考慮すると、あまりに複雑な生産条件では普及させにくいため、盧安はそれでも虫を選んだ。しかし、多くの生産現場の条件が劣悪なため、必ずや基準を満たさない食品が出来上がってしまう。その食品が誰かにとっての不運となるのだ。
しかし、将来の飢饉に対応するためには、やはりより簡便な方法――虫を生産すること――のほうが普及させやすい。将来がどのような姿になるかは誰にもわからないし、将来、生産力が低下した後、高度な条件を要する食料生産技術がはたして人類を養えるかどうかもわからないのだ。
もちろん、この転生した輪廻者は無名の怒りに心を奪われ、盧安の説明など聞く耳を持たず、怒りの矛先は当然のように盧安へと向けられた。
盧安は立ち上がり、ズボンについた埃をはたいた。
消極的な感情状態で言った。「私は聖人ではない。聖人のように完璧に振る舞うことはできない。」
冷淡な感情状態で思った。「私にできるのはここまでだ。それ以上やるべきかどうか?」
現実では、仲裁に入っていた輪廻者が一言言い放った。「もっと完璧にやれよ。俺たちだってこの世界が良くなるのを見たいんだ。」その輪廻者は、車に引きずり込まれた転生者を指さして言った。「もし彼を満足させられなければ、お前は後悔することになるかもしれないな。」
車で去っていく三人の輪廻者を見ながら、盧安は意味ありげに嘲笑った。「完璧?どれだけの先駆者が、完璧を要求するだけで実際の行動に参加しない人々によって扼殺されてきたのか?」
もう一つの感情状態が予演であの車をロックオンし、心の中で考えた。「ちょっとした事故を起こして、生き残って面倒を起こさせないようにしようか?どうせこの次元に来てやっているのは死亡率の高い仕事だろうし……」
この考えは最終的に他の感情状態によって抑えられたが、別の考えが他の感情状態で芽生えた。
一隻の豪華なクルーズ船が昇る月光に向かって、上海の外縁の海域を航行している。
豪華クルーズ船の上で、六人が超富裕層の身分で、東洋へ休暇に来たという名目で、ここにやってきた。その中には、赫拉を含む自らを神と称する存在たちも含まれている。七つの主錨がこれほど早く集まったことを受けて、彼らは上海の沖合に集まって見物することとなった。
計画者として、彼らはこの自壊で滅びる運命にある世界のために何かをする必要はなく、自ら手を下して何かを破壊する必要もない。真面目に評価するならば、彼らは超能力を授ける能力があるだけで、自身の力は実はそれほど強くない。巻き添えを避けるために、彼らはただ上海の沖合で見物しているに過ぎない。何しろ超能力は性格と相互に対応しているのだ。もし自分自身に超能力を付与してしまうと、世界全体に対する自分の思考に影響を及ぼしかねないからだ。
これらの神々のこの世界での肉体も、後天的に構成されたものである。肉体が人間的な感情を持ってしまうと、任務を遂行する際の理性に影響を及ぼす。
赤いイブニングドレスをまとった赫拉が船首に立っていた。彼女は遠くの輝く都市群を見つめながら言った。「今のところ、メインアンカーたちはまだ衝突していないが、どうやらそれぞれ準備を始めたようだ。そうだ、奧丁、観測の準備はできているか?今回の衝突はかなり激しいはずで、我々の世界に情報の方向性を提供しやすいだろう。」
奧丁は言った。「各区域の降臨システムの準備はすでに完了している。七大メインアンカーのうち半分は死んでしまうのだろうか?」
ポ晟ドンは首を振りながら言った。「全滅しても構わない、どうせまた生命の定位に選ばれるだけだ。この世界での超能力の伝播速度は我々が想像していたよりも速い。向こうでの定位作業はもうすぐ完了するだろう。」




