0285 運命を操る
長く続いた平和は人に錯覚を起こさせる。凡人である盧安も例外ではない。
近年、バカラは盾刃の脅威に対処するため、帝然菲スとの関係は非常に良好で、毎年帝然菲スから大量の物資を輸入しており、双方の年次外交会議もここ数年は円満に終了している。
平和時には、ディ藍菲スはバカラに物資を販売するだけでなく、ドゥンレン帝国やジエンドゥン連邦とも貿易を行っていた。戦争初期、バカラは何度か抗議したが、ここ数年はこの話題を避けるようになった。戦争が激しくなるにつれ、バカラのディ藍菲スへの貿易依存はますます高まり、情勢を見極めたようだ。
しかし、白露がバカラに関する情報を盧安に漏らした後、盧安は自分が間違っていたと悟った。この世界の国と国の関係は地球よりもはるかに残酷だ。地球では第二次世界大戦後、社会ダーウィニズムは大国の公式メディアから姿を消し、各国は人種主義について口を閉ざしている。しかしこの世界では、人種主義が常に強調され、極端な反人類的政策が次々と打ち出されている。
盧安が前世で生きていた世界はあまりにも文明的すぎて、バカラという高原の精霊の末裔を自称する人間たちがこれほど狂気じみているとは、盧安はまったく思いもしなかった。
ディランフィス東部の水源はバカラに由来しており、毎年ディランフィスはバカラから大量の水を購入し、西部の農業用水を確保している。戦後しばらくの間、バカラはこの水購入問題でディランフィスに多くの難癖をつけたが、ここ数年はだいぶ良くなり、毎年タイムリーに下流へ水を放流するようになり、西部全体の農業生産高は年々上昇している。しかし白露が開示した資料によると、バカラは現在上流の多くの地域に秘密の貯蔵施設を建設している。
これらの施設には大量の猛毒化学物質が保管されており、そのうちの一つは地球では非常に有名な化学物質で、枯葉剤と呼ばれている。
オレンジ剤は、地球上の人類史上最大規模の化学戦争で使用された。ベトナム戦争において、アメリカはジャングル地形でのベトナムの優位性を封じ込めるため、この化学物質を大規模に散布した。その影響範囲の広さと被害の深刻さは、日本が投下された2発の原爆をはるかに凌ぐ。21世紀に入っても、ベトナムにおける奇形児の出生率は依然として高いままだ。
白露が明かした状況からすると、バカラは現在のところこれらの化学兵器を放出する兆候はないが、これほど大量の危険物質をディエンリフェイスの上流に放置しておくこと自体がまさに悪夢だ。もしディエンリフェイスがこの問題を解決せずに戦争を起こせば、必ずバカラはこれらの化学兵器を水源に投じざるを得なくなり、戦争を支持するすべての人々は決して晴らすことのできない罪を背負うことになるだろう。
そして白露はこの情報を盧安に漏らし、明らかに盧安がどうするかを理解していた。『霧三』世界での盧安のこのような超災害への対応が、白露にその判断の根拠を与えた。ディランフィスはこの事を知った後、必ず特殊部隊を派遣してこれらの潜在的で巨大な脅威を掃討する。ディランフィスがこれらの区域を破壊する時、白露の提案により、バカラの黒弓組織は翠弓を呼び戻す理由ができる。
元一は白露をこの世界に十数年も潜入させ、白露の最終目的は翠弓のそばにいる五人の穿越者だ。任務のために、白露は精密な計算の後、適切な戦場を選び、戦場の二つの勢力を慎重に選び、このような請君入甕の罠を仕掛けた。
盧安が通信で白露にはっきりとした承諾の表現をした後、通信は終わった。
白露は自分のノート上の、多くの暗号化された情報を含む計画欄の中で、盧安に関するその項目に軽くチェックを入れ、すぐに心の中で考えた。「盧安には、十分な重みのある偶然を用意しなければならない。さもなければ、彼には情報を帝然菲斯上層部に伝える正当な理由がない。しかし、この件に私は関与できない。」
白露は、盧安に「バカラが帝然菲斯上流で化学兵器を備蓄している」ことを知る偶然をどう手配すべきか考えている最中、そこへ突然の訪問者が白露の執務室に押し入ってきた。
その男は一通の命令書を取り出し、その命令書には四人の上層部指導者の印鑑が押されていた。
一見するとこの命令は、白露がここ数年仕事を頑張ってきた労をねぎらい、どこかの地方支部に異動させて責任者を任せるというものだ。しかし白露は、この辞令の背後には、誰かがこの期間中に白露と翠弓とのつながりを断ち切り、それによって白露が翠弓に与える影響力を遮断しようとしていることを理解している。なぜなら、目の前のこの人物は、白露の手帳に記録されている不審な勢力の一つに属しているからだ。この勢力は、あの五人組の異世界転移チームが利用できる勢力の一つでもある。
明らかに、白露を異動させるのはあの五人組の計画の結果だ。彼らは白露が異世界転移者であることに気づいたわけではなく、白露が翠弓に与える影響が大きすぎるからだ。この五人の異世界転移者は、限られた任務期間内に翠弓をさらに自分たちの利益に沿った方向へ導こうとしており、そのために白露にはしばらく黙っていてもらう必要があるのだ。
白露は顔を上げて笑いながらうなずき、「よろしい、明日にも報告に行きます。そういえば、案内役の仕事は近々引き継ぐことになります」と言った。
この知らせを伝えに来た人物は、事がこれほど順調に進むとは意外に思ったが、白露は心の中で「身代わりが見つかった」と考えていた。
白露は再び盧安の通信を呼び出した。
白露の要求を聞いて、盧安は非常に驚いた。
盧安は、白露のこの計画には元一の影があると考えた。というのも、この異世界からの五人組の視点から見れば、これから起こる状況は間違いなく一連の偶然の重なりであり、高次元の介入の痕跡をまったく見つけられないからだ。
盧安はメインワールドでも、外から見れば「運命」と見なされるような布石を打ったことがあるが、振り返ってみると、湯宏康と潘陽の二人を導こうとしたあの試みは失敗だったと気づいた。潘陽は最後まで違和感を感じ取り、結果的に盧安自身が龍部の一部の者の視界に入ってしまった。そして今、白露からもたらされたこの計画は、もし誰にも気づかれずに他人の運命を操りたいのなら、まだまだ学ぶべきことが多いと盧安に思わせた。
通信を切った後、盧安は数ある書類の中からバカラとの商業交渉に関するものを取り出し、電話をかけてバカラ貿易商談会の日程調整を打診した。
この貿易会議は元々代表を派遣して参加する予定だったが、今、盧安は新たな貿易事項を急遽追加し、双方の会談の格式を引き上げたため、自ら足を運ぶことにした。
白露はすでに盧安に情報を伝えていたが、盧安は直接その情報をフィックに渡すことができない。バカラの勢力と接触する機会がどうしても必要だ。そうすれば、どうやってこの情報を入手したのかを説明できるからだ。
そうだ、その理由を詳しく説明する必要はない。帝然菲スの人々に自分がバカラのある勢力と接触しているところを見せればそれでいい。その勢力が実際にこの情報を盧安に伝えたかどうかは盧安が説明する必要はなく、盧安はその勢力から情報を得たと断言すればいいだけであり、帝然菲スもその勢力を連れてきて対峙させることは不可能だ。盧安がその勢力から情報を得たかどうかにかかわらず、その勢力は弁明しづらい。なぜなら白露が提供したこの情報は絶対に正しいからだ。
白露はすでにこのスケープゴートを盧安のために見つけていた。そう、輪廻者が筋書きを自分に有利な方向に変更した際、潜んでいた時空傭兵は輪廻者の改変した筋書きに基づき、サプライズとアクシデントを仕掛ける。こうして、「元の筋書きはむやみに変えるな。変えれば必ずしも幸運の寵児になれるわけではなく、むしろ不運の集積者になる」という口伝えが多くの輪廻者の間で広まったのだ。
盧安は報告書をフィックに提出し、フィックは盧安の意図に気づかぬまま彼の訪問を承認した。
盧安の最近の業務はまさに戦略備蓄の構築であり、バカラとの首脳会談を開くことは別段不思議なことではなかった。そして、会談の開催地として選ばれたのは風光明媚な都市で、偶然にもその都市はバカラのある一族の勢力圏内に位置していた。
地点が決定した後、バカラ家はすぐに準備作業を開始した。
大ホールで、白露は6人の高官に業務報告を行った。
一人の高官が白露に形式的に尋ねた。「将来どこで働きたいですか?」
地図を見て、白露はわざとためらいながら、バカラの北東部の比較的遠隔な山間部を選んだ。
6人の高官は止めず、ただうなずいて言った。「あなたが望むなら、我々が手配します」。
人が集まれば必ず利害が生じる。これら6人の高官は当然ながら白露の選択に満足した。すぐに、この6人は印を押し、同時にこの地域の重要性を説明した。
地図上の山々が連なる険しい地形を見て、白露は尋ねた。「この基地を拡張してもいいですか」。
一人の高官が言った。「もちろん構いませんが、我々にはそれだけの資金がありません」。
白露はうなずいた。「わかった、ここを私が全権で担当すればいいんだな。」




