メアリーの秘密
僕達はアニム王国を出て無事エルフ王国までやって来た。王城に案内されて謁見の間に行くと、美しい女王アイナノアが待っていた。少し話をした後、僕達はそれぞれの部屋に案内された。部屋にはいると見事に整頓され、物凄く広かった。ベッドに寝転んで寛いでいると女性陣が次々と僕の部屋にやってきた。
「どうしたの?」
「一人で部屋にいると落ち着かなくて。シン君の部屋に来ちゃった。」
「私はシンの部屋がどんな部屋か知りたかったのよ。」
「まあ、マギーは素直じゃないのね。私はいつもシン様の近くに居たかったもんですから。」
ミーアがいなくなってから僕の隣に座るのも、僕と手を繋いで歩くのも自然と交代制になっていた。両手が塞がっているといざという時に対応が遅れるので、手を繋ぐのは左手だけだ。
コンコン
「どうぞ!」
すると、メイドさんが僕達を呼びに来た。僕達が大広間に行くとそこには沢山のエルフがいた。それにしてもみんな若くて美男美女ばかりだ。昔の時代にエルフ族が人身売買されたのも分かる気がする。テーブルに置かれている料理もかなり豪華だった。人々の間を通ってひと際奇麗な女性がやってきた。第1王女のアリエルだ。アリエルはいきなり僕の手を掴んできた。
「こちらです。シン様。」
ギンもメアリーもマギーも呆気に取られている。僕達は女王と同じ席に案内された。そこには第1王子のアノーリオンもいた。
「みなさん。心ばかりの歓迎です、どうぞお腹いっぱい召し上がってください。」
マギーがいきなり席を立って料理を取りに行った。女王陛下もアノーリオンもアリエルもお酒を飲んでいるが、未成年の僕達は果実水だ。
「シン殿はいろんな国を旅していると聞きましたが、旅の様子を聞かせてくれませんか?」
「いいですよ。」
最初にアルベル王国について話し、次にナルシア王国、ジパン王国、アラス王国、アニム王国での出来事について話した。
「そうですか~。やはり魔族が暗躍し始めているのですね。」
「はい。すでに魔族四天王の100人隊長を3人倒しました。これから、もっと本格的な戦闘になる可能性があります。」
「嘆かわしいことです。この世界を創造された創造神デウス様も7大神様達も悲しんでおられることでしょう。」
ここで僕は今までのことを含めて考えた。どうして戦争が起こるのか。以前は太古の時代に戦争が発生したようだが、戦争が起こるには何か理由があるに違いない。もしかしたら、・・・・・。
「シン殿。何を考えていたんですか?」
「はい。どうして争いが起こるのか考えていました。」
「シン殿はどうしてだと思いますか?」
「以前、ある人から魔素は善のエネルギーにも負のエネルギーにもなると聞きました。つまり、善のエネルギーが溢れているときは平和になり、負のエネルギーが溢れているときに争いが起こるのかもしれません。」
「つまり魔素が関係しているということですか?」
「はい。仮説ですが、人々の心が喜びで満ちているときは善のエネルギーが生まれ、憎しみや悲しみが溢れているときは負のエネルギーが生まれるのではないでしょうか。」
「なるほど、その通りかもしれませんね。長い年月をかけ、その負のエネルギーがたまると戦争が起こるということですね。」
「はい。」
僕と女王陛下の話を全員が真剣に聞いていた。
「母上。やはり世界樹が枯れかかっているのはそのせいでしょうか?」
「えっ?!」
「そうなんです。シン殿達をお待ちしていたのはそのためでもあるのです。」
「世界樹が枯れかかっているんですか?世界樹はこの世界の魔素を調節している存在だと本に書いてありました。」
「その通りです。その世界樹が数年前から元気がなくなってしまったんです。」
「それって一大事じゃないですか!」
「ええ。ですから、明日にでも是非一緒に世界樹まで行ってください。」
「わかりました。僕達に何ができるかわかりませんが、ついて行きます。」
「ありがとうございます。」
そして、深刻な話はそれくらいにして、その後は飲んで食べて世間話をした。そして、宴会は終了して、僕達はそれぞれの部屋に戻って寝た。その日の夜、メアリーは不思議な夢を見た。
「ここどこかしら。真っ白だわ!」
「メアリー!あなたを呼んだのは私です。」
メアリーの目の前には光り輝く女性が立っていた。眩しくて顔が分からない。だが、その脇には見覚えのある女性が控えている。
「メアリー!久しぶりね。ずっとあなたのことを見ていたのよ。」
「お母様?!もしかして、お母様なの?!」
「そうよ。あなたの母ですよ。」
「お母様~!!!」
メアリーは胸がいっぱいだ。泣きながら母親に抱き着いた。
「寂しい思いをさせたわね。でも、あなたが逞しく生きてる姿を見て、私は嬉しいわ!」
「寂しかったよ~!お母様~!」
しばらくしてメアリーが落ち着いたところで、光り輝く女性が声をかけてきた。
「メアリー!あなたの母があなたから離れたのは宿命なのよ。あなたを成長させるためなの。許してね。」
「どういうことですか?」
「あなたはこの世界の聖女なのよ。聖女としての力を育むためなの。あなたにはシンやギン、マギーとともにこの世界を平和にしてもらいたいの。わかるでしょ?」
「私が聖女?!」
「そうですよ。あなたは元々天使なのよ。マギーと同じね。恐らくあなたもマギーも覚えていないでしょうけどね。この世界を平和にするためにナダル伯爵とマリアの子どもとして転生したのよ。」
メアリーはすべてが信じられない。自分が聖女であること、天使だったこと、何もかも現実味を感じられなかったのだ。
「信じられないようね。この鏡を見て見なさい。」
光り輝く存在が手をかざすとそこに大きな鏡が現れた。メアリーがその鏡を覗くと、鏡の中には背中に白い翼を生やした自分がいた。
「えっ?!これが私?!本当なの?!」
「ええ。本当ですよ。」
ここでメアリーは母親を見た。母親はメアリーに微笑みかけながら頷いていた。メアリーは母親の隣に立っている光る女性が何者なのか理解した。そして、メアリーは光る女性に片膝をついた。
「もしや、あなた様は管理神ディーテ様ですか?」
「そうよ。時が来たのよ。メアリー。この世界に再び混沌が訪れようとしているの。あなた達の力が必要なの。お願いできるかしらね。」
「わかりました。シン君やギンさん、マギーちゃんと力を合わせて世界を平和にして見せます。」
「頼もしいわね。頼みましたよ。」
「メアリー。母はずっとあなたのことを見守っていますからね。頑張るのよ!」
「うん!」
そして朝が来た。




