アニム王国に魔族襲来
いよいよ武術大会が始まった。ベンガルに相手は獅子耳族の男だ。ベンガルが素早い動きで相手を翻弄する。獅子耳族はその動きについてこれない。だが、力は獅子耳族の方が上のようだ。ベンガルの攻撃がすべて防がれる。
「やはりベンガルだな。さすがに速いな。」
「オレの攻撃を防いだお前も大したもんだぜ!」
「お前を倒すために厳しい特訓をしてきたからな。」
獅子耳族が攻撃を仕掛けた。大剣を振り回してベンガルを追い詰めていく。ベンガルが場外ギリギリまで追い詰められたところで、獅子耳族が上段から力一杯大剣を振り下ろした。ベンガルはその攻撃を予期していたのか、横に飛んで刀を振り下ろした。
チェストー
すると、慌てて獅子耳族が大剣で防ごうとしたが大剣が2つに斬れ、獅子耳族の頭のギリギリのところで刀は止まった。
「ま、参った。」
珍しく獣人族の獅子耳族が降参した。ベンガルが獅子耳族に背中を向けて立ち去ろうとした瞬間、獅子耳族の男はベンガルに斬りつけた。
「危ない!」
思わず隣に座っていたメアリーが大声で叫んだ。だが、ベンガルは振り向きざまに刀を素早く抜いて一振りした。すると、獅子耳族の右手が地面に落ちた。
ギャー
「これでお前は2度とその大剣が振れまい!卑怯者には戦う資格などないのだ!」
会場からは割れんばかりの歓声が上がった。
ベンガル ベンガル ベンガル・・・・・・・
少し休憩時間があり、いよいよ2回戦だ。
「シン君。魔族の気配はどうなの?」
「まだないよ。」
「そう。」
最初の試合は犬耳族と猿耳族だ。どちらも身体能力は高い。かなりの接戦になるだろうと思っていたが予想外のことが起きた。猿耳族が手を横に振っただけで犬耳族の身体が2つに切断されたのだ。試合というよりも処刑のようだった。すると、猿耳族の身体から魔族の魔力が溢れだした。
「シン様!」
「ああ、魔族だ!みんな行くよ!」
観客席では悲鳴が上がっている。何が起きたのか理解できていないようだ。猿耳族の身体がどんどん大きくなり、頭から2本の角が出て背中に黒い翼が現れた。そして、彼の陰の中から魔族が4体飛び出した。
「あれはなんだ?!」
「ま、ま、魔族だ!」
「魔族が攻めてきたんだー!」
観客達はパニックになっている。一目散に出口に向かうが結界が張られているらしく誰も外には出られない。
「俺様は魔族四天王シリウス様の100人隊長を任されているサガンだ。降伏してこの俺様に従え!さもなくば、そこの犬耳族のように死ぬことになるぞ!」
サガンの陰から出た魔族達が観客席の四方に散らばっていった。すると、馬耳族の男とベンガルがサガンの前に出た。
「お前達は俺様に逆らうというのか!」
「当たり前だ!誰が魔族の言うことなど聞くものか!この国は我々のものだ!お前達の自由にはさせん!」
「ならば死ね!」
サガンの指からどす黒い蔓が伸び、2人の身体を拘束した。すぐに助けないと2人が危ない。
「ギンが正面の魔族。メアリーは右。マギーは左の魔族を討伐してくれ!僕はサガンの相手をするよ!」
「わかったわ。」
「シン君。目の前の魔族はどうするの?」
「僕が倒すさ。」
全員がそれぞれの方向に散って行った。そして、ギンは魔力を解放してフェンリルの姿に戻り、マギーも背中に翼を出した。僕も魔力を解放する。魔族達は突然観客席に巨大な魔力が現れたことに驚いたようだ。
「なぜ人族がここにいる?き、貴様!サガン様に逆らうのか?」
「うるさい!邪魔だ!」
僕がマサムネを一振りすると魔族の身体は2つに分かれた。そしてそのままサガンの前に舞い降りた。
「もしや貴様はシンか?」
「ああ、そうさ。」
「なるほどな。ラガンやギガンが倒されたのも分かるぞ!お前からは強者の匂いがするからな。だが、俺様は負けないぜ!」
僕はベンガル達を拘束している黒い蔓をマサムネで斬った。
「シン!助かったぞ!だが、その姿は?」
「ああ、これが僕の本当の姿なんですよ。」
僕は魔力を解放したために銀髪が逆立ち、瞳は黄金色に変色している。全身からは光が溢れ出ているのだ。
「サガン。どこからでもかかってきていいぞ!お前の攻撃など僕には通用しないから。」
「舐めたことを言うではないか!」
サガンが魔力をさらに高めていく。空には黒い雲が立ち込め、サガンの全身からは真っ黒いオーラと大量の瘴気が溢れだした。そして、手の爪が鋭く伸びていく。サガンはその爪で攻撃してきた。僕はそれを避けたが地面が大きくえぐられた。
“まずいな~。この攻撃が観客席に当たったら大惨事だ。”
僕は右手を天に向けて結界を張った。虹色のカーテンが観客席を包み込んだ。
「甘い奴だな!観客に被害が出ないようにか!まあいい。どうせお前を殺した後で皆殺しにするつもりだからな。」
「お前達魔族はどうして他の種族を襲うんだ?」
「そんなことは知らねぇな。俺様は誰でもいいから殺せればいいんだよ。」
「そうか。なら、お前は自分が殺されても文句を言わないだろうな。」
「ハッハッハッ 俺様が殺されるわけがないだろう!」
サガンは魔法を放った。頭の角から黒い光線で攻撃してきたのだ。僕は目の前に手を出してそれを防ぐ。すると、瞬間移動して僕の後ろに回り込み、鋭い爪を振り下ろしてきた。
カキン
僕はマサムネでそれを受け止めた。
「なかなかやるではないか。」
「サガン。それがお前の全力なのか?ラガンやギガンより弱いのか?」
サガンの眉間に血管が浮き出た。相当怒ったようだ。
「これならどうだ!」
『シャドウドラゴン』
サガンが魔法で攻撃してきた。僕はそれに対抗するように魔法を放った。
『シャイニングドラゴン』
すると、光の竜が大きな口を開けて黒い竜を飲み込んでいく。
「お前、ジニートとかいう奴より弱いな。まあ、いい。終わりにしようか。」
「き、き、貴様ふざけるな!」
怒り狂ったサガンは鋭い爪で僕に攻撃してきた。僕は刀をしまい、空間収納から剣を取り出した。剣からは眩しい光が放たれている。
「そ、そ、その剣は何なんだ?」
「僕の剣さ。」
「お前は一体何者・・・」
僕が剣を上段から振り下ろすと、サガンの身体が2つに分かれて光の粒子になって消えてしまった。
「終わった~。みんなはどうかな?」
3人を見るとすでに戦い終わって僕が戦うのを観戦していたようだ。3人が僕のところにやってきた。
「シン!なんか武術大会なんか見るよりも、シンの戦いの方がよほど面白かったわよ。」




