西航行11-スミレ様
さて、いろいろ同時進行です。
バタバタごちゃごちゃしています。
メンテ日だという事を、すっかり忘れていた私もバタバタわたわたしています。
天亀の湖から、天界の門へと曲空したハクは、船へと降下していた。
人界との境界付近で、闇黒色の魔物の後ろ姿を見、気を消し、追い掛けた。
魔物が持っている檻が光っている。
神竜の魂が入っている!
ハクは、追い付いた魔物の背中に両掌を当て、治癒の光を極限まで高め、放った。
魔物は、闇黒色から色を取り戻したが、それは一瞬の事で、サラサラと光の粉になり、消え始めた。
「やっと……これで……」
消え入りそうな声が聞こえた。
「……わた……し、も……」
魔人も、その声も、消えた。
ダメだったか……
悔しさで唇を噛み、手に残った檻を見る。
ハクは護竜剣を翳し、檻を開けた。
【ハク、ありがとう。
魔人の魂は感謝していましたよ】
檻から出た天使が、そう言って微笑んだ。
城に飾られている肖像画の顔……
コハク王のお妃様……
天使が祈りを捧げる。
ハクも冥福を祈った。
【助けてくださって、ありがとう。
会えて良かった……】
「スミレ様……ですね?」
【はい】にっこり
スミレは思案していたが、意を決し、ハクと視線を合わせた。
【まだ、神界から出る事を 許されない私が、貴方と会える機会を得られたという事は、今、貴方に伝えなければならない、そう、使命が下されたと判断します。
貴方にとっては、更に重いものを背負わされる事にはなりますが……】
「既に背負っていますから、ひとつや二つ増えたところで誤差でしかありません」
スミレは真っ直ぐハクを見詰め、頷いた。
【翁亀様が懸念して伏せていらっしゃる事にも触れますが……】
今度はハクが頷く。
【私も、最初から知っていれば……と、思う事が、たくさん有ります。
ですから、出来る限り、ありのままに、貴方に話します】
スミレが視線を剣に移す。
【翁亀様のお話とも重複しますが……
それは護竜剣。
護竜宝には、剣、槍、杖、盾、甲が有ります。
護竜宝は、単なる檻の鍵ではありません。
竜を護り、竜の力を増幅し、神竜との強固な絆を結びます。
父が貴殿方に行った事で、アオは私と、サクラはヒスイと、強い絆で結ばれています。
この戦は、神竜が起こしたものです。
ですが、神竜は、地下の境界を越える事が出来ません。
五つの護竜宝の力で、各々、神竜と絆を結び、その神の力で、この戦を終焉に導いてください】
「解りました。
残る護竜槍、早急に見付けます」
【私は、自分の身体を失って……
初めて知りました。
父が神竜である事……ヒスイの存在……
知っていれば、貴殿方を巻き込む事は――】
「いえ、スミレ様。
巻き込まれたなどと思ってはいません!
七人兄弟にして頂けて幸せだと思っています」
【ありがとう……】
【翁亀様から聞きましたよね?
私とヒスイ、アオとサクラの事……】
ハクは頷いた。
【その上での話です。
今は、翁亀様のお話と同様、貴方の胸の内にだけに留めてください。
それで 構いませんか?】
「はい! 他言は致しません。
……知れば、アオとサクラを救えますよね?」
【それは、言いきれませんが……
知らないよりは……救えるのかもしれません。
長い話です。直接、流しますね】
スミレはハクの額に両掌を当てた。
光が流れ込む……
【私は、すぐに戻らなければなりません。
開封は、後でしてください。
私が神の力を得るには……
あと少し、時が必要です。
貴殿方を護りたい……
だから、時が満ちるまで待ってください。
ヒスイの欠片……
それまで、皆を護ってください。
では、また……いずれ……】
スミレは微笑み、消えた。
急いで船に戻るべきだが……
これも無関係とは言い切れねぇよな……
どうする?
ハクは迷ったが、船ではなく、洞窟の自室に戻り、スミレの話を開封した。
スミレの声が語りかける。
――――――
神竜である父・ガーネと、先代天竜女王であった母・ベニは、ハザマの森で出会いました。
母の軍が苦戦していたところを父が助けたのです。
その後、二人は愛し合いましたが、それぞれの戒律や掟により引き裂かれました。
でも、その時、母のお腹には、私達の卵が有ったのです。
戦場で母は産卵しました。
母は卵を隠し、護っていましたが、とうとう、魔物に見つかってしまいました。
母の呼ぶ声に気付いた父が駆けつけた時には、ひとつの卵は割られ、もうひとつを母が深傷を負いながらも護っていました。
父は、割られた卵と、その魂を自分の体内に保護し、母を助けようとしましたが、
母は、護っている卵――つまり、私を逃がして欲しいと懇願しました。
父は母の外套で卵を包み、ハザマの森に近い、祇竜の神殿に預けました。
父が戻った時、魔物の軍は全滅しておりましたが、母も、こと切れる寸前でした。
母は父に、ありがとう、と微笑んで亡くなったそうです。
父は、母の魂も体内に保護し、母の命を奪った剣を拾い、神界に戻りました。
神竜は、きちんと卵から生まれ、成人しなければ、神には成れないのです。
ですから、ヒスイは、保護しているだけでは、いずれ消滅する運命だったのです。
父は、それには耐えられなかった。
ヒスイを消滅させない為には、産卵以降の条件を満たさねばなりません。
神竜か竜の卵にヒスイを託し、孵化させ、その子を成人させれば、神となる条件が整い、たとえ、神にならなくても、神竜の魂として存在し続ける事が出来るのです。
父が、その事を知った時、私は、既に孵化していました。
そこで、父は私の子にヒスイを託そうと考えました。
でも、私は子を成す前に死んでしまった……
このままではヒスイが消滅してしまう。
切羽詰まった父は、ギン様の子に託す事にしたのです。
ヒスイと同腹である私の子になら、託す卵は、二、三も有れば十分だったのですが、
少し血縁が遠くなった為に、神に成っていない父の力では、ヒスイをもっと細かく分けなければならなくなってしまいました。
できれば、十ほどに……つまり、十の卵に……
でも、竜にとって、五つ以上の産卵は命懸けです。
十ともなると、神の力を以てしても不可能。
ましてや、父は神ではありません。
それでも、ヒスイの為には、竜の限界を越えた、同腹の卵が必要だったのです。
七つ……それが、最大の譲歩でした。
そして、父は、自分が神になる道を捨てる事で、運命をねじ曲げ、ミドリ様に七つの卵を産ませ、その全てを孵化させました。
ヒスイの光輪と翼は、竜の身体に預けるには強すぎる為、父は、自分の体内に持っておこう、と考えていました。
ところが、ご存知の通り、七つの卵のうち、二つは死卵に等しかった……
そこで父は、ヒスイの光輪と片翼を、二つの卵の命を繋ぎ止める為に使ったのです。
それまでの過程に加え、光輪と翼を込めた事で、二つの命は、運命をひとつとする程に強く結び付いてしまいました。
更に、竜宝の力を込める事で、強すぎる光輪と翼の力を抑え、二つの命が生きる力を強くしてゆきました。
その時、アオには、私が最期に持っていた万有の盾を使った為に、アオは私と結び付いてしまったのです。
ですが、それに依り、アオの命は繋ぎ止める事が出来ました。
しかし、サクラは……
片翼では足りず、両翼を込めても、何度も何度も危うくなりました。
その度に、父は、自分の魂の欠片や、母の魂の欠片、竜宝などを使って、サクラの命を繋ぎ止めたのです。
母の命を奪った剣……
それが、華雅の四眼なのです。
父は、四眼に呼び寄せられた三眼も手に入れました。
そして、三眼、四眼とも、サクラの命を繋ぎ止める為に使いました。
三眼は、その力の源である宝玉を失い、
四眼は、その力を使い果たし、眠りに就きました。
父は四眼を母の最期の地に埋めました。
今、ちょうど、お義父様が掘り起こしています。
もしかしたら……
四眼が、私を貴方と会わせてくれたのかもしれませんね……
四眼の力は、サクラの内に有ります。
サクラがヒスイと力を合わせ、目覚めさせれば、四眼は甦ります。
アオの封印は……
訳あって、ヒスイが掛けました。
今、その訳を知ったり、封印を解けば、アオが魔に囚われる危険が有ります。
その危険が去るには、まだまだ長い時が必要です。
ですから、私は、神に成る道を選びました。
私と繋がっているアオを護らなければならないから……
貴殿方を護りたいから……
私が神の力を得るには、あと少し、時が必要です。
時が満ちるまで待ってください……
――――――
スミレの言葉は、ここで終わった。
ハクは天井を睨んだ。
翡【スミレ、ハクに話しちゃったの?】
菫【うん。やっぱり……ダメだった?】
翡【聞くまでもないと思うけど?】
菫【でも、もう仕方ないでしょ】
翡【もう『どうしようもない』だよね?】
菫【……怒ってる?】
翡【ん……と、そうじゃない。
時流は、そっち向きなんだ、って思っただけ。
だから、その先を考えないと……
サクラとも一緒にね】
菫【サクラには怒られそう……】
翡【って、わかってて話すんだからぁ】
菫【う……】
翡【記憶が戻ったら、兄様にも怒られるよ】
菫【あ……どうしよう……
ヒスイ、お願い! 助けてっ!】
翡【僕に言われても……
サクラに頼むしかないよ】
菫【兄様とサクラを敵に回したら、
私なんて、滅されちゃうぅ~】
翡【うん。間違いなく滅されるね。
だから、先手を打ちなよ。
僕には、どうしようもないからね】
菫【あら?】
翡【どうしたの?】
菫【ヒスイも『兄様』って……
それに『僕』って……言ったわよね♪】
翡【あ……
でも、それが何?
スミレなんて、『兄様』茶飯事だよ】
菫【記憶が戻る前に、それ、定着させとかない?】
翡【解放したらバレるんだけど……】
菫【そっか~】
翡【他にもバレる事、有ると思うけど?】
菫【う……どうしよう~】




