航路へ13-ハク
前回まで:船は順調に進んでいて、
サクラは眠っていて、
天界では解読が進んでいます。
その後、船は順調に進んでいた。
「明日の昼には航路に戻れます。
これが、明日の航行予定図です」
空龍が睦月に、拡大して描き直し、細かく留意点を書き込んだ海図を渡した。
「毎日、ありがとうございます」受け取る。
歩いて行く空龍の後ろ姿を見送りながら、竜の治療術に感心するばかりの睦月だった。
睦月が船室の窓の灯りを頼りに、受け取った拡大海図を確認していると、ハクが巡視の為に甲板に出て来た。
「ハク様、少々よろしいでしょうか?」
「ああ。どうした? 睦月」
「……ひとつ、お伺いしたい事がございます」
「そんなに 畏まらなくてもいいって~
で、何だ?」ニコッ
「人の無力さ、無知さは、重々承知致しております。
私共は何処まで お供させて頂けるのでしょうか?」
「それか~
それについては最終的に決めるのはアオだ。
だが……参考までに言っておく」真顔になる。
「はい」
「今、人が活動できるのは人界だけだ。
人は飛ぶことも出来ねぇし、たいした術も使えねぇ。
だから、ハザマの森や魔界に行けば、たちまち足手纏いだ。
ハザマの森からは、己が身を守れない者を易々連れて行ける程、甘くはない」
睦月を見る。睦月は頷いた。
「これが事実だが……
人界に残って、やって欲しい事もあるんだ」
「お役に立てるのですか?」
「ああ、もちろんだ。
俺達が魔界に進んでも、人界は人界で魔物に攻め込まれる。
それを知っている者が『いる』のと『いない』のとでは大違いなんだ。
魔物に惑わされない事、それだけで、人は人界をかなり護れるんだ」
「知っている事、ただ、それだけで……?」
「そうだ。
三界の中で、一番 広範囲を占めているのが人界なんだ。
ま、今は地下には行けねぇがな。
人は、力や術に頼らなくても、知る事で、知恵を使う事で、生きていけるんだ。
姫も、くノ一の皆も、もう知っている。
天界が在り、魔界が在り、この二つが争っている事、
人界が巻き込まれている事……
だから、人と人とが争ってる場合じゃない事、魔物に誑かされてる事を広く知らせて、人の知恵の力で人界を護って欲しいんだ」
「解りました。
人の力でも、この世が護れるのならば……
その為に己が力を尽くす事が出来るのならば、嬉しい限りにございます。
もしも、お供が許されましたら、次なる大陸では、諸国の忍達に、この事を知らせるよう努め、最終地をハザマの森入口と致します」
「忍は国の中枢に直結している。
上手くいけば国が動くな♪
頼りにしてるぜっ」ニカッ
「はい!」にこっ
「笑うと可愛いなっ」
「え……あっ……」真っ赤。
「ん♪ ますます可愛いじゃねぇか♪」
俯く睦月の頭を優しく ぽふっとして、
「長として、これから大変だろうが、頑張れよ。
ただ、これだけは忘れないでくれ。
命は、たった ひとつ限りだ。
うっかりだろうが、落とせば後が無いんだ。
大事にしろよ」
ハクが、ひと言ひと言、大事に語った優しい言葉に、睦月は、ただ頷くだけで精一杯だった。
「ま、信じさせる為に竜の姿が必要なら、いつでも言ってくれ」
軽く片手を挙げ、満面の笑みで数歩離れ、竜になって飛ぼうとしたが、
睦月の耳元に顔を寄せ、
「姫様は何を言っても付いて来るだろうから、俺達が絶対護る。
それだけは約束する」
囁いてから、夜空に舞い上がった。
♯♯♯
「睦月の あんな顔、初めて見た~♪
これ、決まりよねっ♪」
物見に居た長月は、帳面の『如月→クロ様』
の上の空白に『睦月→ハク様』と書いた。
そして、見る間に小さくなっていく
白銀の竜を見上げた。
その下方に書かれている文字は、
長月の手で隠れていたが、
一番下には『氷月→アカ様』の文字が有った。
♯♯ 天界 ♯♯
クロは、天亀の湖近くから、ハザマの森に入った。
ムラサキから、次の段階は時空の不安定なハザマの森が、修行の場として最適だと言われた為だ。
この辺り、久しぶりだよな。
そういや、最初に来たのも
この辺りのハズだよな……
「あん時はムチャしたよな……」
自嘲の苦笑を浮かべる。
――――――
人で言えば五歳くらいの幼い頃――
まだまだ遊んでいたいのに、自分と同じ頃に孵化したアオとアカが、サッサと職能を決め、長老の山で修行しており、
三人歳になったばかりのフジまでもが、『薬師になりたい』と、長老の山入りし、内心焦っていたクロは、
反抗心やら、色々な感情が綯交ぜで、落ち着かないままヤンチャばかりしていた。
その日も、お付きの蛟達の目を盗み、屋敷から脱け出したクロは、入る事を禁じられているハザマの森に、ひとりで探検しに行ってしまった。
子供には遥か遠いハザマの森まで飛び、森の中を暫く歩いたが、
「おもしろいもの、なんにもないな……」
ぼやいて、帰る事にした。
が――
来た方向に真っ直ぐ戻ったつもりなのに、どれだけ歩いても出口が見つからない。
「おっかしいなぁ……」
立ち止まっていても出口が来てくれるわけではないので、歩き続けるクロだった……
♯♯♯
「おい、あれ」
「竜のガキか……育ち良さそうだな」
「手土産に捕まえるか」
「俺が向こうに回る」
二匹の魔物がクロを見付け、近付いて行く。
♯♯♯
そんな事など知る由もなく、ハザマの森が どういう場所なのかも、よく知らないクロは、キョロキョロしながら歩き続けていた。
ガササッ!
茂みから手が伸び、クロの尾を掴んだ。
反対側の茂みから別の手が腕を掴む。
!!
クロは反射的に飛んだ。
尾を掴んだ手は、なんとか振り払えたが、腕を掴んだ魔物は、その手を離さず、クロを羽交い締めにしようとした。
クロは、魔物の腕に噛みつき、おもいっきり魔物の腹を蹴り、その勢いで、するりと逃げた。
そして、身を翻し、尾を振って風の刃を放ち、全力で上昇した。
が、いくら昇っても、生い茂る木々の枝から空に抜け出せない。
なんで!? 空どこっ!?
魔物達が追い付いて来た。
クロは上昇を止め、枝をすり抜けながら、時々風の刃を放ちながら逃げた。
「ええい! チョコマカと!」
「もう一度、挟み撃ちだ!」
魔物達が左右に分かれる。
♯♯♯
その頃、ハクは武闘修行の為、ハザマの森に居た。
ん? この気は……
気が逸れたハクに、相手をしている武闘蛟が放った雷が迫る!
ギリギリで、それを躱したハクは、蛟を手で制す。
蛟も気付いており、既に攻撃は止めていた。
ハクに一礼して近付く。
「ハク様、この気はクロ様ではございませんか?」
「やはり、そうか……
魔物がクロを追っている! 磊蛇、行くぞ!」
気を掴み辛いハザマの森で、ハクと蛟は、クロと魔物の気を追った。
♯♯♯
魔物達に何度か挟まれ、どうにか それを躱してきたクロだったが、息が切れ、とうとう挟まれたまま身動きがとれなくなってしまった。
魔物達が迫る。
その時――
二筋の雷が魔物達を襲い、動きを止めたところに、白銀の風が駆け抜け、刃の軌跡が光った。
ハク兄!?
そして、ハクが放った止めの衝撃波で魔物達は跡形もなく消え去った。
「クロ! 大丈夫か!?」
ハクがクロを抱きしめる。
「怪我は無いか?」頭なでなで。
クロは首を振りながら、
「ないよぉ~」
なんとか それだけを言い、ハクの胸に顔を埋めて、大声で泣いた。
「こんな所まで来て……バカだなぁ」
勝手にハザマの森に入った事を咎められるでもなく、優しく そう言われ、
クロは、
ハク兄のために生きたい!
ハク兄のように強くなりたい!
そう、強く思った。
ハクを見上げる。
ハクが優しく微笑む。
そして、二人のお腹が鳴る。
一緒に声を上げて笑った。
こうして、クロにとってハクは超英雄となり、『まねっこ』が始まり――
クロは、職能を調理師に決めた。
――――――
ああ……そっか~
あの島で、霧の中で空に抜けらんなかった時の
妙な既視感は、ここで逃げてた時のか……
んじゃ、曲空の修行 始めっか!
凜「この時のハクって何歳?」
黒「また邪魔しに来たのかよぉ」
凜「聞くだけ聞いたら消えるから~♪」
黒「しゃあねぇなぁ……八人歳だよ」
凜「アオとアカは、どうしてたの?」
黒「二人は、とっくに長老の山に通ってて
正式にヤマ入りしてたって聞いたんだ。
で、アオは医大生で――院生かな?
アカは銀虎で弟子してたよ」
凜「五人歳で大学院生!?」
黒「大学は年齢無関係だからな」
凜「にしても……」
黒「アオはバケモノだからな」
凜「なんか納得……」
黒「六人歳で医学博士だったって、こないだ
キン兄から聞いてビックリしたよ」
凜「もう、言葉が無いわ……」
黒「だろ?
だから、記憶と力が戻ったらスゲーぞ」
凜「そう……
あ! 『銀虎』って?」
黒「天界一の鍛冶屋だよ。
だから、マジで鍛冶師の頂上目指すヤツしか
弟子入りなんてしねぇトコだよ」
凜「アカも凄いのね……」
黒「オレだけだよ。出来損ないは」
凜「クロだって、天界一の調理師なんでしょ?」
黒「いちお、そーだけど……
あの二人に比べたら……
あ……フジも天界一の薬師だからな」
凜「サクラは?」
黒「知らねぇ。そろそろ修行に戻っていいか?」
凜「あ、ごめんね。またヨロシク~」
サクラは竜宝学博士です。




