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三界奇譚  作者: みや凜
第二章 航海編
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航路へ13-ハク

 前回まで:船は順調に進んでいて、

      サクラは眠っていて、

      天界では解読が進んでいます。


 その後、船は順調に進んでいた。


「明日の昼には航路に戻れます。

これが、明日の航行予定図です」


空龍が睦月に、拡大して描き直し、細かく留意点を書き込んだ海図を渡した。


「毎日、ありがとうございます」受け取る。


歩いて行く空龍の後ろ姿を見送りながら、竜の治療術に感心するばかりの睦月だった。


 睦月が船室の窓の灯りを頼りに、受け取った拡大海図を確認していると、ハクが巡視の為に甲板に出て来た。


「ハク様、少々よろしいでしょうか?」


「ああ。どうした? 睦月」


「……ひとつ、お伺いしたい事がございます」


「そんなに (かしこ)まらなくてもいいって~

で、何だ?」ニコッ


「人の無力さ、無知さは、重々承知致しております。

私共は何処まで お供させて頂けるのでしょうか?」


「それか~

それについては最終的に決めるのはアオだ。

だが……参考までに言っておく」真顔になる。


「はい」


「今、人が活動できるのは人界だけだ。

人は飛ぶことも出来ねぇし、たいした術も使えねぇ。

だから、ハザマの森や魔界に行けば、たちまち足手纏いだ。

ハザマの森からは、己が身を守れない者を易々連れて行ける程、甘くはない」


睦月を見る。睦月は頷いた。


「これが事実だが……

人界に残って、やって欲しい事もあるんだ」


「お役に立てるのですか?」


「ああ、もちろんだ。

俺達が魔界に進んでも、人界は人界で魔物に攻め込まれる。

それを知っている者が『いる』のと『いない』のとでは大違いなんだ。

魔物に惑わされない事、それだけで、人は人界をかなり護れるんだ」


「知っている事、ただ、それだけで……?」


「そうだ。

三界の中で、一番 広範囲を占めているのが人界なんだ。

ま、今は地下には行けねぇがな。


人は、力や術に頼らなくても、知る事で、知恵を使う事で、生きていけるんだ。

姫も、くノ一の皆も、もう知っている。

天界が在り、魔界が在り、この二つが争っている事、

人界が巻き込まれている事……


だから、人と人とが争ってる場合じゃない事、魔物に(たぶら)かされてる事を広く知らせて、人の知恵の力で人界を護って欲しいんだ」


「解りました。

人の力でも、この世が護れるのならば……

その為に己が力を尽くす事が出来るのならば、嬉しい限りにございます。


もしも、お供が許されましたら、次なる大陸では、諸国の忍達に、この事を知らせるよう努め、最終地をハザマの森入口と致します」


「忍は国の中枢に直結している。

上手くいけば国が動くな♪

頼りにしてるぜっ」ニカッ


「はい!」にこっ


「笑うと可愛いなっ」


「え……あっ……」真っ赤。


「ん♪ ますます可愛いじゃねぇか♪」


俯く睦月の頭を優しく ぽふっとして、


「長として、これから大変だろうが、頑張れよ。

ただ、これだけは忘れないでくれ。

命は、たった ひとつ限りだ。

うっかりだろうが、落とせば後が無いんだ。

大事にしろよ」


ハクが、ひと言ひと言、大事に語った優しい言葉に、睦月は、ただ頷くだけで精一杯だった。


「ま、信じさせる為に竜の姿が必要なら、いつでも言ってくれ」


軽く片手を挙げ、満面の笑みで数歩離れ、竜になって飛ぼうとしたが、


睦月の耳元に顔を寄せ、

「姫様は何を言っても付いて来るだろうから、俺達が絶対護る。

それだけは約束する」


囁いてから、夜空に舞い上がった。



♯♯♯



「睦月の あんな顔、初めて見た~♪

これ、決まりよねっ♪」


物見に居た長月は、帳面の『如月→クロ様』

の上の空白に『睦月→ハク様』と書いた。


そして、見る間に小さくなっていく

白銀の竜を見上げた。


その下方に書かれている文字は、

長月の手で隠れていたが、

一番下には『氷月→アカ様』の文字が有った。




♯♯ 天界 ♯♯


 クロは、天亀の湖近くから、ハザマの森に入った。

ムラサキから、次の段階は時空の不安定なハザマの森が、修行の場として最適だと言われた為だ。


 この辺り、久しぶりだよな。

 そういや、最初に来たのも

 この辺りのハズだよな……


「あん時はムチャしたよな……」

自嘲の苦笑を浮かべる。



――――――



 人で言えば五歳くらいの幼い頃――


まだまだ遊んでいたいのに、自分と同じ頃に孵化したアオとアカが、サッサと職能を決め、長老の山で修行しており、

三人歳になったばかりのフジまでもが、『薬師になりたい』と、長老の山(ヤマ)入りし、内心焦っていたクロは、

反抗心やら、色々な感情が綯交(ないま)ぜで、落ち着かないままヤンチャばかりしていた。


 その日も、お付きの蛟達の目を盗み、屋敷から脱け出したクロは、入る事を禁じられているハザマの森に、ひとりで探検しに行ってしまった。


子供には遥か遠いハザマの森まで飛び、森の中を暫く歩いたが、

「おもしろいもの、なんにもないな……」

ぼやいて、帰る事にした。


 が――


来た方向に真っ直ぐ戻ったつもりなのに、どれだけ歩いても出口が見つからない。


「おっかしいなぁ……」


立ち止まっていても出口が来てくれるわけではないので、歩き続けるクロだった……



♯♯♯



「おい、あれ」


「竜のガキか……育ち良さそうだな」


「手土産に捕まえるか」


「俺が向こうに回る」


二匹の魔物がクロを見付け、近付いて行く。



♯♯♯



 そんな事など知る由もなく、ハザマの森が どういう場所なのかも、よく知らないクロは、キョロキョロしながら歩き続けていた。


ガササッ!


茂みから手が伸び、クロの尾を掴んだ。


反対側の茂みから別の手が腕を掴む。


 !!


クロは反射的に飛んだ。


尾を掴んだ手は、なんとか振り払えたが、腕を掴んだ魔物は、その手を離さず、クロを羽交い締めにしようとした。


クロは、魔物の腕に噛みつき、おもいっきり魔物の腹を蹴り、その勢いで、するりと逃げた。


そして、身を翻し、尾を振って風の刃を放ち、全力で上昇した。


が、いくら昇っても、生い茂る木々の枝から空に抜け出せない。


 なんで!? 空どこっ!?


魔物達が追い付いて来た。


クロは上昇を()め、枝をすり抜けながら、時々風の刃を放ちながら逃げた。


「ええい! チョコマカと!」


「もう一度、挟み撃ちだ!」


魔物達が左右に分かれる。



♯♯♯



 その頃、ハクは武闘修行の為、ハザマの森に居た。


 ん? この気は……


気が()れたハクに、相手をしている武闘蛟が放った(いかづち)が迫る!


ギリギリで、それを(かわ)したハクは、蛟を手で制す。


蛟も気付いており、既に攻撃は止めていた。

ハクに一礼して近付く。


「ハク様、この気はクロ様ではございませんか?」


「やはり、そうか……

魔物がクロを追っている! 磊蛇(ライダ)、行くぞ!」


気を掴み辛いハザマの森で、ハクと蛟は、クロと魔物の気を追った。



♯♯♯



 魔物達に何度か挟まれ、どうにか それを躱してきたクロだったが、息が切れ、とうとう挟まれたまま身動きがとれなくなってしまった。


魔物達が迫る。


その時――


二筋の雷が魔物達を襲い、動きを止めたところに、白銀の風が駆け抜け、刃の軌跡が光った。


 ハク兄!?


そして、ハクが放った(とど)めの衝撃波で魔物達は跡形もなく消え去った。


「クロ! 大丈夫か!?」

ハクがクロを抱きしめる。


「怪我は無いか?」頭なでなで。


クロは首を振りながら、

「ないよぉ~」

なんとか それだけを言い、ハクの胸に顔を(うず)めて、大声で泣いた。


「こんな所まで来て……バカだなぁ」


勝手にハザマの森に入った事を咎められるでもなく、優しく そう言われ、


クロは、

 ハク兄のために生きたい!

 ハク兄のように強くなりたい!

そう、強く思った。


ハクを見上げる。

ハクが優しく微笑む。


そして、二人のお腹が鳴る。


一緒に声を上げて笑った。



 こうして、クロにとってハクは超英雄となり、『まねっこ』が始まり――


クロは、職能を調理師に決めた。



――――――



 ああ……そっか~

 あの島で、霧の中で空に抜けらんなかった時の

 妙な既視感は、ここで逃げてた時のか……


 んじゃ、曲空の修行 始めっか!





凜「この時のハクって何歳?」


黒「また邪魔しに来たのかよぉ」


凜「聞くだけ聞いたら消えるから~♪」


黒「しゃあねぇなぁ……八人歳だよ」


凜「アオとアカは、どうしてたの?」


黒「二人は、とっくに長老の山に通ってて

  正式にヤマ入りしてたって聞いたんだ。

  で、アオは医大生で――院生かな?

  アカは銀虎で弟子してたよ」


凜「五人歳で大学院生!?」


黒「大学は年齢無関係だからな」


凜「にしても……」


黒「アオはバケモノだからな」


凜「なんか納得……」


黒「六人歳で医学博士だったって、こないだ

  キン兄から聞いてビックリしたよ」


凜「もう、言葉が無いわ……」


黒「だろ?

  だから、記憶と力が戻ったらスゲーぞ」


凜「そう……

  あ! 『銀虎』って?」


黒「天界一の鍛冶屋だよ。

  だから、マジで鍛冶師の頂上(テッペン)目指すヤツしか

  弟子入りなんてしねぇトコだよ」


凜「アカも凄いのね……」


黒「オレだけだよ。出来損ないは」


凜「クロだって、天界一の調理師なんでしょ?」


黒「いちお、そーだけど……

  あの二人に比べたら……

  あ……フジも天界一の薬師だからな」


凜「サクラは?」


黒「知らねぇ。そろそろ修行に戻っていいか?」


凜「あ、ごめんね。またヨロシク~」



 サクラは竜宝学博士です。


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