航路へ12-守護珠
船は竜ヶ島と大陸の真ん中辺りです。
♯♯ 天界 天竜王城 ♯♯
王子達の笏杖は――
これまでは、一度に人界へ赴く王族は、多くても二、三人であった為、その笏杖は、二王の玉座の間に立ててあったが、
今回は七人という事で、玉座の後ろの壁に凹みを作り、そこに笏杖立てを設け、一列に並べられていた。
アオの笏杖は、謁見の際に見える位置にあるが、とてもではないが、触れる事など出来そうにはなかった。
たとえ、王達が不在でも、謁見の間には執事や衛兵が居るので、誰一人として居ない事など、まず有り得ないのである。
「シロ前王様、只今、コハク王様は天兎国に訪問中の為、ギン王様は天馬王様との会談の為、謁見は出来かねますが……
火急の御用でございますか?」
謁見の間の扉前にいた執事が驚いている。
「あ、いや……これは、うっかりしとったわぃ。
ここのところ調べもので寝不足でな。
予定は覚えとったのじゃが、今日の日付を間違えてしもぅとったわぃ」
「ギン王様は、午後、少しでしたら謁見可能ですが、如何いたしましょう?」
「ならば、それまで控えの間で、仮眠をとらせてもろぅてもよいかのぅ」
玉座の後ろの方向を指す。
「畏まりました。
すぐに御用意致します」恭しく一礼。
寝具を入れ、暗くしてもらった控えの間に通され、執事達が退室したのを見届け、シロは玉座の背面側の壁に手を当て、探った。
ここだな……
笏杖立ての為の凹みに沿って、四角く指でなぞる。
その四角の内側に両掌を当て、軽く気を込め、壁を抜き取った。
そして、アオの守護珠をすり替えた。
そっと、壁を戻す。
四角く切った線を、もう一度なぞって見えなくした。
大きな穴だが、凹みに沿っておるから、
玉座側からは、このままでも見えない筈だ。
アオの守護珠を確かめる。
確かに本物。アオの気だ。
これの為に、いくつかある控えの間のうち、この部屋を指定し、
壁を抜いた時に、光で気付かれないよう、部屋を暗くしてもらう為に、仮眠したいと言ったのだが――
寝不足は事実なので、本当に仮眠する事にした。
♯♯♯
扉を叩く音で、シロは目を覚ました。
「入って構わんぞ」
執事が入って来るかと思ったら、ギンが入って来た。
「親父、城でマジ寝か?」
「いや、寝不足で、つい、な」ははは……
「今日は、何か急ぎか?」
「あまり時間が無さそうじゃの……」
「まぁ、コハクが出掛けてるからな。
会談も押したし……で、何だ?」
「キンとハクの王太子の件なんじゃが……」
「留保の理由が判ったのか?」
「ああ、そうじゃ。
魔界の黒幕――何と呼べばよいかのぅ……
ま、其奴が、神竜の魂を集めておってな。
それを追っておるから、今は儀式だ何だで時間を取られる訳には、いかんそぅなのじゃ」
「神竜の魂を、か……
確かに、それは儀式どころでは無さそうだな。
魔界の――そうだな、呼び名か……
単純に『魔王』でいいんじゃないか?
もっと変な呼び名にして、苦情でも言いに来てもらっても構わないが」
愉しげに笑う。
「せめて、魔王の思惑が判るまでは保留だな。
俺は、別に急いでいないから、それで決定としておくさ」
ただ……また、ミドリが騒ぎそうだが……
扉が叩かれ、開く。
「ギン王様、お時間でございます」
「解った。すぐ行く。
では、正式な謁見は、後日」礼。
執事の方を向く前に、『無理するなよ』と、口が動き、ニッと笑った。
そして、王の顔で外套を翻し、部屋から出た。
♯♯♯
その夜、最後の謁見が終わり、ギンは――
何か……違和感が有る……
と、王子達の笏杖と対峙していた。
気を感じ取る事に長けたギンだからこそ判る違和感が、そこには有った。
これだな……
アオの笏杖を手に取り、守護珠に掌を翳す。
精巧に出来ているが、偽物だな。
いつ、誰が、どうやって……
玉座の側から、すり替えるのは、まず不可能。
ならば、背後の壁か?
壁に掌を翳す。
なるほど……隣の部屋から、すり替えたか。
と、なると……ああ、そうか、親父か……
偽物は、アオのだけだな。
アオに何かあったのか?
まさか、本当に行方不明なのか!?
ギンは、先日、ミドリが起こした騒ぎを思い出し、息子達が何処に居るのかを探る事にした。
気を高め、遠く人界へと探りの手を伸ばす――
……キン、アカ、サクラは洞窟だな。
いつも通り、という事は、
何事も起こっていないのか?
ハクは……移動しているな。
ああ、フジの所に行こうとしているのか……
そこは……海なのか。
クロは、何処だ?
……なんだ。天界に来ているのか。
で、アオは?
……………ダメだな。
もっと強くしなければ…………
また、ハザマの森なのか?
ならば、掴めぬか……
いや、俺の勘が『人界だ』と言っている。
これは、外れぬからな。
更に、気を高める。
もしかして……この フジの近くの気が!?
いや、まさかな……
しかし……これしか、それらしき気は無いな。
この弱さ……何が起こっているんだ?
おや? この気は……蒼牙が見つかったのか!
蒼牙の方が、強い気を放っているとは……
キンが王太子を留保した本当の理由は、
ここに有りそうだな……
ギンは探るのを止め、アオの笏杖を戻し、謁見の間を後にした。
♯♯ 人界 竜ヶ峰 ♯♯
アカは工房に戻った後、隣の部屋で眠っているサクラを、視界に入れながら作業をしていた。
道具を取るため動いた時、壁の大きな鏡が視界の隅に入った。
何か光ったか……?
確かめようと隣の部屋に入る。
窓の無い部屋の中には、光る物は何も無かったが、鏡にだけ、光る物が映っている。
鏡の前に立つ。
鏡の中の光は、サクラが抱いて眠る剣であった。
しかし、サクラは何も抱いてはいない。
アカは、サッと黒い長衣を纏い、術を唱え、鏡の中の剣を掴もうとした。
しかし、指が触れる寸前で、剣は消えてしまった……
柄に四玉……もしやあれが、華雅の四眼か?
振り返り、鏡の中で剣を抱いていた時の姿のまま眠るサクラを見る。
フジから、砂漠で、サクラが三眼の玉を集めた話も、今、四眼を探している話も聞いている。
サクラを介して、三眼と四眼が
呼び合っているのか? それとも……
サクラの体に掌を翳してみる。
ここには、剣そのものは無い、か……
だが……この気は……
凜「アカ、四眼の事、知ってるの?」
赤「知らぬ」
凜「つれないなぁ」
赤「…………」
凜「サクラの中に何が有るの?」
赤「まだ判らぬ」
凜「何か気を拾ってたでしょ?」
赤「何か有る。それだけだ」
凜「だけ、ねぇ」




