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三界奇譚  作者: みや凜
第二章 航海編
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航路へ9-海月

 前回まで:一難去って、また一難……


 海底神殿から浮上する途中で居なくなった姫の気を、アオは、蒼牙と三眼の力を借りて探し、それらしい微かな気を追っていた。


 姫の気が、次第に弱くなっている……



前方から、二つの光が弧を描いて近付いて来た。


「アオ殿、掴まってください!」


アオが紫苑の背に掴まると、妖狐達は、光の軌跡を描いて姫に向かった。



 海月(クラゲ)の群れが見えてきた。

中央の、一際 大きく赤い海月の触手が、姫を捕らえている。


海月の群れが角度を下方に変え、潜り始めた。


その先の海底には、巨大な二枚貝が殻を開けていた。


海月の群れが拡散し、三人を囲む。

姫を捕らえている赤海月は、大群から分かれた一団と共に、巨大貝に向かって潜り続ける。


紫苑と珊瑚が、氷結の術を合わせて放ち、突破口を作った。

しかし、海月はどんどん集まっており、群れから抜け出ても、またすぐに囲まれてしまう。


再度、突破口を開き、抜け出ると、二人は空かさず振り返り、氷の盾を張った。

盾に触れた海月達が、氷の塊となり、弾ける。


「ここは私が止めます!!」

珊瑚が盾に念を込め続けながら叫んだ。


紫苑は頷き、姫を追った。


巨大貝の殻が閉じ始める。


姫を捕らえている赤海月だけが貝の中に入り、他の海月達が展開し、立ちはだかる。


海月達から一斉に触手が延びた。


紫苑が凍らせ、アオが断ち砕く。


新たな海月が集まり、また触手が攻めて来る。

際限無い海月の攻撃を防いでいるうちに、貝殻の隙間が狭くなっていく。


 アオ殿だけでも!


紫苑は、海月の群れの僅かな隙間に突進し、急旋回してアオを振り放った。


飛ばされたアオは、海月の群れを抜け、貝殻の隙間に滑り込んだ。


刹那、殻が閉じる。



 アオは暗闇の中、立ち上がり、姫の気を探った。

呼応した蒼牙と三眼の光が、辺りを照らす。


 そこかっ!


赤海月は、貝の奥に穿たれた闇の穴に入ろうとしていた。


アオは、三眼から氷刃を放ち、触手を断った。


触手を失った赤海月は、闇の穴に逃げた。

即座に穴が塞がる。




 姫は動かない。

アオは、光る掌を姫に翳した。


 触手の毒で仮死状態になっているのか……


アオは三眼に両手を添え、掲げた。

三眼が青紫に輝く。

姫に絡む触手に、その光を浴びせた。


触手がキラキラと塵になり、流れ消えた。




 もう一度、光る掌を、姫の額に翳す。

姫の瞼が動いた。


アオが、ひとまずホッとした時、姫がゴボッと息を吐き、両手で口を塞いだ。


「姫っ!? どうした!?」


姫は答えず、苦しげに首を横に振る。


剣の光を当て、目を凝らすと、姫の頭巾が数箇所 溶けていた。


 赤海月の触手が当たると溶けるのか!?


 三眼よ、助けてくれ!


そう祈り、アオは自分の頭巾を、姫に被せた。


姫が目を開けた「……アオ……」


アオは、もう大丈夫、と頷き、微笑んだ。

そして、三眼を咥え、光る手で姫の手を引いて、毒の治療をしながら、貝殻の縁に向かって泳いだ。


 魔物の気配が無くなったから、

 殻が開くかと思ったんだけど……


殻は固く閉じたまま、全く開く気配が無い。




 殻の端、寸分の隙間も無い閉じ口に着いた。

「切先も入らぬな……

縁は固そぅじゃな。ならば……」

元気になった姫が、剣を構える。


「やあっ!!」 ぽよ~ん 「何とっ?!?」


天井を突いたが、殻の内側は、弾力のある粘膜で覆われていた。


「剥がせば切れるかのぅ」

姫は切先で円を描き、粘膜を丸く剥がし取った。


が、周りから粘液が流れ込み、たちまち塞がってしまう。


「むぅ~、厄介じゃ。

のぅ、アオ、二人で――」

振り返ると、アオが 膝を突き俯いていた。


「如何したのじゃ!?」


アオは動かず、返事もしない。


姫は、アオに近付こうとして、首の周りに、何やら纏わり付くものが有る事に気付いた。


 これは? もしや頭巾かっ!?

 ならば、被っておるコレは……?


「アオ! 頭巾を返す!」


アオは手で制した。

ゆっくり顔を上げ、微笑む。


「ならば、交互に使おぅぞ」

アオの顔を覗き込む。


 姫なら、そう言うと思った。

 だから、頭巾の紐は固く結んでいるんだ。


 どういう仕組みかは解らないけど、

 穴が開いただけで、姫は息が出来なかった。


 きっと、紐をちゃんと結ばないと

 駄目なんだろうな。


 そんな頭巾を交互に使うのは、

 この、敵の手の内にいる状況では、

 まず無理だよ。


 三眼のお陰なのかな?

 どうにか息は出来るね。

 ただ……頭痛が酷い。


アオは、ふらりと立ち上がり、三眼を指し、大きく息を吸った。


「息は……出来るのか?」


もう一度、頷き、微笑む。


その時、アオの直ぐ後ろに、闇の穴が現れ、小魔魚の群れがアオの背を襲った!


続けざまの衝撃に、アオは弾かれ、三眼が飛び、どちらも闇に見えなくなった。


姫が、群れに立ち向かう。

剣を振るうと、赤い閃光が放たれた。

横に払うと、弓形に尾を引き飛んだ。


 この剣……凄まじ過ぎじゃ!!


赤い閃光を、続けざまに放ち、小魔魚の群れを蹴散らす。


残り少なくなった小魔魚達は、再び開いた闇の穴に逃げた。


「アオ!! 何処じゃっ!?」


光っていた剣が飛ばされてしまったので、暗くて何も見えない。


 戦っている間は見えたのぅ……


自分の剣を掲げてみる。


赤みを帯びた光が辺りを照らす。


アオが倒れていた。


急いで向かう。


 咥えていた剣は!? 何処じゃっ!?


「アオ! 死ぬなっ!!」

頭巾の紐を解こうとしたが――


 見えぬわの、固いわの……解けぬわっ!


「アオの大バカッ!!」紐を切ろうとして――


 この結びの固さ……

 もしや……切らば、役に立たなくなるのか?


――剣を収めた。


アオの、もう一方の剣を咥えさせてみた。

が、息が出来ている風では無い。


 はっ……

 舞っていて、ワラワの息が出来なくなった時、

 クロは吹き込もうとしておったな……


姫は微かな記憶に至ったが、躊躇っていた。


 クロ……


指を唇に当て、アオを見詰める。



 助けねば、クロが悲しむ!


深く息を吸い込み、アオに吹き込んだ。


二度……三度……


アオの剣が光を帯びる。


「相方を探すからの。光らせてくれぬか?」


剣の光が増し、少し離れた所に、もうひとつの光が生まれた。


「かたじけない」

剣を撫で、急ぎ、光の方へ向かった。



♯♯♯



 アオの意識は、闇の中を漂っていた。

光が射し込み、ほの明るくなる。


 ああ……姫か……ありがとう……

 ……クロ……すまない……


蒼白い光を帯びた剣が現れる。


 ……ああ……そうだ。

 蒼牙だ……やっと分かった……


(蒼牙、また会えて嬉しいよ……)


蒼牙と呼ばれ、剣が応えるように青みを増して輝く。


(ありがとう……蒼牙……

また……一緒に戦ってくれるんだね)


また、輝く。


そして、数回 瞬いた。


(そうか……俺は、水の竜なのか……

ありがとう、もう、息苦しくないよ。

ここを脱出したい。力を貸してくれるかい?)



♯♯♯



 姫が三眼を抱えて、アオの元に戻った時、

蒼牙が輝き、三眼と姫の剣を引き寄せ、アオを囲んで、各々、光の柱を成した。


アオは立ち上がり、三色の光の柱の内に、姫を引き込んだ。


片手で、しっかりと姫を抱きしめ、もう片方の手を天に伸ばし、

「皆の所に戻ろう」微笑んだ。


三色の光柱は、水流と共に絡み合い、虹色に輝く水竜となって、貝殻を突き破り、アオと姫を包んで海面まで運び、天に昇って消えた。


剣は各々の鞘に収まった。




 海月の大群を蹴散らした後、アオと姫を待っていた紫苑と珊瑚と、

空中戦後、二人に加勢していたフジと慎玄が浮上する。


互いの無事を喜び合い、遠く離れてしまった船に戻ろうとしたが、リリスが手を振っていたので――


妖狐と竜は、もう一度、潜って人姿になった。

そして、式神狐を喚び、各々乗って船に向かった。


「竜も、先程の竜に乗れば、よいのではないか?」


「それが簡単に出来れば苦労は無いよ」苦笑。





凜「ねぇ、アカ、蒼牙って、最高位の竜宝剣

  なんでしょ?」


赤「そうだ」


凜「高位の竜宝って、喋るんじゃないの?」


赤「話す」


凜「どうして、蒼牙は黙ってるの?」


赤「聞く者に力が無ければ、竜宝の声は

  聞こえぬ」


凜「じゃあ、今は、アオもサクラも

  力を封じられてるから聞こえないんだ」


赤「そうだ」


凜「ねぇ、アカ、こっち向いてよぉ」


赤「…………」


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