絆の島9-なかよしさん
竜は本能的に人が好きなんです。
そして、長く生きるだけあって、とっても一途です。
朝食後、クロが小屋に戻ると、アオと蛟が出掛けようとしていた。
蛟は、六分儀が入った袋を持っている。
「渡しに行くのか?」
「はい♪
まだ、鏡を調整しないと使えませんので、空龍さんに、お手伝い頂きたく存じまして」
「オレも行っていいか?」
「はい♪」
サクラは? と見ると、誰かと楽しそうに話していた。
♯♯♯
航海士の父娘は、卓に海図を広げていた。
「ちょうど、航路に戻る道筋が、おおよそ決まったので、そちらに伺おうと思っていたんですよ」
「では、それを先に伺ってもよろしいですか?」
二人から説明を受ける。
リリスが悩んでいた箇所は、迂回する事に決めたようだが、その距離は予想より随分と短くなっていた。
「娘から、皆さんが、魔物と戦っていると聞きました。
ただただ、ご無事を祈る事しか出来なくて、申し訳ありませんが……
後の補正は、お任せください」
「いえ、こちらこそ、何の知識も無くて、頼るばかりになりますが、どうか宜しくお願いします」
アオと空龍が、何度もお辞儀しあっているのを、三人は、心から嬉しそうに見ていた。
「そろそろ、よろしいでしょうか――」
と、蛟は卓に六分儀を置いた。
「もう完成したのですか?」
卓に近づいた父娘は、目を見張った。
「これは……」
「はい♪ 本当に偶然なのでございますが、竜のリリスと矢太少年だと存じます」
父娘は涙ぐんでいた。
「まだ、鏡を調整しなければ使えませんので、お手伝い、お願い致しますね」
「はい! もちろん!」
「でも、その前に……
この、至るところにございます、浮き彫りのお話、伺ってもよろしいでしょうか?」
父娘は、更に感激していた。
話の途中で、サクラが加わり、姫が加わり――
皆、紙芝居を見る子供のように、ワクワクしながら父娘の話を聴いた。
浮き彫りの、最後の話が終わった時、
(アオ兄♪、クロ兄♪ キン兄、来たって♪)
(サクラ、先に森で竜になっててくれ)
(うん♪)
皆が六分儀を囲んで、わいわいしている中、サクラは、そっと抜け出した。
姫は、それに気付いたようだが、何も言わなかった。
「キン兄が、不足分の木材を運んで来るんです。
会いますか?」
「金色の竜さんの!?」
「この六分儀をくださった……」
「ええ」
(キン兄に、航海士、連れて行くって伝えてくれ)
(うんっ♪)
♯♯♯
森では、綺桜の竜が待っていた。
皆を乗せ、船を修理している浜とは、反対側の浜に向かう。
木材の山と、人姿のキンが待っていた。
皆を降ろした綺桜の竜に、木材を指す。
サクラが頷き、運び始める。
(どこ持ってくんだ?)
(みんなを乗せたトコ~♪)
(そっか。置いたら戻って来てくれよ)
(うん♪ どっちで戻ったらいい?)
(ん~ 、竜だな)
(わかった~♪)
アオと蛟が、丸太を運んで来た。
それを置いて、キンと航海士父娘を手招きする。
クロは、少し離れた所から、それを眺めていた。
確かに、キン兄、楽しそうだな……
姫がクロに並んだ。
「今日は、誰もサクラにならぬのじゃな」
「今なら、居なくても気づかれないだろ」
「それにしても、クロも、アオも、サクラの真似が上手いのぅ」
「見た目が同じに出来るからな」
「いや、話し方や笑い方、動作の細かい所まで、よく似せられるものよ、と感心したわ」
「その後、立ち上がれないくらい疲れるんだけどなっ」
あはははっ
クロは、くるっと姫に向かい合い、両肩に手を置いて、
「そこでだっ、頼みがあるっ!」
「なっ、なんじゃっ!?」たじろぐ。
「秘密を共有する者として――」
ごくり……
「姫にも、サクラをやって欲しいんだ♪」
満面の笑み。
「な……な……」
「なっ♪ 頼むっ!」姫を拝む。
「何を申すのじゃっ!
如何にすれば、ワラワがサクラになれるのじゃっ!!」
クロは、し~っ、と口の前に指を立てる。
「堂々と見送りに出るワケじゃねぇ。
竜が飛んでから、ちょっと姿を見せて、手を振る程度だ」
にこにこにこ♪
「だから頼むっ!」と、また拝む。
姫が黙ったままなので、クロは顔を上げ、真剣な眼差しで見詰めながら、更に一歩近付く。
「まだまだ、竜は、人に姿を見せることが出来ねぇ。
今、人に混じって――竜が人に化けて、暮らしていると知られれば、オレ達は、人界には居られなくなる。
解るよな?」
再び、姫の両肩に手を置く。
「昨日、人と竜の未来への懸け橋になろうと決めたよな?」
「うむ……」
「だから、オレ達は、人界から追い出されるワケにはいかねぇ。
オレ達は『竜使い』として、竜の姿を、少しずつ、人に見せていきたいんだ。
だから……協力してくれるよな?」
とうとう、姫は頷いた。
「ありがとなっ! 姫っ♪」ぎゅっ!
♯♯♯
「クロ達は、何をしているのだ?」
キンがアオに問う。
「見ての通りとしか……」あははは……
(ほらねっ♪ とっても、なかよしさん♪)
(そう……なのか……)霧の中で一体何が……
(うんっ♪)
♯♯♯
「クロ! やめよっ! 皆が見ておる!!」
「んあ?」…………この状態…………マズッ!!
クロが、振り返り、固まった。
姫は、クロを突き飛ばし、森へと逃げた。
「あ……おいっ! 待てっ!」追う。
森に入った所で、クロは姫に追い付いた。
「悪ぃ、つい嬉しくて――」
「婿に来てくれるのじゃな? 黒之介♪」
「え……ち、ちげーよっ!」浜へと脱兎!
「待つのじゃっ♪」嬉々として追いかける。
♯♯♯
(ふむ、確かに……)あのクロが、こうなるか……
(でしょ♪)
(長老会には打診しておいた)
(ん♪)
(それにしても、楽しそうだな)
(うんっ♪)
遠くで、クロが姫に追いかけられている。
(何故、森で竜にならなかったのだろう……)
(じゃれてるだけだからでしょ♪)
青「そういえば、この物語は最初から
『ハッピーエンド』と断言しているけど、
あの二人の事かい?」
凜「そこまで考えてないよ」キッパリ
桜「じゃあ、どぉして『ハッピーエンド』なの?」
凜「たぶん、キミ達が頑張って、そうしてくれる
って信じてるから~♪」
青「え? それって……」
桜「ホントに、なんにも考えて……」
凜「ないって言ってるでしょ?」それが何か?
青「そうならなかったら?」
凜「外すだけよ~♪」
青「軽い……軽すぎる……」ぼそ
桜「さっすが、凜だねぇ」 こそ
青「そうか、凜だったね」 こそ
凜「何か言った?」
青&桜「なんにもっ!」




