絆の島5-白い竜と少年
前回まで:アオも『サクラ』しました。
姫は、弾みなから小屋に戻った。
扉を開けると、リリスが手帳を閉じたところだった。
「姫様、楽しそうですね♪」
「リリスものぅ♪」
二人の明るい笑い声が、小屋に満ちた。
「そぅいえば、ワラワは、リリスのお父上の名を、聞いておらぬな」
「クリュウ、空の龍と書きます」
「格好よいのぅ!」
「祖母――父の母親が、白い竜の童話が好きで、子供の名前には『リュウ』を付けると、決めていたそうなんです。
父も、その童話が好きで、私の名前は、その白い竜の名前なんです」
「如何な話なのじゃ?」
「引っ込み思案で、友達のいない少年が、ある日、星が降るように輝く夜空を見上げていると、ひとつの星が、だんだん大きく輝いて――」
――――
その星は、少年の方に、降って来ているようでした。
やがて少年は、その星が、白い竜だと気づきました。
白い竜は、少し離れた場所に降り、何かを探しているようでした。
少年は、そっと白い竜に近づきました。
白い竜も、少年に気づきました。
「こんばんは」
鈴のような可愛いらしい女の子の声がして、白い竜が微笑んだ……そう、少年は思いました。
「こんな寂しい夜に、何をしていたの?」
白い竜が首を傾げます。
「ほ、星を……見ていたんだ……」
少年は、やっとこさ答えました。
「キミこそ……何をしているんだい?」
「私、空を飛んでいて、髪飾りを落としてしまったの。
大切なものなのに……」
「ぼくも探すよ! どんなものなの?」
「ありがとう。
私はリリィホワイト。リリスって呼んでね。
探しているのは、きれいな石でできた、花の形の髪飾り……」
「ぼくは……矢太」
少年と、白い竜の女の子は、地面にキラキラするものがないか、探し始めました。
――――
「寝物語で聞いていた、ここからの話は、その日によって違っていて……
少年は白い竜に乗って、世界のあちこちに行って、キラキラ光る髪飾りを探すの」
「見つかるのか?」
「もちろん♪
でも……見つかった時は、お別れの時で……」
「悲しい話なのか?」
「そうじゃないわ。
世界中を探すうちに、引っ込み思案だった少年は成長してて、
『きっと、また会おう』って、明るく別れるの」
「また、会えたのか?」
「もちろん♪
大人になった矢太が、久しぶりに夜空を見上げ、少年だった頃を思い出していると、少しだけ大きくなって、とてもとても美しくなった白い竜が降りて来るの。
その竜の髪には、二人で探した花の形の髪飾りが光っていて……
久しぶりに矢太を乗せて、星降る夜空を飛んだ後、白い竜は言うの。
『あなたが忘れない限り、私は、ここに来ることができるの。
だから……忘れないでね』って。
だから、父も、ずっと竜の事を考えてたと思う。
ここで暮らした十数年の間も、きっと……
竜の事を忘れなければ、いつか竜に会えると……
私、踊り子になって、あちこちの国を訪れながら、この童話の本を探したんだけど、どこにも無くて……
お話を知っている人もいなくて……
祖母も寝物語で聞いただけだって言ってたのよね。
不思議なのよね~
良いお話だと思うのに……」
もしや……
矢太とは、リリスの御先祖なのでは?
この話は、実話が元なのでは?
「リリス……いや、その……白い竜は、人になったりは せぬのか?」
「なるわ! どうして分かったの!?
どうしても必要な時だけなんだけど、可愛い女の子になるの!」
「さ、さよぅか……」圧倒されてしもぅた……
じゃが……これで、実話確定じゃな。
クロ達は、知っておるのかのぅ……
「矢太と白い竜が、髪飾りを探していた時、どこに行っても、大人達は、矢太のことを『竜使いの少年』って呼ぶの。
だから、本物の竜さんと、竜使いさん達に会えて、私、本当に嬉しくって!♪」
リリスは、瞳を輝かせて天井を見上げた。
「きっと、今、父も大はしゃぎだと思うわ♪」
♯♯♯♯♯♯
クロ達は――
竜ヶ峰を通り越して、城下近くに降りていた。
「ちょっと行ってくる。
近道で帰るから、先に洞窟に戻ってくれ」
と、桜色の竜の鼻先をポンッとした。
竜は返事して、上昇した。
クロは、サクラを見送り、城に向かった。
♯♯♯
城の門で、槍を手に仁王立ちしている門番に、
「竜ヶ峰の――」
「黒之介様っ!」ははぁ~っ! と平伏。
「あ……いや……」勘弁してくれ~っ!
「どうして、名が……?」
「次代の殿の御名、その御姿!
当然、存じておりまする!」
ゲッ……
「本日は、如何なる御用にごさいまするかっ」
「御家老様か、志乃様に、お目通り願いたいのですが」
「はっ! 直ちにっ!」
そして――
通された、だだっ広い豪華絢爛な部屋で、ポツンと茶を頂いていると――
パタパタと、微かだが忙しない足音が近付き、志乃が慌てた様子で現れた。
サッと、裾を美しく広げて正座し、指をついて頭を下げた後、顔を上げ、
「何事かございましたか!?」
あったにはあったが……
「いえ、姫様から、お預かり物がございまして」
書簡を差し出す。
志乃は、失礼致します、と手紙を鮮やかな手つきでバッと広げ、一読し、
「すぐに用意致します」侍女に耳打ちした。
侍女が足早に去るのと入れ替わりに、ドタバタと家老が駆け込み――
「何事ですかっ!? まさか姫様に何か!?」
その慌てっぷりの方が何事だよ……
「姫様は、至って、お元気でごさいます」ニコッ
ふぅぅぅ~っと、安堵の息を吐き、
「では、婚儀の日取りの御相談ですか?」
何だよ! どいつもこいつもっ!!
「いえ、御家老様、こちらを……」
志乃が、姫の手紙を差し出す。
家老も一読して、
「船が……そうでしたか。皆様、御無事で?」
「はい。皆、無事でございます」
その時、先程、去った侍女が戻って来た。
後ろに屈強な男達を従えて――
男達は、一人に一箱、重そうに千両箱を抱え、ズシズシと入って来た。
そうか! 船の修理代か!
姫……意外と考えてくれてるんだな……
屈強な男が、一人、二人、……六人、七人……
ちょっと待てっ!!
「そっ、そんなには、必要ないかとっ!!」
「いえ、黒之介様。
また、いつ御入用があるやも知れませぬ。
少々、多目にお持ちくださいませ」
その名前、やっぱ嫌だぁ!
……いや、言ってる場合じゃねぇな……
「荷車も用意致しております。
ゆるりとして頂きたいのですが『大至急』との事でございますので。
ささ、こちらへ――」
外には、大型の荷馬車が待機していた。
屈強な男達が、荷台に千両箱を積んでいく。
確かに、修理代は必要だが……
「ではっ 一箱だけっ!」
ひょいっと一箱 担ぐ。
「そんなっ! 全て、お持ちくださいませ!」
「ではっ! 二箱で、お許しを~っ!!」
もう一箱、ポイっと積んで、走り去った。
随分、走ってから、立ち止まって振り返り、
「失礼致しますっ!」ペコッ
くるっと返って、また走る。
志乃も、家老も、屈強な男達も、呆然と見送った。
クロの姿が見えなくなった時、志乃はハッとして、
「まさか、空箱ではなかろうな!」
屈強な男達を睨む。
「滅相もございません!」
屈強な男達が、慌てて首を横に振った。
こうして、次の殿様は、見かけに依らず馬鹿力持ちである、と城中に広まった。
凜「アカ、もしも、サクラの真似を――」
赤「せぬ」睨み、背を向けた。
凜「いや、会話にならないからぁ」
赤「他を当たれ」フンッ
凜「キン様にも追い出されちゃったからぁ」
赤「…………」暗室に入ってしまった。
凜「サクラ……皆、嫌がってるよ~」
桜「俺は楽しぃよ~♪」
凜「良かったね~」
桜「うんっ♪」




