表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三界奇譚  作者: みや凜
第二章 航海編
66/429

絆の島5-白い竜と少年

 前回まで:アオも『サクラ』しました。


 姫は、弾みなから小屋に戻った。

扉を開けると、リリスが手帳を閉じたところだった。


「姫様、楽しそうですね♪」


「リリスものぅ♪」


二人の明るい笑い声が、小屋に満ちた。


「そぅいえば、ワラワは、リリスのお父上の名を、聞いておらぬな」


「クリュウ、空の龍と書きます」


「格好よいのぅ!」


「祖母――父の母親が、白い竜の童話が好きで、子供の名前には『リュウ』を付けると、決めていたそうなんです。

父も、その童話が好きで、私の名前は、その白い竜の名前なんです」


「如何な話なのじゃ?」


「引っ込み思案で、友達のいない少年が、ある日、星が降るように輝く夜空を見上げていると、ひとつの星が、だんだん大きく輝いて――」



――――



 その星は、少年の方に、降って来ているようでした。

やがて少年は、その星が、白い竜だと気づきました。


白い竜は、少し離れた場所に降り、何かを探しているようでした。


少年は、そっと白い竜に近づきました。


白い竜も、少年に気づきました。

「こんばんは」

鈴のような可愛いらしい女の子の声がして、白い竜が微笑んだ……そう、少年は思いました。


「こんな寂しい夜に、何をしていたの?」

白い竜が首を傾げます。


「ほ、星を……見ていたんだ……」

少年は、やっとこさ答えました。

「キミこそ……何をしているんだい?」


「私、空を飛んでいて、髪飾りを落としてしまったの。

大切なものなのに……」


「ぼくも探すよ! どんなものなの?」


「ありがとう。

私はリリィホワイト。リリスって呼んでね。

探しているのは、きれいな石でできた、花の形の髪飾り……」


「ぼくは……矢太(ヤタ)


少年と、白い竜の女の子は、地面にキラキラするものがないか、探し始めました。



――――



「寝物語で聞いていた、ここからの話は、その日によって違っていて……

少年は白い竜に乗って、世界のあちこちに行って、キラキラ光る髪飾りを探すの」


「見つかるのか?」


「もちろん♪

でも……見つかった時は、お別れの時で……」


「悲しい話なのか?」


「そうじゃないわ。

世界中を探すうちに、引っ込み思案だった少年は成長してて、

『きっと、また会おう』って、明るく別れるの」


「また、会えたのか?」


「もちろん♪

大人になった矢太が、久しぶりに夜空を見上げ、少年だった頃を思い出していると、少しだけ大きくなって、とてもとても美しくなった白い竜が降りて来るの。

その竜の髪には、二人で探した花の形の髪飾りが光っていて……


久しぶりに矢太を乗せて、星降る夜空を飛んだ後、白い竜(リリス)は言うの。

『あなたが忘れない限り、私は、ここに来ることができるの。

だから……忘れないでね』って。


だから、父も、ずっと竜の事を考えてたと思う。

ここで暮らした十数年の間も、きっと……

竜の事を忘れなければ、いつか竜に会えると……


私、踊り子になって、あちこちの国を訪れながら、この童話の本を探したんだけど、どこにも無くて……

お話を知っている人もいなくて……

祖母も寝物語で聞いただけだって言ってたのよね。

不思議なのよね~

良いお話だと思うのに……」


 もしや……

 矢太とは、リリスの御先祖なのでは?

 この話は、実話が元なのでは?


「リリス……いや、その……白い竜は、人になったりは せぬのか?」


「なるわ! どうして分かったの!?

どうしても必要な時だけなんだけど、可愛い女の子になるの!」


「さ、さよぅか……」圧倒されてしもぅた……


 じゃが……これで、実話確定じゃな。

 クロ達は、知っておるのかのぅ……


「矢太と白い竜(リリス)が、髪飾りを探していた時、どこに行っても、大人達は、矢太のことを『竜使いの少年』って呼ぶの。

だから、本物の竜さんと、竜使いさん達に会えて、私、本当に嬉しくって!♪」


リリスは、瞳を輝かせて天井を見上げた。


「きっと、今、父も大はしゃぎだと思うわ♪」



♯♯♯♯♯♯



 クロ達は――


竜ヶ峰を通り越して、城下近くに降りていた。


「ちょっと行ってくる。

近道で帰るから、先に洞窟に戻ってくれ」

と、桜色の竜の鼻先をポンッとした。


竜は返事して、上昇した。


クロは、サクラを見送り、城に向かった。



♯♯♯



 城の門で、槍を手に仁王立ちしている門番に、

「竜ヶ峰の――」


「黒之介様っ!」ははぁ~っ! と平伏。


「あ……いや……」勘弁してくれ~っ!

「どうして、名が……?」


「次代の殿の御名、その御姿!

当然、存じておりまする!」


 ゲッ……


「本日は、如何なる御用にごさいまするかっ」


「御家老様か、志乃様に、お目通り願いたいのですが」


「はっ! 直ちにっ!」




 そして――


通された、だだっ広い豪華絢爛な部屋で、ポツンと茶を頂いていると――


 パタパタと、微かだが忙しない足音が近付き、志乃が慌てた様子で現れた。

サッと、裾を美しく広げて正座し、指をついて頭を下げた後、顔を上げ、

「何事かございましたか!?」


 あったにはあったが……


「いえ、姫様から、お預かり物がございまして」

書簡を差し出す。


志乃は、失礼致します、と手紙を鮮やかな手つきでバッと広げ、一読し、


「すぐに用意致します」侍女に耳打ちした。


侍女が足早に去るのと入れ替わりに、ドタバタと家老が駆け込み――


「何事ですかっ!? まさか姫様に何か!?」


 その慌てっぷりの方が何事だよ……


「姫様は、至って、お元気でごさいます」ニコッ


ふぅぅぅ~っと、安堵の息を吐き、

「では、婚儀の日取りの御相談ですか?」


 何だよ! どいつもこいつもっ!!


「いえ、御家老様、こちらを……」

志乃が、姫の手紙を差し出す。


家老も一読して、

「船が……そうでしたか。皆様、御無事で?」


「はい。皆、無事でございます」



 その時、先程、去った侍女が戻って来た。

後ろに屈強な男達を従えて――


男達は、一人に一箱、重そうに千両箱を抱え、ズシズシと入って来た。


 そうか! 船の修理代か!

 姫……意外と考えてくれてるんだな……


 屈強な男が、一人、二人、……六人、七人……

 ちょっと待てっ!!


「そっ、そんなには、必要ないかとっ!!」


「いえ、黒之介様。

また、いつ御入用があるやも知れませぬ。

少々、多目にお持ちくださいませ」


 その名前、やっぱ嫌だぁ!

 ……いや、言ってる場合じゃねぇな……


「荷車も用意致しております。

ゆるりとして頂きたいのですが『大至急』との事でございますので。

ささ、こちらへ――」



 外には、大型の荷馬車が待機していた。

屈強な男達が、荷台に千両箱を積んでいく。


 確かに、修理代は必要だが……


「ではっ 一箱だけっ!」

ひょいっと一箱 担ぐ。


「そんなっ! 全て、お持ちくださいませ!」


「ではっ! 二箱で、お許しを~っ!!」

もう一箱、ポイっと積んで、走り去った。


随分、走ってから、立ち止まって振り返り、

「失礼致しますっ!」ペコッ

くるっと返って、また走る。


志乃も、家老も、屈強な男達も、呆然と見送った。



 クロの姿が見えなくなった時、志乃はハッとして、

「まさか、空箱ではなかろうな!」

屈強な男達を睨む。


「滅相もございません!」

屈強な男達が、慌てて首を横に振った。




 こうして、次の殿様は、見かけに依らず馬鹿力持ちである、と城中に広まった。





凜「アカ、もしも、サクラの真似を――」


赤「せぬ」睨み、背を向けた。


凜「いや、会話にならないからぁ」


赤「他を当たれ」フンッ


凜「キン様にも追い出されちゃったからぁ」


赤「…………」暗室に入ってしまった。


凜「サクラ……皆、嫌がってるよ~」


桜「俺は楽しぃよ~♪」


凜「良かったね~」


桜「うんっ♪」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ