竜王族5-天魔竜王国の未来
そういえば平和ですよね。
♯♯ 魔竜王国 ♯♯
アオは前魔竜王・明緑に呼ばれ、老竜の神殿を訪れた。
「明緑様、お呼びに与り光栄に存じます」
【少しお話が致したく、失礼ながらお呼び立て致しました。
ご容赦ください】
「いえいえ、私などに そのような――」
【お気を楽にして頂けますか?
私は既に死したる身。
もう、王でも何でもありませんので。
ただ、虹藍の父。それだけです】
「しかし、それでは――」
【では……
天界では、常日頃から御先祖様方とお話しされているのでしょう?
同じように話して頂けますか?】
「そうですか……そうまで仰るのでしたら、同じように話させて頂きます」
【お呼びしたのは、アオ様が、これから……つまり龍神帝王を倒した後、如何にされる おつもりなのかを伺いたかったのです】
「あの……私にも敬称や丁寧な言葉遣いなど、不要でございます。
ただの子孫ですので」
明緑が笑った。【そうですか、では互いに】
「私は……役職や地位などは どうでもよく、ただ、出来得る事ならば、天魔両竜王国の政に携わりたいと願っております」
【兄の補佐のみならず、弟の補佐も、という事ですか?
弟が王でも構わないと?】
「私は第三王子ですので、幼少よりずっと、将来 兄達の補佐をすべく学んで参りました。
それ故、兄達の補佐は当然と思っております。
ただ、それは、これまでは魔竜王国と関われるとは思っておりませんでしたので、それのみを当然としていただけなのです。
同じ竜の国ですので、共に栄えたい。それが今の、私の願いなのです。
サクラが王に成り、私が補佐をする事に、抵抗は全くございません。
サクラの方が器量が大きいので、王に相応しいと思っております。
それに私は、補佐に誇りを持っております。
最高の補佐になる事が目標なのです。
あ……懸け橋にもなれたら、という欲ならばございます」
【お願いしようと思っていた事を、全て先回りされた思いです。
どうか、この国の将来を王、女王と共に担ってください。
お願い致します】
「ありがとうございます!」
「アオお兄様……本当によろしいのですか?」
サクラが虹藍を連れて、曲空して現れた。
「アオ兄、全部 聞いたよ。
長老様が千里眼で流してくれたんだ。
ありがとう……そこまで考えてくれて……」
「サクラ、まだ父上にも、兄さん達にも話していないんだ。
だから決定じゃない。
ただの俺の願望なんだよ」
「でも、アオ兄なら口じゃ負けないから、だいじょぶ♪
もしダメでも、そう考えてくれてる事が嬉しいから、いいんだ」
虹藍も大きく頷く。
「あ……サクラ、大臣殿を止めておいてくれよ。
父上が帰城したら、ちゃんと話すからね」
「ホントだ……また天界に出掛けそうだね。
え!? 城から出ちゃった! 早いんだからぁ」
神眼の無駄遣い的な事をしていた兄弟が、顔を見合せ――
「止めに行くよっ!」
サクラは、虹藍とアオの手を取って曲空した。
「明緑、これから、あの三人が作る国、楽しみじゃのぅ」
【はい、長老様】
♯♯ 地下魔界 ♯♯
(クロ、あの塊は何じゃろぅのぅ)
魔王の影が、鏡から闇黒色の塊を引き出している。
それを岩陰に身を隠したクロと姫が見ていた。
(生命力は感じるんだが……)
(神眼で確かめよ)
(あ……そうだな。姫、一緒に見る練習だ)
(うむ)
(何かが闇に包まれておる……魔人ではないのか?)
(そっか!
これから兵士にするつもりなんだ!)
(助けよぅぞ!)(おう!)
姫がクロの背で水銃を構える。
気を消し……曲空と同時に放水した!
闇に包まれた塊と、それを引き出していた鏡と、作業していた影と、開きかけた闇の穴が、神聖光輝をしこたま浴びた。
鏡の向こうと、闇の穴の向こうからも絶叫が響く。
フジが現れた。
(鏡に放水してくれ!)(はいっ!)
姫は闇の穴の向こうに放水した。
(この向こうは建物じゃ)
(これは……拠点か?)
紫苑と珊瑚が現れた。
(確かめて参ります)姿を消した。
(フジ、そっちは?)
(地下魔界のようですが……)
(では、そちらは私が確かめます)
コギの声だけが聞こえた。
♯♯ 地上魔界 人界への通路前 ♯♯
「大臣!」虹藍が呼び止めた。
「御揃いで……何事か御座いましたか?」
「どちらに向かわれていらっしゃるの?」
「それは――」
「天竜王城なのでしょう? 何の御用で?」
「たいした用では御座いません」
「兄の意向を確かめる為――ですよね?」
「お見通しですか……
回って参りました書類を拝見致しました。
そこに、この国の将来をお任せ出来る方を見つけましたので、お願いに伺おうと致しておりました」
「その思いは嬉しいのですが……
先に相談してくださいね」表情を和らげる。
「まだ、天竜王や王太子には相談しておりませんが――」
消していた姿を現した。
「アオ様……」
「私自身は、天魔両国の政に携わりたい、そう考えております。
大臣殿に動いて頂ける程の力が有るのか、自信はございませんが、お招き頂けたと信じ、実現に向けて行動に移しますので、今暫くお待ちください」
「ああ……安堵致しました……」
「こんな若輩者に、涙をお流しになる程の価値などございませんよ。
これから、ご指導お願い致します」礼。
「滅相も御座いません!
どの案件を拝見致しましても、ただただ感服するばかり!
私など足元にも及びません!」
「しかし、こちらの事は、最もお詳しい筈。
どうか宜しくお願い致します」更に礼。
大臣が口を開こうとした時、サクラの千里眼が鳴った。
「フジ兄、どぉしたの? ……うん。
一緒にいるよ。……すぐ行くね!」アオを見る。
「大臣殿、地下に行かねばならないようです。
虹藍様をお願い致します」
アオとサクラは曲空した。
――地下魔界。
(どっちか、この穴 保ってくれ!)
(こちらの鏡もお願いします!)
サクラが穴に、アオが鏡に手を当てた。
(穴の向こう、紫苑さんと珊瑚さんがいるの?)
(ああ。入ってくれたんだ)
(閉じ始めたから呼んで貰ぅたのじゃ)
(保てるか?)
(もっちろ~ん)
(こちらは、コギ殿だね?)
(はい)
(この向こうは地下魔界……牛魔国だね)
(そこまで分かるのですね)
(なんとなくね)
アオは片手で鏡の道を保ち続けながら、もう一方の手で魔人達を浄化し始めた。
(あ……)フジが鏡から離れ、神竜を浄化する。
(この方々を牛魔国から、穴の向こうに連れて行こうとしていたんだね?)
(そう見えたから水を掛けたんだ)
(また静かになったと思っていたら、とうとう兵士がいなくなっていたんだね。
サクラ、各国に魔王の闇を検知する竜宝を配備しよう)
(うんっ)
コギが神竜を連れて戻った。
(アオ様、この方をお願い致します。
私は各国に知らせて参ります)
(コギ殿、後程、検知する竜宝を配備します。
合わせてお知らせください)
(畏まりました)
(アオ、結界を強化するからな)【任せよ】
アカと金虎が現れた。
(よく ここが分かったね)
(サクラに呼ばれた)
(フジ、浄化を頼むね。サクラ、行こう)
(クロ兄、また閉じ始めたら呼んでねっ)
アオとサクラは姿を消し、闇の穴をくぐった。
魔【何度言えば解るのだ!
何故、攻撃の手を休める!?】
影「兵と拠点の不足が――」
魔【集めよ! 奪還せよ!
簡単な事ではないか!?】
影:それが容易なら、とっくに――
魔【何を押し黙っておるのだ!
動け! 兵を集めよ!】
影「結界にて地下魔界が覆われ、
手が出せないので御座います」
魔【破壊せよ!】
影:それが出来れば苦労は――
前【この鏡を与える。
破壊出来ぬならば、通り抜ければよい。
お前も少しは考えよ。若造】
魔【グッ……】
影:龍神帝王様が叱られてる……
意外と立場が弱いのか?
あの御方は先代なのかな?
魔【何を見ておる! 早く行けっ!!】
影「はっ!」
あ~、ヤバいヤバい。
不機嫌全開だよ。ったく!
確か、影って反抗心を抱かないのでは?
不平不満は湧くのでしょうか?




